はじめ

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3/30/2024, 7:49:45 AM

【ハッピーエンド】

高く澄みわたる空と、柔らかく吹く風。辺りも明るく、暖かい。木々が揺れて、ざわざわと鳴る。
「さて」
ちょっと疲れてる顔で、彼が振り返った。髪の毛はぐしゃぐしゃで、服には汚れが目立つ。それは自分も同じなのだけど。
「これからどうしようか?」
「どうする?」
聞き返す。どうすれば良いかなんて分からない。
何もかも終わってしまって、残ったのは彼と自分だけで。

全ての『自分たちにとっての悪』を倒した結果、全ての自分たち以外のものを排除する結果に終わったけれども。
これはこれで。

「のんびり考えるかあ」
なんて彼が言うから、彼の頬の返り血をぬぐってやりながら、
「そうだねー」
二人だからどうにかなるって、そんなことを思えた。

3/28/2024, 1:23:11 PM

【見つめられると】

視線を感じて、そちらに首を向け、そして。
柔らかな、でも逃れられない。
暖かいようで、冷たいようで、そして何よりも、
「……何」
「用があるから、見てるんだけど」
その笑顔が、髪の艶が、服が、佇まいが、強力な力となってこちらを縛り付けるから。
「ね、お願いあるんだけど」
いつもいつも、面倒なお願いがあると分かっていても、逃れられない。いや、
(逃れたくない)
「また?今日は何」
わざとぶっきらぼうに言ってみる。わざと、視線を逸らす。
だってこれ以上見つめていたら。
「あのねあのね」
見上げてくる視線を感じながら、
(だって)
厄介で面倒で迷惑で関わると絶対損をするし怒ったことも突き放したことも何度も何度も。
でも。
「でねでね」
語り続ける彼女をちょっとだけ見て。
(愛おしい)
どうしても、そう、思ってしまう。

3/26/2024, 1:50:15 PM

【ないものねだり】

隣の席には、天使がいる。
さらさらの髪、きめ細やかな肌。目が合うと柔らかく微笑む。
勉強もスポーツも出来て、困ってる人にはすぐに手を貸している。
完璧超人か。
「いいなあ…」
小さな声でつい呟くと、こっちを彼が見た。また、笑顔。つい、こちらも笑顔。つられてしまう程、輝いている。
(羨ましい…)

隣の席には、天使がいる。
茶色く透けるウェーブがかかった髪、健康的に日焼けした肌。目が合うとにこっと笑う。
人懐っこくみんなに慕われ、常に輪の中心で活動している。
カリスマでも持ってるのか。
「いいなあ…」
隣から、そんな呟きが聞こえたから、そっちを向く。愛想良く笑顔を見せたら、彼も笑ってくれた。その顔を見ただけで、嬉しくなる。
(羨ましい…)

3/26/2024, 2:20:20 AM

【好きじゃないのに】

ピーマンと人参、しめじと椎茸、ほうれん草…
自慢じゃないが野菜は好きじゃないものの方が多い。独特のアクと匂い、食感、みんな苦手。
それでも、今日も食卓にはピーマンと人参としめじの野菜炒め、ほうれん草のお浸しなんかが並ぶ。正直うわって思う。
アレルギーとかじゃないから、半ば目をつぶった状態でかきこむ。よく噛まないとうえってしちゃうから、食感を我慢して噛む。飲み込む。
「今日も沢山食べて偉いわね」
にこにこと、対面に座る笑顔。ちらっと見て、また食べる。
好きじゃないのに。
好きだから。

3/25/2024, 7:54:28 AM

【ところにより雨】

みんな笑ったり大声を出したり、椅子から立ったりもう一度座り直したり、とにかく騒がしい。
クラス替えの日、発表があってから移動してきた教室内なんて、こんなものだ。担任の先生が来るまでの間、一時の大騒ぎ。
(うるさ)
ため息。こっちは仲良い友人とも、ちょっとときめいていたあの人とも離れて、これから一年どうしようかと悩んでいるのに。
窓の外は、雲一つ無い青空。日光が窓を抜け、暖かい。気持ち良い天気。教室の中も、晴れって感じの空気。明るく、ざわざわした。
(でもこっちは)
「はあー」
ため息をつこうとしたタイミングで、後ろからため息が聞こえたので、ビクッとしてしまった。
「ああごめん、驚いた?」
声がするので振り返ると、行事の係りか何かで一緒だった顔。後ろのその人も、やっぱり同じタイミングで思い出したように、
「同じクラスか。よろしく」
静かに。騒がしい中、しっとりとした感じの。そんな笑顔。
「うん」
まるで、ここだけ少し、雨が降ったように。

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