『遠くの空へ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
蝉時雨が離れない。
どれだけ歩き続けただろうか。
焼けたアスファルト。舗装されていない細道。田んぼの畦道。
雑木林を抜け、遮るもののない田畑を過ぎても蝉の声が付き纏う。
見上げる空は、陰ることのなく高く昇ったままの陽が煌めいている。遠く見えた入道雲は凍ったように動こうとはしない。
あれからどれだけ時間が経ったのだろう。
墓参りの帰り。
いつもより、蝉の声が大きく聞こえた。耳を塞いでも聞こえてくる。
鼓膜を震わせ、脳を揺すり、次第に鳴き声が泣き声に変わるように感じられ。
気づけば無心で駆け出していた。
蝉時雨はどこまでもついてくる。
家路へとついていたはずが、知らない道を歩いていた。
誰もいない田舎道。強い陽射しは、けれども暑さを感じない。
遠く朧気に逃げ水が見え、その揺らぎに一瞬、誰かの姿を見た気がした。
蝉の鳴き声が響く。
立ち止まりかけた足に力を込め、歩き続ける。
立ち止まる訳にはいかない。立ち止まってしまえば、また蝉が空から落ちてくるのだから。
その時の光景を思い出し、肩がふるりと震えた。
ぼとり、と落ちた蝉。仰向けで、時折力なく足を動かして、踠いていた。
ぼとり、ぼたりと蝉が落ち、地面を黒く埋めていく。
そして、一斉に泣き出すのだ。
辺りに響く蝉時雨と、落ちた蝉の鳴き声。
反響し、広がって。それは人の呻き声に成り代わっていく。耐えきれず、必死で逃げ出した。落ちた蝉を踏み潰すことすら厭わぬほどに、怖ろしくてたまらなかった。
どこへ行けばいいのかも分からず、ただ歩き続ける。
土の道を辿り、陰らぬ陽と蝉時雨を連れて進んでいく。
進む先に、何かの煌めきが見えた。
逃げ水とは違う。近づく度に煌めきは輪郭を持ち、それは我が家へと形作っていく。
懐かしさすら感じられる我が家。あと少しだと、疲れた体をむち打って、重い足を引きずり歩く。
ぼとり。
行く道の前に蝉が落ちる。
ぼとり、ぼたり。
蝉が空から落ちてくる。頭に、肩に降り積もり、払われて地を埋めていく。
耳元で蝉が鳴く。誰かの呻きが脳を揺らす。
耳を塞いでも消えない。声が、呻きが聞こえてくる。
――おい。
――おぉい。
声が呼ぶ。
降り積もる蝉の重さに思わず膝をついた。
固いはずの地面は柔らかく、ずぶりと体を沈めていく。
逃げだそうと土を掻いても、端から崩れ落ちていく。疲れた体では、沈む体を引き上げることなどできなかった。
沈んでいく。地の中に。だが暗いはずの地の底は明るく、焼けた朱が広がっていた。
目を見開いた。沈み続ける体を動かして、空を見上げる。
陰らぬ陽。青い空と白い雲。
誰かの目。
ひっと掠れた悲鳴が漏れる。
巨大な目がひとつ、空に浮かんでいた。
見下ろす目が瞬く度に、目尻から黒が落ちてくる。
まるで涙のように、目から零れ落ちた蝉が降る。
――あぁ。
誰かの嘆きが聞こえる。口のない目の代わりに、蝉が一斉に鳴き出す。
目を逸らすこともできず、体は沈む。
蝉時雨を、誰かの声を聞きながら、朱い地の底へと落ちていく。
――違う。
誰かが囁いた。
地の底ではないと。空へ落ちていくのだと、蝉が鳴く。
――あぁ、そうか。
泣きながら、土を掻く指を離した。
目を閉じる。何もかもを諦めて、体を沈めていく。
朱い色。どこか遠くの空へ、落ちていくのだろう。
――かえりたい。
――かえりたい。かえらせて。
誰かが泣く。
それともそれは、蜩の声だろうか。
ふと、帰れなかった家を思う。
誰もいない家。とても大切な、自分の居場所。
帰りたいと、呟いた。
けれども、それは。
蝉の声となって、夕暮れの空に空しく響いた。
夕暮れの帰り道を、子供たちが笑いながら駆けていく。
不意に一人が立ち止まる。皆立ち止まり、道の先に落ちているそれに視線を落とした。
腹を見せ、力なく地面に転がる一匹の蝉。
子供たちが見つめる中で、じりじりと鳴き出した。
「うわっ。死んでんのかと思ったら、鳴き出したぞ」
「セミ爆弾ってやつだろ。聞いたことあるぜ」
「じゃあこいつ、そろそろ死ぬんだ。あっけないな」
遠巻きに蝉を眺め、子供たちは笑う。
陽が陰り、空が朱から紺に色を変え始める。空を見上げる子供たちの記憶には、目の前の蝉など欠片も残らない。
「早く帰ろうぜ」
「俺んち、ばあちゃんが送り火を焚いてくれてるからさ。その火で花火をしないか?」
「いいな、それ!じゃあ、帰ったらお前ん家に集合な}
「よっしゃあ!俺、この前使った花火の残り、全部持ってくから!すっげえでっかいの、まだ取ってあるんだ」
「俺も、俺も!やっぱとっておきは、送り火の時にやるのが一番だよな」
はしゃぐ声。じゃあな、と互いに声をかけて家へと帰っていく。
じりじりと、蝉が鳴く。かなかなと、蜩の声が響く。
日が暮れる。家々や街灯に明かりが灯り始める。
蜩の声は消え、虫が鳴き始める。
地に落ちた蝉は動かない。微かな鳴き声を上げ続け、やがてその声すら途絶えていく。
夜が訪れる。
あちらこちらで火が焚かれ、人々は楽しげに談笑する。
送り火。盆の終わり。
花火を手に、子供たちがはしゃぎ遊んでいる。
その火の意味を知らず、楽しげに笑い合う。
蝉は鳴かない。
その終わりを誰も気に留めない。
蝉のように誰にも気づかれず、夏が過ぎていく。
ゆっくりと、静かに、
夏が、終わっていく。
20250816 『遠くの空へ』
「遠くの空へ」
容赦なく太陽が照りつけ、握手の手が汗ばんでいる。
高校球児が誰しも夢に見る憧れのマウンド。
帽子の下から見える世界はどこまでも黒く、どこまでも白かった。
いつも通りいつも通り…。だけど興奮がおさまらない。未熟な胸にはこの興奮が収まりきるはずがない。
空でも飛べそうな気分だ。
サイレンが鳴り響き勝負が始まる。
余韻に浸っている暇などない。
けれどこの景色、一瞬一秒を噛み締めたい。
相手は西の強豪校。
相手のことは調べ尽くして対策も立ててきているはずなのに、尻込みしてしまう。
やっぱりチームでコミュニケーション取る時も関西弁…話すんだろうか。なんでやねん、とか言うのかな…。一緒にタコパとかしてみたいなぁ。
なんて子供じみた考えが浮かぶが、今は敵だ。
ここで勝たなければ夏が終わる。
これまで暑い時も寒い時も頑張ってきたのだから、ここで倒されるわけにはいかないのだ。
じりじりと試合が行われていく。
実力が五分五分だと言われるとそれまでだが、緊迫した状況が続く。
8回裏。0対0
戦況はあまり良くない。緊張感がベンチに張り詰め、息苦しい。
俺の名前が呼ばれる。
今日はまだ一回しか球が当たっていない。
最後のチャンスだ。
バッターボックスに立つとまさに夢のような景色が広がる。
スコンと広い青空、大きくそびえ立つスコアボード。茶色く光るマウンド。
まさに青春という言葉をそのまま絵にしたような光景。
こんなに空って広かったか…?
暑さのせいか頭上の広さに圧倒されたせいか目眩がしそうだ。
全ての人間が俺に集中している、そう思うと意識まで持ってかれそうだ。
でも事実そうなのだ。
今見えてる観客席だけじゃない、練習試合を重ねてきたライバル校の奴らも、塾で仲がいい他校の奴らも祖父母や遠い親戚も今俺を見ている。
それだけじゃない。
日本全国の知らない人たちが今日俺の名前を知って応援してくれている。
なんて心強いのだろう。なんて幸せなのだろう。
俺はバットを握り直した。
ピッチャーと視線がぶつかる。
しかし俺にはもう空しか見えてなかった。
全ての音が消えていく。吹奏楽の音も観客席の歓声も何も聞こえない。
鼓動が速く血が沸る。奥歯が砕けそうだ。
鈍い感触、と同時に空を見つめた。
球は美しい放物線を描いていく。
行け、もっと行け、もっとこの空の果てまで。
あぁ、なんでだろう。涙が出る。
俺、死ぬのかな…?
だってさこれまで主人公じゃなかったんだぜ?
彼女もいねえし、勉強ができるわけでもないし、バカなことと野球しかやってこなかった人生なのに、こんなカッコいいことしちゃっていいの?
音が戻ってくる。
地響きのような歓声に包まれ、足がもつれそうになる。
試合はまだ終わっていない。
だけど俺は生涯この空の広さを忘れることはないと思う。
「ねー!!もうかいた?」
「え、何かあったっけ?」
「え!まだ書いてなかったの!今日の15時締切だよ?!」
いつもギリギリだよね〜と笑った君はまだ覚えてるかな。
将来の自分へ向けた手紙。
一年後、五年後、十五年後。何年後の自分へ書いてもいいと
何を書いてもいいと言われ配られた一枚の紙。
将来の夢とか、希望とか、願望とか何も浮かばなくて。
それよりも君と同じ時間を過ごせる
「いま」がずっと続けばいいのにって反抗期。
「みらい」を語る君の姿が眩しくて、嫉妬した。
暑い暑い夏の日、結局どうしたんだっけな。
「その紙は飛ばさないでよね」
──────ああ、思い出した。
「大丈夫だよ。僕の空はここにあったから」
僕の代わりに飛ばさなくて良くなったからね。
外国へ行くことが決まってた君の隣に、僕はいる。
離れた場所へ行く、君の横に居たくて
紙飛行機にして飛ばしたんだよあの時はね。
お揃いの指輪をつけた君が隣で笑う。
「もう、飛ばさなくてもいいんだ」
『遠くの空へ』
75.『やさしさなんて』『こぼれたアイスクリーム』『真夏の記憶』
アイスクリームをこぼした。
なけなしのお小遣いで買った、3段アイスクリーム。
嬉しさの余り小躍りしたら、躓いて転んでしまったのだ。
周囲の人が気の毒そうに見つめている。
中には私を心から憐れむような顔をしている人も……
けれど余計なお世話だ。
優しさなんて、なんの役にも立たない。
同情するなら金をくれ!
私が慟哭していると、視界の端に見覚えのある姿が見えた。
顔を上げれば、それいるのは友人の沙都子。
両手にアイスクリームを持ち、私の前に立っている。
もしかして、アイスクリームをくれる流れ?
そうだよね、知らない仲じゃないもんね。
それに沙都子の家はお金持ちだから、このくらい気楽に奢ってくれるだろう。
やはり持つべきは親友、金持ちの親友である。
だけ……
ペロリ、と沙都子は、打ちひしがれている私の前で、アイスクリームを食べ始める。
唖然とする私を見ながら、顔に愉悦を浮かべる沙都子……
それを見た瞬間、私は怒りに支配された。
「キサマァ!」
怒りに身を任せ、咄嗟に掴みかかる。
けれど軽くあしらわれ、逆に私が体勢を崩して転んでしまった。
「クソッ、避けられ――うわっ」
起き上がろうとすると、上からぐいと押さえつけられ身動きが取れない。
驚いて顔を向けると、椅子に腰掛けるように私の上に沙都子が座っていた。
「私に座るな――」
「アイスクリーム欲しい?」
押しのけようとした時、沙都子が耳でささやいてきた。
沙都子の悪魔のような言葉に、私は動揺して動きが止まる。
沙都子はその隙を見逃さず、すぐに畳み掛ける。
「そのまま私の椅子でいるなら、奢ってもいいわよ」
「……ふん、そんなので買収されない――」
「ダブル」
「……だから、無駄なことを――」
「トリプル、いえ4段でどう?」
「……」
「うーん、意外と意思は固いのね。
私の負けよ」
「あ、当たり前だよ。
私はそんなに安い女じゃ」
「好きなだけ頼んていいわ。
全種類でも、満足するまで食べなさい」
「!?」
なんという魅惑的な提案。
思わず『椅子でもいいや』と思わせるとは、沙都子は悪魔どころか悪魔の王ではないだろうか。
だけどアイスクリームが食べたいのも事実。
私は二つの選択肢の間で大きく揺れていた。
そして沙都子は、私の顔を覗きながら呟く。
「どうする?」
そして私の出した答えは……
🍧
「あー、そんな事もあったわねぇ」
数年前の真夏の記憶、それを話すと沙都子が感慨深そうに頷いた。
「私、たまに夢に見るよ。
あの悪魔のような沙都子」
「失礼ね。
貧しいものに恵みを与える、天使のような存在でだったでしょ?」
「それ言ってるの沙都子だけだよ。
その場にいた人たちドン引きしてたもん」
「そうだったかしら……
あの時のこと、あんまり覚えてないのよね。
楽しかったのは覚えているんだけど」
「あんた、やっぱり悪魔だよ」
「ところで……」
沙都子が、あの時と同じように私の顔を覗いて、言った。
「あの時、アナタはなんて答えたのかしら?」
沙都子の問いに、私は上を向いて答えた。
「私はアナタの椅子です。
アイスクリーム奢って下さい」
《遠くの空へ》
書けたら書く!
2025.8.16《遠くの空へ》
何も出来ない自分が大嫌い
すぐにマイナスなことを考えてしまう自分も
要領の悪い自分も
周りはあんなに出来ているのに
どうして自分は
こんなにも何も出来ないのか
そう考えることがダメだと
いつも友人にも言われているのに
ダメだ
こんなことを考えては
明るいプラスになるようなことを考えなくては
この気持ちを
くしゃくしゃに丸めて遠くの空へ
/8/17『遠くの空へ』
遠くの空へ、思いを馳せる。
さて、「遠くの空」と聞くと毎回疑問に思うことがある。
遠くの空に思いを馳せる3名をお呼びしたので、自分が何を言いたいのか考えてみてほしい。
日曜日の朝、学校が休みで少し寝坊をしてしまった。
欠伸をしながらキッチンに向かうも、どうやらお母さんが居る気配は無い。
カレンダーを見ると「ママ パート」と書かれていた。
パジャマのまま、食卓に用意されていた食パンにいちごジャムを塗る。
それをチビチビと食べながら、窓に目をやった。
お母さんの職場は、ウチから歩いて1時間かかるらしい。
以前寂しさから追いかけようとした事があったが、1時間も先にある場所なんて検討もつかなくてダメだった。
今はもう4年生だし、無謀に追いかけることはしない。
まぁ、早く帰って来ないかなぁ、とは思うけど。
パッと視線を上げると、窓の外には見慣れた風景が戻り始めていた。
県北の大学に通う彼と、県南の大学に通う私。
電車で1時間半程の距離は、デート最大の障壁だ。
私の最寄り駅まで、あと1駅。
別れ際はまだ夕日が登り始めだったはずだが、すっかり外は暗くなり始めていた。
「もうすぐ着きそう?帰ったらLINEくれると嬉しいな」
優しい彼は、心の距離まで離れないように頻繁にLINEをしてくれる。
それでも私は、つい1時間半前まで隣にあった温もりが無いことを毎回寂しく思ってしまうのだ。
「次はいつ会える?もう寂しいよ〜…😣」
そう打ちかけて、ちょっと悩んで、やめた。
「うーん、北海道かぁ…」
私はSNSに推しのキャラクターがいる。
2年前、新卒だった私の心を支えてくれた推し。
その推しのポップアップストアが、今度北海道で初開催されるらしい。
もちろんメチャクチャ行きたいのだが…
「飛行機で2時間…やっぱり結構遠いよねぇ〜」
九州に住む私にとって、北海道はかなりの遠出になる。
それに推しは最近どんどん人気が高まっているし、待っていればいずれ九州にも来てくれるだろう。
しかし、推しの初イベント。
推しは推せる時に推せ、という偉大な先人の言葉。
私は推しのぬいぐるみを抱きながら、北の空を仰ぐ。
「コマちゃん、私の事待ってくれてるのかなぁ〜」
3つも書くとなると、時間がかかるものだ。
ふぅ、疲れた…今日はこれで終いにしようか…
いや、本来の目的を見失ってはいけない。
結局コイツは何が言いたかったのか?
それは、「どこからが遠い空なのか?」という事だ。
そしてその答えは、「その人の状況等による」という事。
小学生には徒歩1時間の距離が。
大学生には電車で1時間半の距離が。
社会人には飛行機で2時間の距離が、遠い。
あくまで分かりやすい例なので、個人差はあるだろう。
実際、自分はもう25になるが、車で1時間かかる場所をまだ遠く感じる。
あなたの遠い空は、何処からだろうか。
遠くの空へ
8/15 日本は終戦記念日で
戦争の恐ろしさや空しさがメディアで多く取り上げられる。
お盆も相まって命について考えたり、ご先祖の想いを想像したり。
こうした空の遠く向こうで
私たち日本人が経験した悲劇を今まさに味わっている人たちがいるかと思うと、よい気持ちがしない。
複雑な気持ちになる。
池上彰が言っていた。
今が「戦後」でありますように。
今を「戦前」としないように、と。
私たちは戦争の恐ろしさを学ぶと同時に
「平和が続きますように」なんてことを言うのではなく、「平和を守ります」と自分事にしないといけない。
そのためにも、戦争が起こるときに私たちの取り巻く環境の変化を想定し、そのときどうすべきか?を話し合わなければならない。
遠くの空へ
空を見上げる
雲が流されている
バイバイっていつものように見送る
でもねふと思ったんだ
空を見上げ続けるなら
例え姿形が変わっていても
お帰りかもって
世界中の人々が大地に寝転び空を仰ぐ
千変万化の空に思いを馳せたら
自分の行為が巡って自分に返ってくることに気づくだろう
空は広いって?高いって?
皆そう思うよね
実は遠いも近いもないんだよ
地球上で共有しているものだから
飛行機が好き。
どこまでも遠くへ飛んでいける。
僕もあんなふうになりたいな、と願う。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
昔から身体が悪い僕は今日も横になり、障子の隙間から天を覗く。ずっと日の下に出ることがなかった僕には眩しすぎるくらいの蒼穹が広がっていた。
僕の趣味は、稀に上空を通っていく飛行機を見届けうことだ。ほら、ちょうどやってきた、白い糸のような雲を残して。でも、正直好きだからやっているわけではない。それくらいしかやることがないからだ。
ヒュッ
部屋に何かが外から飛んできて、壁にぶつかり落ちた。
「…何これ」
呟くと、障子がスパッと開けられた。
「ただいま!今日学校で作ってきたんだ、紙飛行機。ごめんな、中に入ってしまって。」
「おかえり、兄上」
「調子はどうだ?」
喋ると咳き込んでしまいそうだったから、軽く笑って見せた。兄上は心配そうな顔をする。優しい兄がいたことは僕の力になった。
「そうだ、少しだけ起き上がれるか?よかったら紙飛行機の作り方教えるよ。」
兄上の時間をとってしまうのは良いことでは思う。でも一人でいるのは寂しい。看病に来てくれた人とはできるだけずっと一緒にいたい。
急に起き上がると流石にむせてしまった。
「大丈夫か?」
兄上が僕の背中をさする。ああ、なんて不自由な身体なんだろう。申し訳なくなってきた。
「ごめんなさい」
カフっと咳をして声を漏らした。兄上はなぜか眉を顰めこちらの横顔を包むようにがっしりと両手で掴んだ。なにこれ…。
「何言ってるんだよ!病は気から!だから気を弱く持つな。みんなを使ってやるって思え。みんなお前が可愛くてしょうがないんだ。それで何かた助けてもらったらお礼を言うようにするんだ。何故病人が謝る?息も辛く苦しいだろうに。」
兄上は強く、そして優しく言った。
「ごめんな、無理しないでゆっくり休んでいた方が楽だろう。紙飛行機はどうする?」
「兄上、本当に今日は調子が良い方なんです。紙飛行機作り方教えてください。」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「できた」
兄上が一つ一つ教えてくれた方法で丁寧におった飛行機。水色の色紙でできている。それは自分がずっとみてきた空のような色でとても綺麗だった。
「色紙ここに置いておいてやるよ。暇な時はちょっとずつ作ったら楽しいだろう」
僕は空をまた見上げる。僕の作った紙飛行機は、あの飛行機のように高く、遠くまでは飛べないだろう。
「そうだ。お前が作った紙飛行機、俺が代わりに飛ばすよ。そしてどれくらい飛んだかお前に教える!」
兄上は本当に優しい。僕が外に出られないことを知っているから、室内でもできること、楽しめることを考えてくれたのだろう。なんだか目尻が熱くなった。
それから僕は熱が出ず、辛くない日は紙飛行機を折った。
兄上は飛行機を飛ばし続けた。
ー4年経った今でも。ー
今でも兄上は紙飛行機を飛ばし続けている。そんなにたくさん作ったのか?そんなことはない。僕の作ったものは大切にとってあり、飾られている。兄上は自分で形を改良して、いい記録が出るように努力している。そして記録が伸びると嬉しそうに綺麗な花と共に報告しに来てくれる。
よかった、嬉しそうな顔をしてくれている。今はもう自由だが、3年前の冬は辛かった。脈が速い割に呼吸は浅く、苦しかった。兄上と両親はずっと見守ってくれていた。泣かせてしまうのも申し訳ない。ごめんなさい…は心に留めた
「ありがとう」
兄上がずっと僕のことを忘れずにいてくれている。そして二人の思いを乗せて、僕の代わりに、僕がいけなかった遠くの空まで行かせてくれている。ずっと遠くの空へー
*・゜゚・*:.。..。.:* 遠くの空へ *:.。. .。.:*・゜゚・*
ああ、しねよしね。
星屑の眩しさとやられてお前は死んでしまえばいい。
三日月の端に吊り下げられ
宙ぶらりんな足をゆらし。
あぁ、お前なんぞ
お前なんぞさっさと死んでしまえばよかった。
しんでしまえ
しんでしまえ
星屑がちかちかと
ちかちかと目の奥の奥を刺激するように笑い、
お前は惨めさの中で死んでいくんだ。
ああ、、
ああ、
私は
わたしはいったいなんだというのだ。
お前はいったい、。
体が重くて、なかなか上手く進めない。おかしいな。
周りの猫よりもずっと狩りが上手くて、誰よりも早く走れていたのに。
なんだか意識も朦朧としてきて、そのまま倒れた。
でも気付けば、体が軽くなっていた。こんなに上手く飛び跳ねられたのはいつぶりだろう。
そうして、いつもの庭を飛び出して、どこまでも遠くまで駆け出した。
いつも見上げていた遠くの空へ。その先の向こうへ。
遠くまで遠くまで駆けていくと、今度はだんだんと体が上手く動かせなくなっていく。
ゆらゆらと、ふわふわと。
進んでいくうちに気付いた。
やあやあ、そうか。これが、世に聞く――“宇宙”。
――聞こえますか? こちら、宇宙猫C号。
宇宙はすごい。広い。なかなか前へ進めないことだけが難点だ。
ずいぶんと前に聞いたことがある。人間はなんだか重そうな格好をしないと宇宙にいられないと。
それに比べて、私はすごい。
だってそのままの姿で、のろのろとすいすいと。ゆっくりだけど、進んでいく。
そうやって進んでいったら、隣の星に着いた。
衛星『月』。
――地球の皆さん、どうしてますか? こちらからは、鏡の向こうで見た青い青いまあるい目のような、キレイな星が見えます。
とても体が軽いです。飛び跳ねたらどこまでも飛べそうなくらい。聞いたことがある。月は地球と比べて重力が小さいって。だからこんなに簡単に飛べるのかな?
そうして月をぐるぐる回りながら、その昔、人間が降り立ったとかいう噂に聞いた場所はここかな? そんなことを考えています。
月面散歩に飽きたら、月をまた離れて、今度はどこへ行こうかと、考える。
うん、どこまでも行けそうな気がしてる。
振り返って見下ろした先には、青い星。
私は今から長い長い旅に出る。いつかきっと帰ってくるから。
その時まで、――ばいばいさようなら。
『遠くの空へ』
遠くの空へ
あの人はどこまで強くなるのかな
あの人なら、遠くの空まで行けるくらい強くなりそう
遠くの空へ
あの日の不思議な出来事を、今でも覚えている。提灯で照らされたあの道を、今でも林の中で探してみる。あの楽しげな祭囃子が、今でも遠くで聞こえる気がする。僕はあの日出会ったあの人を、心のどこかで探していた。
あの人に貰ったお面がどこにもなくて、あの時は白昼夢でも見たのだと思っていた。けれど、だんだんあの時のことを、本当にあった出来事なんだと考えるようになった。
そう考え始めた日から、僕はあの日のあの場所を探していた。あの時助けてくれた狐面の人にお礼を言うために。
何度目かも忘れた今日も、あの日の雑木林に来ていた。やっぱりあの日のように鳥居がある訳でもなく、手がかりは何も無かった。
「やっぱり何も無いか……」
何度来ても、あの日以来ここに鳥居はなく、僕の心は折れかけていた。
「いっそ、ここから叫んでみたら届いたりしないかな」
今まで何度も来てはいたが、直接叫ぶのは試したことがなかった。もしかしたら出てきてくれるかもしれないと、大きく息を吸って、僕は叫んだ。
「あの日は助けてくれて、ありがとうー! 」
いきなり大声を出したせいで、ゲホゲホと咳をする。何か返事はないかと耳を澄ませた。しかし、聞こえてくるのはせいぜいそよ風に揺らめく葉っぱの音ぐらいだった。
今日はもう諦めよう。そう思って、くるりと方向転換をして、帰ろうと足を進めると。
「うわぁ! 」
いきなり後ろから押されたかのように、強い風が吹いてきた。
ふと、あの日のことを思い出す。あの日もいきなりの強い風が何度か僕の背中を押した。
なんだか嬉しくなった僕は、もう一度林の方へと向き直り、大きく手を振った。
「狐面さんありがとう〜! 」
さっきのよりも優しい風が、フワリと林の中から吹いてきて、そのまま遠くの空へと飛んで行った。
「今だから言えること」
あの街から飛び出してからの日々は、忙しくも充実していて、つい忘れそうになる。
きっとあの人は、今も追い続けているんだろう。
もう私には関係ない。
あの街で過ごしていたことも。
あの人が見ていたものも。
それでも、あの人の願いがいつか叶えば良いと思う。
あんなことがあったけど、今の私がいるのは、間違いなくあの人の出会いがあったから。
────遠くの空へ
2025.08.16.
楽しくない時は、空を見上げてみる
遠いあの空まで繋がっているんだと思いながら
"遠くの空へ"
しんと静まった夜半過ぎ。
ふっと意識が浮上した。
一度去った眠気は戻る気配がなく、
壁に背を預けて、片膝を抱え込む。
経験上、無理に眠ると悪夢を見るから。
ただ、ぼうっと暗闇を眺めて時間が過ぎるのを待つ。
窓の外、
空は闇く、星ひとつ見えない。
遠い夜明けの空へ思いを馳せて、溜め息をついた。
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某本物の稲荷狐の家族が住まう不思議な不思議な稲荷神社に、
大きなネコのような、あるいは小さなモフモフドラゴンのような、ともかく異世界ネコゴンが、
仕事のために、期間限定で宿泊中。
というのも、稲荷神社に存在する「別の世界に繋がる黒穴」が、突然使えなくなってしまいまして、
それの応急処置をしに来たのです。
モフモフネコドラゴンはビジネスネームを「スフィンクス」といいました。
稲荷神社の黒穴は、大事な穴。
別の世界から「こっち」の世界に落っこちてきた生き物だのアイテムだのを、
「世界線管理局 ◯◯担当行き」の黒穴にドンドと放り込んで、対処してもらうのです。
ちなみにその担当は、だいたい「密入出・難民保護担当」です。異世界迷子が意外と多いのです。
さて。
「ハァー、なるほどな」
人間に返信して黒穴を調べておったスフィンクス、ひととおり調べ終わって、言いました。
「こりゃあ、故障とか不具合じゃない。正式な手順を踏んで、厳重ロックしちまったんだ」
こりゃ簡単にハイ復旧とは行かねぇぜ。
スフィンクスはそう言って、頭をガリガリ。
忌々しそうに黒穴のフチを、蹴る真似をしました。
正式な手順とは、つまり稲荷狐の神秘の術。
稲荷神社の神様が、稲荷の神様の権限でもって、「こっち」の世界の日本と、別の世界との繋がりを、全部ぜんぶ、塞いでしまったのでした。
「神様の言うとおり」。
そりゃ黒穴も使えなくなるというものです。
どれだけ人間がこじ開けようとしても、
塞いでいる相手が、神様なのです。
「ウカノミタマのオオカミ様は、上等な酒と、上質な白米で作られた餅と、美しい魂を持つ人間の美しい舞と接待をご所望です」
稲荷神社に住まう、稲荷狐のお母さんが答えます。
「それらをどっさり準備すれば、
オオカミ様はそれらを召し上がり、
この神社の黒穴だけは、お許しになるでしょう」
必要ならば、用意なさい。
お母さん狐はそう言って、穏やかに、笑いました。
「上等な酒と、上質な餅と、美しい魂?」
「ウカノミタマのオオカミ様は、『せっかくだから別の世界の酒と餅を持ってきなさい』と仰せです」
「はぁ」
「オオカミ様の舌や鼻や、目は誤魔化せません。
ゆめゆめ、安い酒と手抜きの餅で済まそうなどとは、思わぬことです。よいですね」
「ふーん……」
「どっさり持ってくるのです。どっさりですよ」
「はいはい。分かった。わかったって」
しゃーねぇなぁ。ちょっくら行ってくるか。
ゲートを修理しに来たスフィンクスは、再度頭をガリガリかいて、人間の変身を解除してモフモフのネコドラゴンに戻り、
自分の世界の、自分の職場に戻って、お酒とお餅をどっさり運んでくるために、
まさしくお題どおり、
「遠くの空へ」、飛んでゆきました。
『酒……さけ……? モチ……???』
真夜中の夜空を走るように、モフモフネコゴンのスフィンクスが飛んでゆきます。
『え?つまり、イチバン高い酒と餅を持ってくりゃ良いの?どっさり? 味のリクエストは???』
速度をつけて、対流圏で摩擦熱を起こし、
極寒の成層圏から中間圏をその熱で突破して、
そして、ネコゴンはとうとう、熱圏へ到達します。
『ホトのヤツなら、良い酒、知ってるかな』
強い風と摩擦とでネコゴンの抜け毛が整理され、抜けてって、それらに摩擦の火がついて、
モフモフネコゴンは彗星か、長いほうき星のように、真夜中の夜空に輝いて、地球を脱出します。
『じょーとーな、さけ……?????』
え、つまり、その上等な酒と餅をどっさり持って、俺様、また大気圏再突入すんの?
ネコゴンはぶつぶつ言いながら、宇宙を渡り、世界の壁を抜けて、自分の職場がある世界の宇宙へ、
遠くの空へ、戻っていったとさ。
そこから先は、またいつか。次回配信のお題次第。
しゃーない、しゃーない。
「遠くの空へ」
山登りしたの
いつもより空は青くて雲が大きかった
あの遠くの空へ近づいた
君が見た景色 !マークじゃ足りない感情 遠くの空へ です。
君が見た景色
「うわっ、キレイな海。これってどこ?」
旅行が趣味の大学時代のサークル仲間が、お土産を渡したい。と連絡をくれ、久しぶりにカフェで会っている。
「これはね…」
写真を見ながら、旅行した場所と思い出を語ってくれる彼女。楽しい思い出だからなのか、にこにこと笑いながら、時にはそのときのことを思い出すように目を閉じたりしながら話してくれる。
「いいなぁ、俺も旅行に行きたい。けど…どこがいいのか詳しくないし…」
君をじっと見ながらそう言うと
「私が行きたい場所で良ければ、今度一緒に行く?」
思惑通りの言葉をくれる彼女に、内心ガッツポーズしながら
「いいの?行きたい」
前のめり気味に返事をすると
「わかった。今度旅行に行くときに、声かけるね。けど、私と一緒…2人で旅行になるけどいいの?」
そう聞いてくる。
「もちろんいいに決まってる。俺は、君が見た景色を、隣で一緒に見たいんだ」
君の手をガシッと握ると、君は頬を紅く染めるのだった。
!マークじゃ足りない感情
「は?お前、彼女できたの?」
報告したいことがある。と連絡をもらい、久々に会った幼なじみ。同い年ということもあり、友だちというより、ライバル。と勝手に思い込み、学生時代を過ごしていた。
「で、相手は。相手はどんな人?」
ライバルだと思ったのはそこまでで、社会人になった今は、お互いにグチも話せる友だちだと思っている。
「相手は、お前も知ってる人」
「俺が知ってる。…だと、同級生の誰か?」
「いや、年下で、お前も知ってる人、いるだろ?」
「え?年下で、俺も知ってる…」
うーんと考えてみるが答えは出ない。
「ダメだ。考えてもわからん」
降参とばかりに両手を挙げると
「…わかんねえの?」
不思議そうな顔で彼にじっと見られるが
「全然わからん」
俺は首を横に振る。
「そっか。じゃあ、答えを言うよ。俺の彼女は…」
「お前の彼女は…」
「お前の妹」
「………は?」
彼の言葉に、俺の思考は停止する。
「だから、お前の妹だよ」
聞き間違えかと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。
「え、マジで?」
「うん」
にこにこしながら彼が頷く姿に、!マークじゃ足りない感情を、俺は感じたのだった。
遠くの空へ
空を見上げ、キミがいる、遠くの空へ思いを馳せる。キミも同じ空の下で、頑張っているのかな。って。
パティシエになりたい。そう言ったキミに、パティシエの修行に、パリに行ってみたら。と提案したのは俺。
離れるのは淋しい。という感情より、夢を叶えてほしい。そう思って、キミの背中を押したけど、実際離れてみると、キミがいない淋しさで、胸が押しつぶされそうになる。
連絡がとれないことはないけれど、頑張っているキミの邪魔はしたくない。そう思って、こちらからは連絡しないと決めた。でもどうしても辛くなったときは、空を見上げ、キミも同じ空の下で頑張ってるんだ。そう思って、踏ん張っている。
キミが夢を叶えて戻って来るのを、俺は楽しみに待っているのだった。