【言葉にできない】
思いが募りすぎると。
何を言えば良いかなんて全然分からなくて、ただそばにいるだけで幸せになって、胸が苦しくて、泣きたくなる。言葉にできない。
ああ、生まれてきてよかったな、なんて思える程の、あの苦しさの快感。
「って感じ?」
「食べたくて食べたくて堪らなかったスイーツに対しての感想がそれ?」
「うん」
口の周り、粉糖とカスタードクリームだらけにしながら、彼女が頷く。
(ああ)
口拭きなよ、と紙を出しながら、胸にこみ上げるこの気持ち。
(なんと言うのかは知らないけど)
【誰よりも、ずっと】
「ああもう!」
大声を出すと、隣の部屋に迷惑だから出せないけれども、気分としたら叫びたかった。帰宅後早々に、ジャケットと鞄をクッションに叩きつけ、座り込む。膝を抱えて座ると、段々目元に水分が増えてくる。
自信はあった。
昔から憧れていた仕事のコンテスト。人一倍、誰よりもずっとずっと、勉強して自分なりに応用して、個性もそこそこ出して。
選ばれたのは他の人で。
(私よりも、他にも同じようなのあるし個性もないあっちが選ばれるの?何で?)
(自分がやってきた努力の時間は無駄だったの?)
(ただ単に、才能がないだけ?)
頭の中、ぐるぐるしてくる。涙が止まらない。
(よし)
どれだけ泣いたか分からない。でも、座っていたら尻が痛い。だから。
「一人カラオケでも行くか」
そして、隣の部屋を気にせず叫んでくるのだ。
そして、もう一度頑張ってみるのだ。
誰よりも、ずっと。
【これからも、ずっと】
目が覚めて、しばし天井を見る。
ゆっくり、右を向けば、少し荒い鼻息の、寝息をたてる彼が寝ている。
花粉症か、何か他のアレルギーか、鼻がつまったまま、深く寝ている彼。
布団から出ている、彼の左手をそっと握る。荒れ気味の肌と、ごつごつした感じ。少し冷えている。
手を握ったまま、自分ももう一度目を閉じる。
(今日も、明日も、これから先も)
こうやって、幸せに眠れるようにと思いながら。
【君の目を見つめると】
話したいことかあったのだ。
一緒の部屋にいるだけで、緊張で心臓バクバクして、どうしようもないほどなんだけど、どうしても言いたいのだ。
「で?話って?」
二人きりの部屋の中。外は風が吹き、たまに窓を叩く。
ああ、改めて君の目を見つめると、あまりに綺麗で。その中に自分が写っていることが申し訳ないぐらいの。
「どうした?」
優しいその声を、笑顔を。自分なんかに話しかけてくれた気持ちを。
全てを。
「君のことが」
のどが異常に乾いて、声ががさがさして、それでも、なけなしの勇気を出して、真っ直ぐ目を見て。
「ん?」
窓の外、風が強くなってきた。
【星空の下で】
空を見上げる。日差しが強く差し込み、雲が少しあって。
「青空なのは」
理科系が得意な友人が、眼鏡を上げながら言う。
「日光と空気のせい」
「聞いたことはある」
頷きながら、ペットボトルの水を飲み干す。
「んじゃ今私達は、星空の下にいるんだね」
そう言って見上げると、友人はにやっと笑って、
「ロマンチックだね」
「そうかも」
青空の下から、星空を見上げる。