はじめ

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5/7/2024, 1:26:30 PM

【初恋の日】

幼稚園の頃、手をつないで移動って時に、まるでエスコートするかのように手を差し伸べてくれた子に、ときめいたのを覚えている。
まだ、入園したての、桜が咲いていた頃。その日が自分の、初恋の日。

「あの時かっこよかったんだけどー」
「今はダメなの?」
ニヤリ、とこっちを向いてくる。
「ダメダメ、全然ダメ」
「そこまで言うかなあ」
そう言うと、手を出して、
「ほら、行くよ」
あの時と変わらず、エスコートの手つきで。
だから自分も、あの時と同じように手を重ねる。
空に、桜の花が映えていた。

5/6/2024, 12:06:11 PM

【明日世界が終わるなら】

「明日世界が終わるなら、どうする?」
「どうって」
「何かやる?ってこと」
そう聞かれたから、ちょっと考えて、
「今のうちに、会いたい人に会って」
「で?」
「言いたいこと言っておく。親には育ててくれた感謝とか、友達には、まあ挨拶とか」
言うと、そいつは笑顔で、
「俺には?」
なんて言うから、
「それよりお前ならどうするんだよ」
敢えて話を逸らす。そいつは笑顔のまま、空を仰いで、うーん、ってうなって、
「お前の挨拶まわりに同行する」
「なんだそれ」
笑うと、やっぱり笑顔で、
「そうしたら、最後までお前と一緒にいられるじゃん」
逆光のそいつを見上げ、鼻の奥が痛くなる。
「なんだよそれ」
だから、視線逸らして、ごまかして。そいつの脇腹に肘をぶつけて、ふざけてみる。
(世界が終わるまで、ずっと一緒に)
嬉しさで、涙をこらえて。


5/5/2024, 2:22:09 AM

【耳をすますと】

雑音をカットするヘッドホンをする。駅前の、花壇がある壁にに体を預けて、目を閉じる。
いらない音が多すぎるのだ、何もヘッドホンからは音楽も声も聞こえないままに。その方が心地好い。
(いや)
タッタッタ、とリズミカルなようで、たまにずれる足音だけ聞こえる。あれは、そうだ。
「ええっ?なんでヘッドホンしてたのに気付いたの?」
ヘッドホンをずらして目を開くとそこに、待ち合わせしていた友人の驚く顔があった。だって、
「聞こえたから」
耳をすましたら、一番大切な音なら聞こえるから。答えに納得してない友人と共に歩き出す。ざわざわした中で、唯一の音と共に。

5/3/2024, 12:23:10 PM

【二人だけの秘密】

それは、お菓子なんかの袋をとめる為の、金色のビニールみたいなのがついた針金に大きな赤いビーズを通して指のサイズに丸くしただけの、指輪というにはあまりにもなものだけれど。
「やくそく」
「うん、ずっといっしょだよ」
幼い自分達には、どんな宝石よりも輝くもので。二人でそっと、誰もいない幼稚園の片隅で、指輪をはめ合う。くすくす笑う。
そんな、昔の思い出を、未だにしまってあっただけで。

「約束、守れなかったね」
彼女の指には何もなく。彼女の指先は冷たく冷えて。
「ごめんね」
涙は出なかった。けれど、彼女の顔を見ると、苦しくなってきて、直視出来なかった。
あの指輪は、鞄の中でまだ輝いていた。

5/1/2024, 1:24:56 PM

【カラフル】

物の見えかたが、なんだかおかしいので眼科に行ったら、自分はどうやら異常に色を感じるようになってるらしい。
「色を、感じる?」
「うん、例えば」
サングラス(していないと、感じ過ぎる)を外し、彼女を見る。
「リップのピンクベージュ、アイラインの茶色、アイシャドウのベージュとピンクと上のラメと、チークの赤みとファンデーションのベージュが、一度に来て、あなたの顔が捉えられない」
更に、目の色髪の色服の色、そばの壁の色まで全て混ざって、ぐるぐるする。
「何だそれ」
笑う彼女を見ながら、サングラスをする。軽く頭痛がする。辛い顔を見て彼女が、
「ごめん笑って。ちょっと、理解不能で」
「分かる、自分でもそうだから」
ため息。これは治療できないようで、これからはこの状態と生きていかねば。
「日々、カラフルになっちゃったね」
彼女が取り繕うように言うのも、悲しくなる。
ああ、自分はどうなるんだろう。

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