はじめ

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3/28/2024, 1:23:11 PM

【見つめられると】

視線を感じて、そちらに首を向け、そして。
柔らかな、でも逃れられない。
暖かいようで、冷たいようで、そして何よりも、
「……何」
「用があるから、見てるんだけど」
その笑顔が、髪の艶が、服が、佇まいが、強力な力となってこちらを縛り付けるから。
「ね、お願いあるんだけど」
いつもいつも、面倒なお願いがあると分かっていても、逃れられない。いや、
(逃れたくない)
「また?今日は何」
わざとぶっきらぼうに言ってみる。わざと、視線を逸らす。
だってこれ以上見つめていたら。
「あのねあのね」
見上げてくる視線を感じながら、
(だって)
厄介で面倒で迷惑で関わると絶対損をするし怒ったことも突き放したことも何度も何度も。
でも。
「でねでね」
語り続ける彼女をちょっとだけ見て。
(愛おしい)
どうしても、そう、思ってしまう。

3/26/2024, 1:50:15 PM

【ないものねだり】

隣の席には、天使がいる。
さらさらの髪、きめ細やかな肌。目が合うと柔らかく微笑む。
勉強もスポーツも出来て、困ってる人にはすぐに手を貸している。
完璧超人か。
「いいなあ…」
小さな声でつい呟くと、こっちを彼が見た。また、笑顔。つい、こちらも笑顔。つられてしまう程、輝いている。
(羨ましい…)

隣の席には、天使がいる。
茶色く透けるウェーブがかかった髪、健康的に日焼けした肌。目が合うとにこっと笑う。
人懐っこくみんなに慕われ、常に輪の中心で活動している。
カリスマでも持ってるのか。
「いいなあ…」
隣から、そんな呟きが聞こえたから、そっちを向く。愛想良く笑顔を見せたら、彼も笑ってくれた。その顔を見ただけで、嬉しくなる。
(羨ましい…)

3/26/2024, 2:20:20 AM

【好きじゃないのに】

ピーマンと人参、しめじと椎茸、ほうれん草…
自慢じゃないが野菜は好きじゃないものの方が多い。独特のアクと匂い、食感、みんな苦手。
それでも、今日も食卓にはピーマンと人参としめじの野菜炒め、ほうれん草のお浸しなんかが並ぶ。正直うわって思う。
アレルギーとかじゃないから、半ば目をつぶった状態でかきこむ。よく噛まないとうえってしちゃうから、食感を我慢して噛む。飲み込む。
「今日も沢山食べて偉いわね」
にこにこと、対面に座る笑顔。ちらっと見て、また食べる。
好きじゃないのに。
好きだから。

3/25/2024, 7:54:28 AM

【ところにより雨】

みんな笑ったり大声を出したり、椅子から立ったりもう一度座り直したり、とにかく騒がしい。
クラス替えの日、発表があってから移動してきた教室内なんて、こんなものだ。担任の先生が来るまでの間、一時の大騒ぎ。
(うるさ)
ため息。こっちは仲良い友人とも、ちょっとときめいていたあの人とも離れて、これから一年どうしようかと悩んでいるのに。
窓の外は、雲一つ無い青空。日光が窓を抜け、暖かい。気持ち良い天気。教室の中も、晴れって感じの空気。明るく、ざわざわした。
(でもこっちは)
「はあー」
ため息をつこうとしたタイミングで、後ろからため息が聞こえたので、ビクッとしてしまった。
「ああごめん、驚いた?」
声がするので振り返ると、行事の係りか何かで一緒だった顔。後ろのその人も、やっぱり同じタイミングで思い出したように、
「同じクラスか。よろしく」
静かに。騒がしい中、しっとりとした感じの。そんな笑顔。
「うん」
まるで、ここだけ少し、雨が降ったように。

3/24/2024, 4:29:22 AM

【特別な存在】

薄曇りの空が広がっている。
学活が終わって、鞄を取って駆け出す。部活も入ってないし、塾もバイトもない。時間ならある。
(今日は会えるか)
スニーカーを履いて、校門から足早に外に。角を曲がって坂を上って、上りきった所の、石段の上に鳥居が見えてくる。石段を足早に上がって、
「ふう」
息を吐く。流石に、ここまで走ると息も切れる。
でも。
そのまま、境内を見る。曇り空と生い茂る木々のせいでそこは、一層暗いのだけれど。
「…あ」
雲の間から、差し込む僅かな日光。そこに、
「いた」
思わず呟く。
白い肌、白い髪、神主の装束のような服もほぼ白く、横顔の瞳のみ赤い。
そして、烏帽子のような被り物の横から、髪の毛とは違う、白くふわふわした三角形のものが生えている。二つ。まるで、狐の耳のような。
その人は、こちらを見ず、そのまま神社の奥へと歩きだした。
「あ、あのっ」
つい、声をかけてしまう。でもそのまま、その人は歩いて。
「うわっ」
風が吹いた。自分の髪が乱れて、目を閉じた一瞬、差し込んでいた光が消えていた。
あの人も、消えていた。
(また、会えるかな)
思いながら、今日もお参りをする。

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