【一年後】
未来のことに不安しかないけれど。今悩み続けても仕方ないから。
我慢して目を閉じて、疲れはててそして休んで、そうやって今をどうにかするしかないんだ。
一年後、あの時はきつかったけどどうにかなったな、って言えるために。
【初恋の日】
幼稚園の頃、手をつないで移動って時に、まるでエスコートするかのように手を差し伸べてくれた子に、ときめいたのを覚えている。
まだ、入園したての、桜が咲いていた頃。その日が自分の、初恋の日。
「あの時かっこよかったんだけどー」
「今はダメなの?」
ニヤリ、とこっちを向いてくる。
「ダメダメ、全然ダメ」
「そこまで言うかなあ」
そう言うと、手を出して、
「ほら、行くよ」
あの時と変わらず、エスコートの手つきで。
だから自分も、あの時と同じように手を重ねる。
空に、桜の花が映えていた。
【明日世界が終わるなら】
「明日世界が終わるなら、どうする?」
「どうって」
「何かやる?ってこと」
そう聞かれたから、ちょっと考えて、
「今のうちに、会いたい人に会って」
「で?」
「言いたいこと言っておく。親には育ててくれた感謝とか、友達には、まあ挨拶とか」
言うと、そいつは笑顔で、
「俺には?」
なんて言うから、
「それよりお前ならどうするんだよ」
敢えて話を逸らす。そいつは笑顔のまま、空を仰いで、うーん、ってうなって、
「お前の挨拶まわりに同行する」
「なんだそれ」
笑うと、やっぱり笑顔で、
「そうしたら、最後までお前と一緒にいられるじゃん」
逆光のそいつを見上げ、鼻の奥が痛くなる。
「なんだよそれ」
だから、視線逸らして、ごまかして。そいつの脇腹に肘をぶつけて、ふざけてみる。
(世界が終わるまで、ずっと一緒に)
嬉しさで、涙をこらえて。
【耳をすますと】
雑音をカットするヘッドホンをする。駅前の、花壇がある壁にに体を預けて、目を閉じる。
いらない音が多すぎるのだ、何もヘッドホンからは音楽も声も聞こえないままに。その方が心地好い。
(いや)
タッタッタ、とリズミカルなようで、たまにずれる足音だけ聞こえる。あれは、そうだ。
「ええっ?なんでヘッドホンしてたのに気付いたの?」
ヘッドホンをずらして目を開くとそこに、待ち合わせしていた友人の驚く顔があった。だって、
「聞こえたから」
耳をすましたら、一番大切な音なら聞こえるから。答えに納得してない友人と共に歩き出す。ざわざわした中で、唯一の音と共に。
【二人だけの秘密】
それは、お菓子なんかの袋をとめる為の、金色のビニールみたいなのがついた針金に大きな赤いビーズを通して指のサイズに丸くしただけの、指輪というにはあまりにもなものだけれど。
「やくそく」
「うん、ずっといっしょだよ」
幼い自分達には、どんな宝石よりも輝くもので。二人でそっと、誰もいない幼稚園の片隅で、指輪をはめ合う。くすくす笑う。
そんな、昔の思い出を、未だにしまってあっただけで。
「約束、守れなかったね」
彼女の指には何もなく。彼女の指先は冷たく冷えて。
「ごめんね」
涙は出なかった。けれど、彼女の顔を見ると、苦しくなってきて、直視出来なかった。
あの指輪は、鞄の中でまだ輝いていた。