【1つだけ】
「無人島に1つだけ持っていくなら?」
「そー」
定番のやつ。俺は正直、この手のやつは面倒なんだが、こいつに訊かれたら仕方なく答えるしかない。
「ナイフとか、火つけられるのとか定番じゃね?」
「面白くないー」
棒状のお菓子を咥えてふくれっ面になるこいつ。俺に面白味を求めるな。
「オリジナリティが欲しいわけ俺は」
「んなら、お前はどうなんだよ」
こいつの手元から、同じお菓子を無断で奪う。あー、とか聞こえたけど気にしない。
「俺ねえ…」
考え出す。学校のとはいえ、俺の机に座るの止めろ、と言おうとしたら、
「んじゃお前で」
「…はあ?」
「お前いたら楽しそーじゃね?」
「俺は物じゃねーよ。後机に座るな」
わりーわりーって、軽く謝るけど机から退かない。また、お菓子を口に運ぶ。ボリボリ。
(確かに)
「まあ、二人なら楽しいかもな」
「でしょ!」
笑顔に絆されて、そんなのも悪くないかも知れない。
【大切なもの】
「稼がないとさ、金欠だから」
そう言いながら、さっきコンビニで買った棒アイスを齧る君。
「大切だもんね、お金」
パウチのアイスを吸い、答える自分。
「分かるー」
にこにこと、満面の笑みを向ける君の後ろから、日光が差し込んでまぶしい。
学校帰りの、まだまだ明るい空と、甘いアイスと、楽しそうな君と。
「なんかいいバイトないかなあ」
そんな会話と。
(握り締めて、閉じ込めたくなる程の)
(きらきらした、強い光の)
「明日も晴れたらいいねー」
(何年後にも、鮮やかに思い出せそうな、高い気温)
何よりも。
「晴れるっしょ」
貴重なもの。
【エイプリルフール】
普段から、嘘をついているようなものだ。
「勉強?全然やってなーい」
と笑いながら、昨夜は日付が変わるまで勉強していたり。
「太っちゃってさ、みんな細くていいなあ」
と呟いているけども、標準体重はキープしていたり。
「可愛い、何着ても似合うね」
と微笑みながら、
(うっわ、似合わないよね何着ても)
と心の底では呆れている。
だから、嘘をついても良いなんて日には。
「この世界なんて、無くなっちゃえばいいのに」
本当の本音だけ、言うようにしてる。
【幸せに】
「つらいー」
「そんなときには、横棒一本足しな」
「辛いから、幸せってか」
「よく出来ました」
「くっだらね」
そうやって、笑い合うこの時間が、永遠であるように。
【何気ないふり】
(ああ)
察して、手を繋ぐ。思った以上に、冷たい指先を、暖めるように両手で包む。
「繋ぐと、歩きにくくない?」
そう言って見下ろしてくる、その視線が、口より雄弁に、この人を物語るから。
「繋ぎたいからー」
そんな、アホの子みたいな口調でおどけてみせる。
(これ以上、冷えないように)
体も、心も。