『終わらせないで』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
旅行終わりに体調を崩したのでキープのみ。後日回復してから書きます。
──お題:終わらせないで──
私はアンカーではなかったらしい。
新しい背中が遠くで待っている。
#終わらせないで
ふと目が覚めると、
目の前に、かわいい寝顔。
思わず見惚れてしまう。
しかも、あったかい布団に、
覚め切らない体。
まだまだ眠れるのに。
タイムリミットがあるから
この時間が、より貴重になる。
今日がお休みだったらいいのにな、
と心から思う。
この時間を、終わらせないで。
目覚ましが鳴る少し前。
「終わらせないで」
食べ物を買い込んで、国内、、海外とわずドラマを一気に動画サイトで見るというのが、私の休みの楽しみだ。
日本のドラマは11話で終わることが多くて、どうしても物足りない部分が出てくる。ただ、描ききれないところは、自分で考えたり、スピンオフなども配信があったりして楽しませてくれる。
ドラマは自分の知らない世界に導いてくれるし、ときめかせてくれるし、サスペンスの考察も楽しい。
最終回が近くなると、いつも思うことは同じだ。
終わらせないで!!!
作者様、製作者様!!どうか、長く続けてください!!
という事だった。
なのに私は懲りないのだ。
最終回を迎え、寂しくてロスになりながらも、また私は新しいドラマを開封していく。
私は、懲りないのだ。
終わらせないで
願うこと、叶えること
希望を抱くこと
そして、夢を見ること。
誰もがいつも、完璧じゃない。
自分が、我慢すればと
笑ってやり過ごす時もあるだろう。
けれど、どうか
終わらせないで。
荊棘に囲まれたその先に
あなたの願いや夢が咲いている
時もあるだろう。
手を伸ばせば、傷を負うかもしれない。
そんな時、あなたなら…どうする?
荊棘を切り開いて進むのか
夢の蔓がコチラに伸びるまで待つのか
背中に翼があればと、鳥たちを羨むのか。
それとも、そこを終着点にしてしまうのか。
あなたなら…どうしますか?
【お題:終わらせないで】
終わらないでと思うことは
最近はあんまりないかも。楽しい時が終わってしまう時は、そんなことを思いそう。
逆に、早く終わらないかなと思うことは多い。渋滞とか、嫌な人の近くにいる時とか、仕事とか。こう書いていくと、楽しくない時間の解説ばかりが出てくる。
そう考えると、楽しい時はあまり解説の言葉を必要としない。逆に、早く終わって欲しいとか楽しくない時は、たくさん言葉にして、愚痴ったりして、なんとか紛らわそうとしてる。
ということは、言葉の役割の一つとして、嫌な気持を紛らわすというのもあるんだろう。不幸な話ほど共感が高いのは、そういうこともあるのかもしれない。
好きな漫画が終わると知った時はショックだった。
始まりがあれば終わりがあるし、ネタ切れ感もあったし、ストーリーもいきなり終盤戦に入った感じがしたらか予想はしてた。
続編とかもなさそう。
スピンオフとかドラえもんみたいに映画とかやってくれたらな~
終わらせないで…、
お願いだから、
自分で自分の人生を終わらせないで、
確かに、人生なんてつらいことで溢れかえってる
親や先生は言う
"今はつらくても、未来には楽しいことが待ってる"
そんなの信じられないよね
暗闇の中で、光を感じられる人なんて、ほとんどいない
人生の9割はつらいとこだよ
でも、その1割のために
つらいこと、悲しくなるような日々、
死にたくなるような日々をわたしたちは毎日生きている
それは人間にあたえられた使命、みたいなのもなのかな
死にたい…、、
でも、死ぬことができない
それがどんなにつらいことか、、
勝手に涙が出てくる自分がわからなくて、
どうしたらいいのか、わからなくなる
頑張らなくてもいい、頑張らなくったっていい
毎日生きててすごい
でも、生きてるだけじゃないんだよ、みんな
ちゃんと毎日頑張ってる
なにもしてない1日だって、、
なにかを耐えて、悩んで、苦しんでなくたって
その1日、1日をみんな頑張ってる
だから、今日もお疲れ様って自分に言っていい
あなたは今日もつらくて、悲しくて、
泣きたくなるようなことがあったかもしれない
それでも、毎日、毎日、頑張ってる
それだけでいい
だから…、お願い…
自分で自分の人生を、決めつけないで…
自分で、自分の人生を終わらせないで…
ドンピシャではまった曲のラスサビが聞こえてきた時。好きな配信者の「バイバーイ」。美術館の出口が見えてしまった時。日常の中にも「終わり」は見えてくる。私はそんな時、「終わらせないで」と心の中で思う。もちろん思ったところで時は進んでしまい、終わりは迎えられる。それでも小さな抵抗のように、この素晴らしい終わらせないでくれと唱えずにはいられない。
小さい頃、両親から苺の苗を貰った。
「愛情込めて育てれば、うんとおいしい苺が出来るよ。
自分の子供だと思って可愛がると良い」
その言葉を真に受けた私は、その日から我が子の様に愛情をたくさん込めて育てた。
ある時は園芸の本を読んで実践し、ある時は声をかけるのがいいと聞いて毎日声掛けをした。
水やりを忘れたり、病気になったり……
たくさんの困難にあいながらも、なんとか枯らすことなく世話をした。
そして一年後、愛情をかけた甲斐があり、苺は大きく育った。
……私の背丈ほどに……
◇
「大きく育ちすぎじゃない?」
私は思わず呻く。
「成長期だからよ」
そう答えるのは、目の前にいる苺の木――イチコと名付けた巨大な苺だ。
「それにしてもイチコが話せるようになるとはね……」
「ママが毎日話しかけてくれたもの。
言葉くらい話せるようになるわ」
「そう言うもん?」
納得できないが、実際になっているのでそう思うしかない。
「ところでママ、お腹空いたから肥料をちょうだい」
「ダメよ、イチコ。
今朝あげたばっかりでしょ」
「成長期だから、すぐお腹がすくの」
「ダメ、太ってしまうわ」
「大丈夫よ、栄養は全部苺に行くもの」
「そう言うもん?」
納得できない(2回目)が、実際たくさん苺を付けるのでそうなのかもしれない。
「とにかく、肥料は駄目です!」
「いいじゃん、ケチ!」
「だーめ」
「苺食べていいから!」
「取引には応じません!」
「……実はとびっきり大きくて甘い苺を作ろうと思っていてね」
「仕方ないなあ」
イチコに肥料をやるべく、ジョウロに水と肥料を入れる
我ながらイチコに甘い。
少しワガママに育て過ぎた気がするが、仕方がない
だってイチコ、可愛いし。
苺も食べさせてくれるし、WIN-WINだ!
これからもたくさん可愛がってあげよう
そんな風に、私はそたくさんの肥料をイチコにあげた。
イチコと話しながら苺を食べる
幸せな時間だった
けれど、私は愛情というものを勘違いしていた。
甘やかすだけで、叱らないという事が何を意味するのか、その時の私は知らなかった。
肥料をあげ続けて一年後。
イチコは暴走した。
◇
「肥料寄越せえぇぇぇぇ」
イチコが肥料を求め、街で暴れていた。
ビルくらいの大きさになったイチコは、私のあげる肥料では足りなくなったのだ
最初は虫、次に鳥や小動物を捕獲していたのだが、それでも足りずついに街に繰り出した。
今でこそ人間には被害が出ていないが、それも時間の問題。
早く止めなくちゃいけない。
「イチコ」
私は暴れているイチコに呼びかける。
すると、暴れていたのが嘘のようにイチコは大人しくなった
警察や軍隊でも手が出せないほど暴れまわるイチコだが、私だけは手を出さない。
「ママ、そこをどいて。
私、お腹減ってるの。
今は我慢できるけど、そのうち我慢できなくなる」
イチコは辛そう叫ぶ。
その様子に、私の胸はぎゅっと苦しくなる
「お願いママ、すぐにここを離れて。
でないと――」
「イチコ、ここで終わらせよう」
私は持っていたジョウロをイチコに見せる。
特別強力な除草剤が入ったジョウロだ。
直接与えないと効果がないが、計算上イチコを枯らせることが出来るんだそうだ。
そのため、イチコに攻撃されない私が、ここまでやって来た。
イチコを枯らすために。
「……ママ、私を枯らすの?」
「ゴメンね。
イチコが辛そうな所、もう見てられないの」
「ママ……」
私は一歩一歩イチコに近づく。
イチコが癇癪を起すかと思ったけど、私が近づいてもイチコは何もせずただそこに佇んでいた。
「イチコ、ごめんね」
「謝らないで、ママ。
私が悪いのよ。
たくさん肥料を要求した私が……」
「ううん、私が悪いの。
私、愛情を勘違いしてた。
イチコの願いを全部叶えることが愛情だと思っていたけど、適度に怒るのも必要だったの。
私、ママ失格ね」
私はイチコの根元まで来た。
あとは除草剤をかけるのみ。
だって言うのに、私の手は少しも動かなかった。
「やっぱり出来ないよ。
イチコは私の子だもん」
「ママ……」
目が涙で溢れる。
イチコがここで死ぬのは間違っている。
だって悪いのは私だもの。
「ねえ、イチコ、他に方法があるはずだよ。
一緒に探そう」
「ママ、ありがとう。
私を信じてくれて……」
「当たり前だよ!」
「でも甘いわ」
イチコは葉っぱをまるで手のように動かし、私からジョウロを奪う。
「これでママは、私を殺すことは出来なくなったわね」
「イチコ、どういうつもり!?」
「ごめんなさい、ママ。
私たちは一緒に生きられないの」
「イチコ!」
「さよなら」
そう言って、イチコは大きな葉っぱを振りかぶる。
私はそれを見て、『これは罰なんだ』と思った。
イチコをちゃんと育てられなかった悪いママに対する罰。
甘んじて受け入れよう。
私は死を覚悟し、心の中で静かに受け入れた。
だけど、何も起こらなった。
その代わり、イチコは自分自身に除草剤を浴びせかけた。
私はイチコの突然の行動に何もできず、見ているだけだった
「イチコ、なんでこんな事を!」
「だってママ、私の事好きでしょ。
絶対殺せないと思ったもの」
除草剤が効いたのか、イチコは見る見るウチに萎れて小さくなっていく。
私より小さくなるのには時間はかからなかった。
「でも自分でやることないじゃない!
私がやるべきだったの!
私が!」
「いっぱい愛してくれてあありがとう」
「イチコ、しっかりして
ママの肥料、おしかった――」
「イチコ!」
私はイチコに呼びかける。
でも返事はなかった。
イチコは死んでしまったのだ。
私が悲しみに打ちひしがれ、大声で泣きそうになった、その時だった。
「おぎゃあ、あおぎゃあ」
唐突に赤ん坊の泣き声が聞こえる。
「赤ん坊?」
避難は済んでいるから、赤ん坊がいるはずがない。
幻聴かと思ったが、泣き止む事は無かった
ぼやけた視界であたりを見渡すと、どうやら泣き声はイチコの後ろから聞こえているようだった。
私は涙を拭いて、イチコの後ろに回る。
そこにいたのは――
「小っちゃいイチコ!」
枯れたイチコから、一本のツタが伸びていた。
ツルの先に小さな苺の苗が葉を広げており、そこから泣き声は聞こえていた。
そういえば、と苺の本で書いてあったことを思い出す。
苺は、ランナーというツタを伸ばし、その先に自分のクローンをつくるのだと。
つまり、この小さな苺はもう一人のイチコなのだ。
その小さなイチコを見て、目からまた涙が溢れ出す。
「今度は間違えないから」
私はそっと、小さな赤ん坊を手で包み込んだ。
◇
一年後。
「はい、肥料」
「ありがとう、ママ」
私は今、イチコの遺したクローンを育てていた。
名前は、ニコ。
私の新しい子供だ。
「ママ、もっと肥料が欲しいわ」
「ダメよ。
大きくなりすぎてしまうもの」
「前の『私』みたいに?」
「そう」
「じゃあ仕方ないね、ママを困らせたくないし」
私はイチコの時の様に、言われるがまま肥料を上げることはしなくなった。
ニコが肥料を求めても、なんども『程々が一番』と説得した。
その甲斐あって、最近ではニコが理解を示してくれるようになってきた。
甘やかしてもいい時は甘やかし、叱る時は叱る。
イチコの時は出来なかったことが、今では出来るようになった。
完璧なママには遠いけれど、私頑張るね
「前から気になってたこと聞いていい?」
「なあに、ママ」
「私があげる肥料は特別美味しいって言うけど本当?
イチコも言ってたけど、他の人があげる時より喜ぶよね?」
「え、ママ分かんないの!?」
「そんなに驚くような事?」
「そうだよ、常識だよ!」
まさか喋る苺に『常識』を言われるとは……
ママって驚きがいっぱいだ。
「そっか常識か……
でもママは知らないから教えてくれる?」
「もちろん!」
ニコは嬉しそうに教えてくれた。
「ママの愛情が入っているからだよ。
愛情は最高のスパイスって言うでしょ」
【終わらせないで】
そいつはちょいと厳しいんじゃないか。
目の前のつむじを見ているとそんな考えがはたと浮かぶ。目の前の女性はなりふり構わずと言った具合で頭を下げているが、いくら喫茶店といえ制服女子に頭を下げさせてるおっさんはだいぶ目立つ。そんなことにも気づいてくれないあたり、僕ができない、する気がないとかじゃなくて上手くいかない気がする。
特に、引退して筆を折った小説家に何故か聞いてくれ、なんて。デリカシーの欠けらも無い。一生紙で指を切り続ければいい。そもそも探偵は人を探すまでで終わるものなんだが。
しかしこのまんま頭を下げられ続けてもこちらも困る。
「んーまぁ、事情は理解できないけど仕事は仕事だ引き受けよう」
「本当ですか!?」
「ただし」
がばりと頭を上げ目を輝かせた少女に興味を失い、往来へ目を移す。ストローに口をつけ、アイスコーヒーで喉を湿らす。私のプライドにかけてできるだけ言いたくないことの滑りを少しでも良くするため。
「…………できるところまで、だ」
「わ、分かってます、無理は言えませんもの……」
心根が正直なのだろう。表情に不満が全く隠せていないが、とりあえず口では納得してくれた。不満がある理由もたいてい察しがついている。彼女はバレてないと思っているだろうが、名乗った苗字は彼女の探し人の【本名の】苗字と一緒なのだから。依頼人の事情に深入りするのは探偵として良くないのだが、今回はそもそも依頼が悪い。
なんてたって似たような依頼をこの前受けたばかりなのが何よりタイミングとして悪い。
少女が何度も頭を下げて帰っていくのを、財布から出ていった英世とともに見送る。
そのまま姿が見えなくなった頃。
「まさか、依頼達成前にあっちから来るなんてびっくりですね。目的達成でいいですか?」
「まぁ君の力とも言えないが達成は達成だ」
後ろの席から、タール数が多いタバコのような重い声。そうしてそのまま僕の正面に座るのはいかにも頑固なおじいさんで、そして。
「【孫】を見つけてくれてありがとう」
深々と頭を下げる『依頼人』。
「いいえ、【小説家】さん。今回は私が積極的に解決したわけじゃありませんから。依頼料も少しでいいです。」
彼が差し出した封筒から喫茶店代だけ抜いて返す。
彼の感謝もその程度で、いい。
「それよりもですね」
僕は友人へタバコを差し出す。
それを何も言わず受け取る彼に問いかける。
「なんで今になって、こんなこと依頼してあの子に僕を頼るような手紙まで送ったんですか?」
答えずに彼は貰ったタバコに火をつける。そして、深く吸い込み、そして細く長く、なにか詰まったかのように長く吐き出して、ようやく口を開いた。
「終わらせないでほしかったからだよ」
それは後悔でもあり、日差しを浴びる老人のような全てを置いてきた人の表情でもあった。
だが、そんな感傷は許さない。
探偵としての僕と、友人としての僕の珍しい意見一致だった。
「自分の夢を?それとも孫娘の夢を?」
「……いいじゃないか」
「考えたんです」
彼の言葉は、弱かった。
それが許せない。僕の良くないとこだ。
「ねぇ、あなた。孫にしか伝わらないようなメッセージかなにか書いたものに忍ばせていたでしょう。
たぶん、自分を追って小説家になろうとするあの子を応援するような」
じゃないと、【顔を見せない祖父が】【筆を折った程度で】一介の女子高生でしかない彼女が怪しい手紙に示された怪しい探偵を頼ってまで探そうとするはずがない」
きっと両親には反対されていたんでしょうかね?僕が奢った1番小さなパフェでものすごく喜んで食べていた、生活が困窮しているのでしょうか。それとも夢を見ること自体禁止されているのか……自分の親のようになって欲しくないから」
ねぇ、どうなんですか?」
口矢を射る度、彼の表情は強ばる。
だがそれでも止まれなかった。
1度区切りをつけると彼は口を開こうとして、やめて、それを2度繰り返した。だから僕はまっすぐその目を見返して、その行き先をうながす。
「それは……お前の推理か?」
答えだった。僕と彼の間では。
だから、僕も彼に答える。
「証拠がないから妄想ですよ。探偵としては失格です。けれど」
「友人としてはこれ以上ないぐらいでしょう?
何せ、僕も終わらせないで欲しい側ですから」
「それは、あいつの夢をか、それとも俺の小説か」
「言わせないでくださいよ。推理不要なので。」
彼は微かに笑った。いつの間にかタバコの火は消されていた。残り火もなく綺麗に。
「終わらせないで」
絶望のまま終わりたくない。
最後には笑って逝くよ。
4年に一度のオリンピック。4年間の努力の結果が数日間で、終わってしまう。たった数日間だからこそ、感動するのだろうけれども、終わらせないでと思ってしまう。次回のオリンピックに思いを馳せて、選手たちの今日の努力を思う。
先輩がもう少しで卒業する、、、私たちが後輩を引っ張っていくのが不安。とにかく不安
燦燦と巡る日々に
もう戻れない私であったとしても
愛は、光としてあるから
生きていく
あの人が私にそう期待してくれたように
手を放す覚悟はまだ持てない
思い出に縋ってしまうこともある
それでも私は、進んでいくから
だから、もう少しだけ、ここにいさせて
ゆっくりと意識を呼び起こすと、心地よい温もりが伝わって安心を覚えた。
俺の腕の中には、愛しい彼女が俺に寄り添って眠っていて、規則的な寝息が聞こえてくる。
彼女の頬に触れると、柔らかくて愛しさが増した。
ゆっくりと彼女の瞳が開けられると、微睡んだ瞳が俺をしっかりと捉える。そして彼女の手が重ねられ、目を細めて頬擦りをしてくれた。
「だいすき……」
力の抜けた甘い声が囁かれて胸が高鳴る。
「起きたくない……」
俺は彼女の身体を抱き寄せると、彼女も俺の身体を抱き締めた。
「そうだね」
この甘くて愛おしい時間を、終わらせないで欲しい。
おわり
一九六、終わらせないで
終わらせないで
あなただけ先に課題終わらせないで
〈終わらせないで〉
終わらせないで、このロックンロールを
終わらせないよ、このロックンロールを
終わらせやしないさ、このロックンロールを
終わらせたくない、このロックンロール
真黒に浮かぶ光の束を集めた様な金髪を嫌いだといつも彼女は譫言のように繰り返す。
その温度のない暖色はまるで月の光みたいだと思った。
政府というのは使い潰しが聞かないものほど消費したがる様に思える。子供の頃から理解していたとはいえ、再度思い知らされれば、デスクの上に置かれた嫌という程見慣れた1枚の紙を見て深い溜息が漏れた。
現在、CP9全員が何処かしらで潜入調査をしている中で書類が回ってくるのは当然補佐の自分だが、どうにも向いていないものばかりが回ってくる。これならば夜にルッチやジャブラが任務から抜け出して来た方が良いように思われた。しかし、そう言おうものならすかさず目の前の上司が罵って来ることが容易に想像できてしまい、結局黙り込むしかない。
「それじゃあ期限は明日までだ。よろしく」
「……承知しました」
無表情に告げられた言葉に是とだけ答え挨拶もそこそこに部屋を出ると、廊下では現在は潜入調査中であるはずの、同じくCP9所属のカリファが立ち止まっていた。艶やかな長い髪を揺らしながら振り返った彼女は、手に持っていた封筒を見せ付けるように翳す。
「それじゃあ、任務に行きましょう」
故郷の友人からとでも言うような安っぽいフリをした茶封筒が憎々しげに揺れていた。
小さな水飛沫を上げて存外静かに走る海列車の中、海上が夜空を反射して彩られているのを車窓から眺める。そうしてチラリと目の前の彼女を見た。彼女にはあの、遥か遠くで燃える宇宙の屑は何に見えているだろう。そう考えて様子を伺ったところで精巧な陶芸品の様に美しい笑みは微動だにせず、まるで呼吸すらしていないのではと思えるほどの静けさ。ああ、彼女との静かな夜と空間には慣れている筈なのに。真暗の部屋の中、生傷だらけの身体をまさぐって微々たる欲を満たす行為は怠惰的で、いかにも私達らしい。そういう時は、声も出さないし話もしない。ただお互いの吐いた息を聞いて、真っ白なシーツに溺れるだけ。温度のない官能が私達の関係を形どっていた。
今夜の任務は謂わば、一夜限りのランデブー。だだしそこにはロマンスの欠片も無い。財を尽くした豪奢な装飾の窓越しに見えるパーティー会場では著名な貴族が数名。音もなく降り立ったバルコニーで二人きり。
「5分以内に。」
数年ぶりに聞いた声は何故か甘さを帯びていて、けれど何処か喜色めいている。まるで酩酊しているかのような心地の柔かいその声と瞳、なによりその金糸の髪が信じられないほど美しい。
ドアを合図で破壊し、逃避口を塞ぎながら見たダンスホールの真ん中で踊るように血を浴びる同僚の姿を眺める。いやに楽しげに人の命を奪うその様があまりにも鮮やかだった。それはまるで雪原の中で舞う蝶のように。普段の静かな美しさとは対照的な、狂気なまでの無邪気さが彼女を悲しい化け物だと思い出させる。本来なら、要人を確認した後火を放つなりするだけで事足りた任務。それなのに確実性を重視、なんて言い訳じみた理由まで用意して会場に踏み込んだのは、彼女の判断に逆らわなかったからだ。言葉で従わせようとすれば出来た。彼女を止めることが容易な事も知っている。それでも引き留めようと思わなかったのは、きっと私もこの時間が楽しいから。私も彼女があの海上の夜空よりもギラギラと眩く輝くこの時間を心待ちにしていたから。
スプリングがギイギイと軋むベッドの上で、微睡む美しい怪物に身を寄せて、その鼓動を聞いた。人間離れした可哀想な程の強さと美しさに惹かれながらも、一欠片残った人間的な部分を求めた。この人間によって生み出された哀れな人間もどきの、本当を知っているのは私だけなのだという優越感に浸りたくて。滑らかな柔い肌の、まだ新しい無数の傷痕の残る背中に腕を回す。あの時のように。彼女が人間を取り戻すのは、きっと人を殺した後とベッドの上だけだ。
燃やした屋敷が爆発し、飛んできた肉片に塗れながら2人で顔を見合わせた。お互いの素肌に滴る血を見て初めて目の前で笑った。私の上に乗る彼女の、カーテンの様な黄金色が赤に染められたのが黄昏を彷彿とさせて。未だ荒い呼吸に、染み付いた血の香りと焼ける肉の匂いが鼻についた。
「カリファ。」
任務の終了を確認しようと声を出すと、それを遮るように顔を覆う髪の毛と暗い紫色の瞳が真っ直ぐ私を射抜く。人を殺したばかりの血まみれの指で顔を掬われ、鉄臭いキスをした。
死に逝く人に差し伸べすらしなかった指先で愛おしい人の髪を梳く。仕事だと割り切れている時点で狂っている。それなら、世界が彼女を作ったのなら、もう合わせる必要などきっとない。どんな地獄だって彼女と一緒なら堕ちてゆける。美しい声で囁かれる願いのためにどんな事だってできるだろう。どんなに痛くてもいい。いつか忘れるくらいなら、このぬるま湯みたいな関係が永遠に終わらないでほしい。心残りばかりでは簡単に終わらせられなどしないけれど。赤と黒と金、魂にまで焼き付いたそれは間違いなくわたしの救いの色だ。ぐちゃぐちゃになったその色で、どんな地獄だって生き抜いてやろう。
きっと覚えている。忘れずに心で巣食っている。
きっと覚えていて欲しい。終末なんかでは終われないから。
季節外れの向日葵の様な髪が好きだと戯言の様に繰り返す。
私には、その透ける金色が温度のない私達に確かな鼓動を与えてくれるように思えたのだ。
夢小説。
終わらせないで
たった一言、彼が放った私への暴言。
私は常に、受け止めてはすぐに捨てるように心がけている。
もう一年以上。毎日とまでは行かないが、続いている現状。
私が受け止めて捨てることを繰り返せば、私たちの関係は終わることは無いし崩れることもきっと無い。
彼のことは好きだ。
簡単な気持ちだけで結婚したわけじゃないのは事実で、何もかもを受け入れて、何もかもを受け入れて貰えると思っていたから。
毎日の笑顔は絶やしていないし、感謝の気持ちもある。
『終わらせないで』
私の頭の中にいる、彼を心から愛する人格が、今日も私に繰り返させる。
終わらせないよ。
まだね。
つらくても、あなたのために私は繰り返す。
終わらせないよ。大丈夫。
私も終わらせたくないから。