はじめ

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【二人だけの秘密】

それは、お菓子なんかの袋をとめる為の、金色のビニールみたいなのがついた針金に大きな赤いビーズを通して指のサイズに丸くしただけの、指輪というにはあまりにもなものだけれど。
「やくそく」
「うん、ずっといっしょだよ」
幼い自分達には、どんな宝石よりも輝くもので。二人でそっと、誰もいない幼稚園の片隅で、指輪をはめ合う。くすくす笑う。
そんな、昔の思い出を、未だにしまってあっただけで。

「約束、守れなかったね」
彼女の指には何もなく。彼女の指先は冷たく冷えて。
「ごめんね」
涙は出なかった。けれど、彼女の顔を見ると、苦しくなってきて、直視出来なかった。
あの指輪は、鞄の中でまだ輝いていた。

5/3/2024, 12:23:10 PM