『病室』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
病室からの景色も悪くない。
いつ消えるかわからないこの灯火。
できればもう一回だけ雪が見たい。
遊ぶのは許されないだろうけど、
最後にもう一回。
【No. 17 病室】
「田中さ~ん」
しまったああああああっ!
気づいた時にはもうすでに問診である
大部屋の部屋で隠れてナースもののAVを鑑賞するという私の新たな挑戦は
モノホンのナースさんの一声で一気に現実を叩きつけられた
当初はスマホでこっそり眺める程度であったが、入院の日々を重ねるうちに次第に大胆になっていた
完全に油断していたのである
備え付けのテレビに繋いだ片耳のケーブルからは両手を骨折した情けない男が
体が痒くて仕方ないんです、お風呂いいですか?と、どこか上から目線でのたうちまわっている
反対の耳からは
「田中さ~ん、問診ですよ~」
と担当のナースさんが近づいてくる
両手骨折とかまあまあ珍しいですね、と笑ってくれたあのナースさんが
正直、期待していた気持ちもある
私は中学二年生の頃、友達から聞いた伝説を信じていた
両手骨折とかで入院したらナースが体洗ってくれる、らしいよ、て
まさか40も過ぎて自分がそのシチュエーションになるとは思わなかったけど
両手を骨折した時に真っ先に思い浮かんだのがこの伝説だった
私は現実を知ることになる
いかにもヤブ医者っぽいアル中めいたイカつい医者から、幸い手首固定で大丈夫なので身の回りのことは出来るでしょう
まあとにかく不便でしょうけどお風呂くらいなら自分で入れますよ、良かったですねニコ
つって
聞いてた話と全然違うやん、と思いながら頑張って一人でお風呂をこなす日々
普段、職業ものは見ない私がナースものに手を出したのはきっと、その鬱憤だと思います
とにかく時間が迫っている
両手骨折したヤツが両手骨折したシチュエーションのAV見てるとか知られた日には治ってもないのに退院である
焦るほど手が覚束ない
リモコンが手から滑り落ちる
慌てて拾おうと体を急に起こすとイヤホンがテレビから抜けた
テレビでは今まさにおっぱじめる場面
大部屋に大音量で
画面の中の男がのたうちまわる
『病室』
2024 8月2日
うざったいくらいの晴天のもとをを歩きながら、君に会いに行った。
君の病室は暗く重い、まるで曇天だ。君は窓の外を眺めている。その姿に光は見られない。こちらを見ずに君は、
「何で来たの。」
と言う。その声は無機質だった。
「病状が回復に向かっている、と先生から聞いて。もう少しいけば、仮退院もできるそうだし。」
「いいの、私はまだここにいたいの。」
その言葉を聞いて、わからなかった、こんな鳥籠のような場所にいる理由が。
「なんでここにいたいの?外は楽しいことがたくさんあるのに?お祭りとか一緒に行きたいよ。」
「私には明るすぎる。だから、ここに1人でいたいの。」
「君は僕にとっての明かりだったのに…。」
「もう、私は君のためにはなれないよ。」
その言葉は聞きたくなかった。
静寂な病室でただ時間がひたすらにすぎていった。
もう、終わりの時間が近づいてきていた。
最後に君に伝えた、
「今度は僕が君に光を灯すよ、君のためになりたいから。」
君は何も言わないし、こちらも見なかった。
僕は病室を去った。明日、もし晴れたらまた来るよと伝えて。
【病室】
◀◀【澄んだ瞳】からの続きです◀◀
―― 僕を……知っている ……?
どういうこと?思い掛けないヴィルケの言葉に目を丸くし、返す言葉が思いつかずアランは目の前の青年をただ茫然と見つめ返すだけだった。しばしの沈黙。なにか言おうとヴィルケが口を動かしかけたその時、見計らったかのようにCT検査室のドアが開いてドクターが顔を出した。
「ジュノーさん、患者の検査結果が出ました、どうぞ中へ」
「 ―― ああ、わかりました。ヴィルケくん、行こう」
ポカンと見つめあったままだったアランとヴィルケはそれを潮に我に返り、マルテッロのいる検査室の中へと連れ立って移動した。
「ホッとしたよ、最悪の事態に至ってなくて」
ドクターの説明を受けたあと、今度は入院準備のための控えの病室に移り、ストレッチャーの上で眠り続けるマルテッロを視界に入れながら、二人は壁際に据え置かれたロビーチェアに腰をおろして一息ついていた。
検査の結果、マルテッロの脳動脈に小さな瘤が見つかった。それが倒れた原因で、放置しておけばかなり危険な病根であったが、このたびの早期発見により、ちょっとした手術をしてしばらく入院すれば回復すると言うことであった。
「本当に……感謝してもし尽くせません、ア……いや、ジュノーさん。あなたのおかげです。あなたが助けてくれたから……」
マルテッロが回復するとわかり、張りつめていた心の糸が緩んだのだろう。壁に頭を凭れさせたややしどけない仕草でアランに顔を向け、弱々しい微笑みを浮かべてヴィルケは礼を述べる。
「異議あり。最大功労者は君だと思うな。倒れた彼の処置を後回しにせず、なりふりかまわず偶然通りがかった僕を捕まえて、迅速に病院へ運び込ませたからだよ。そしてその間にちゃっかり納品もこなしてきたんだから、君、かなりしたたか者だね。ただの若手グレーカラーとは思えないよ」
しおらしいヴィルケとは対照的にアランは意地悪な笑みでやり返した。途端にヴィルケは、また耳まで真っ赤になって姿勢を正し、哀れなほどうろたえてアランに弁明しようとする。
「そんな!……、ジュノーさん、僕は決して、あなたを都合よく利用したわけではなく……」
「冗談だよ、ヴィルケくん」
必死に申し開くヴィルケをクスクス笑ってなだめながらスマートフォンを取り出したアランは、ケースポケットに挟んでいた彼の名刺を手にしてしげしげと眺めたあと、ヴィルケに視線を変えて訊いた。
「イダ・スティール・プロダクツの従業員……ということは……何年か前に僕のワークショップに参加してくれた人かな?それで僕のことを知っていたのかい?」
▶▶またどこかのお題へ続く予定です▶▶
病室ように潔癖な彼女の部屋に、異質なカエルのぬいぐるみ。
ひとつではない。形を変え大小問わず大量のぬいぐるみ。
しかも一体ずつ名前もあると。
予想だにしなかった彼女の意外性。
人は裏切るけど、この子たちは裏切らないから。
体温のない声でカエルを抱きしめながら彼女は独りごちる。
過去に何があったの。
それには答えず、冷蔵庫からビールを取り出した。
さ、飲もう飲もう、今日も一日お疲れ様
カエルのぬいぐるみを抱き抱えながら。
花が嫌い。
いつか散るから。
果物が嫌い。
いつか腐るから。
白が嫌い。
何にでも染まりやすいから。
消毒液が嫌い。
鼻につんとくるから。
手術が嫌い。
痛いし、辛いから。
窓の景色が嫌い。
いつも代わり映えがないから。
今日も生と死の狭間を揺蕩っている。
自分が嫌い。
2024/08/02 #病室
生まれてこのかた病室とは縁がない。
インフルエンザは予防接種したことがない。
それでもかかったことがない。
強い思想があるわけではない。
単に注射が怖いだけ。
骨を折ったこともない。
臓器も血液も至って正常で、
入院も手術も通院も無縁だ。
歯医者と眼科を除いて。
だから、病室が怖い。
この部屋の中でいくつ命の灯が消えたんだろう、
いまもこの建物の中のどこかで消えかかって
いるんだろう、骨を折った友人の見舞いの最中にも、
そんなことをふと考えてしまう。
(現パロ)
「大丈夫なのかい!!」
そんな声が病室に響き渡った。
「……うるさいよ、フォルテ」
ボクがそう声を上げれば、足音が近づいてきてカーテンが開かれた。
「…………大丈夫なのかい」
「ここはさ、複数人が同時に入院できる病室なんだからさ、万が一他の人がいたらどうすんの」
「いないことは確認済みだよ」
「…………そういう問題じゃないよね」
ボクがため息をつくと、少しだけ心配そうな顔をしながら言った。
「それで、大丈夫かい? 交通事故にあったって聞いたけど」
「大丈夫。足が折れてるけど、そんくらい」
「足が折れてるのは一大事なんだよ」
「心配症だな、フォルテは」
まるで自分のことのように慌てているフォルテを見ていると、少しだけ落ちていた気分も紛れてきて、ボクは少しだけ微笑んだ。
病室
思い出すのは 夏休み
窓際のベッドからみた青空
カーテンが風に揺れて
セミの声が聞こえてた
初めて買ってもらった漫画
おいしく感じたカルピス
大事なく一週間で退院
あの夏はちょっと痛い思い出
お題「病室」
病室の窓から眺める外はいつも同じ景色でつまらない
だが、とある季節の時だけは嫌いじゃない
それは春
春になると桜が見える
その桜が散っていく儚さが私は好きだ
あぁ、早く春にならないかな
・病室
ここには何でもある。
いつだって好きな本を読んで好きな世界に行ける。
好きな音楽を聴いて好きな感情に浸れる。
好きなお菓子を満足するまで好きなだけ食べられる。
ここに私を傷つける人はいないし、私を否定する人はいない。
私好みにレイアウトされた大好きな私の部屋、どうか私の心が治るまで好きなだけいさせてね。
病室から聞こえる笑い声
明日もこの笑いを聞くことは出来るのだろうか、
今日も聞けたよと昨日の自分に伝えたい
「病室」#14
「元気になったらアイス屋に行こう」
なんて約束をしてから3年。白血病で病室にいる親友の君と画面越しに交わした約束。
君は私との約束を果たせずに永遠の眠りについた。
治らないなんて思いもしなかった 。
@病室
廊下から聞こえてくる足音。
コツコツと迫ってるように聞こえる。
窓の外から聞こえるどんちゃん騒ぎ。
遠くに見える色とりどりの大きな花。
「行ってみたい」
自分の思いに身を任せ一歩。
動かない体を引っ張って一歩。
扉に手をかけて深呼吸。
扉が開く。
足音の正体と対面。
その瞬間、体が軽くなった気がした。
病室
アルコールのツンとした匂いに落ち着かなくて、あまり好きでは無い場所。
出来れば行きたくないが、今度の日曜に予防接種に行かなければならないらしい。
あぁ、嫌だ。考えただけで気が滅入る。誰か変わってくれないか……!
【病室】
誰にも聴こえない声がきこえるらしい
誰にも見えないものが見えているらしい
真っ白い空間で完璧に管理され
他者と違うのだと強制的に自覚させられる
果たしてどちらが治療を受けているのか
皆自分勝手に僕が期待通りの言葉を行動を取るものだと
白い色が正だというくせに
その内に孕んだどす黒い色が口を動かして
好き勝手に部屋を汚い色で染めていく
そうやって押し込められるほどに
遠かった声も瞼の裏の色も存在感を増していく
人間となにかの狭間で呼吸が窮屈になっていく
僕が居なくなることが正しいのならそうしてしまおうか
毎日の診察でもう限界のはずなのに
耳元まで近づいた声が僕をどうしても引き留める
もしこの声に捕まったら終わりが来るのならどんなに幸せなのか
点滴で流し込まれる”正常な人”の思考回路が混ざりこんで
ここが現実なのか夢なのかもはや僕にはわからない
目前に迫っている綺麗な色がまだ生を歌うから
注ぎ込まれる偽物の栄養に抗って
真っ白い壁を汚い汚れがしみ込んだ壁を彩る
くぐもった思考回路でさえ救いが
どちらにあるのかは明白で
こんな囲まれた場所から抜け出すためきみの手を取った
2024-08-02
はじまりの場所。
まだ蒼く、小さく泣くあなたを胸に抱いた時。
「愛しい」という言葉の意味を知った。
大人の親指ほどの握り拳を、胸の膨らみに押し当て、顔を横に向けたまま、この世界に産声を聞かせてくれた。
とても小さな、小さな足裏を必死に蹴り上げて雄飛する。
歪だけど、愛らしく丸い頭を両手で包みこんだ。
どんな人も。
生まれ落ちた瞬間は、平等に愛される権利がある筈。
例え。
愛されなくても。
愛する権利を私達は持ち合わせてる。
題:病室
病室にお見舞いで行くことはよくあった。
数日で何年分かを過ごしたようになる。
その度に覚悟をしなくてはと暗い布団に潜っていた。
窓の外には葉が沢山の桜の木がある。あの葉が落ちたら私、死ぬんだなんて在り来りのセリフも言えないくらいに。隣のベットに眠っていた女の子は集中治療室に行ったっきり。懐いてくれてたんだけどなぁ。部屋が広く感じて心細い。隣にいる子達はどんどん変わっていくのに私はずっと同じ場所。早く葉っぱ、全部落ちたらいいのに。
「えっ…?」
深夜、病室の窓から女の子が入ってきた。
ここは4階。
さっきまで、明日の手術が怖くて眠れない時間を過ごしていたのに、それよりも怖い出来事が起きてしまった。
パニックを起こしても無理はないだろう。
ところが、
「あ、こんばんは。私、エミリって言います。初めまして」
なんて、可愛く微笑みながら言うもんだから、もはや怖さよりも不思議の方が勝ってきてる。
「こんばんは…って、なんで窓から?ここ4階だよ?」
「ああ、夜は病院の入口が閉まってるから。」
「いや、答えになってないよ。どうやって上がってきたの?」
「え?見て分かるでしょ。私、幽霊だよ。高さなんて関係ないから」
…そーゆーもんなの?じゃあ、入口が閉まってたって通り抜けられるんじゃ…という言葉を飲み込む。
「そーなんだ。ごめんね、私、幽霊って詳しくなくて」
「なんで謝るの?ところでおねーさん、明日手術なんでしょ?」
「そうだけど…なんで知ってるの?」
「んー、幽霊だから」
…答えになってないって。
「そんなことよりさ、手術、怖い?どんな気持ち?」
「そりゃ怖いよ。逃げ出したくて仕方がない」
「そっか。そー思ってね、私が出てきたの」
「…どーゆーこと?」
「あんまり時間がなくてさ。手短に言うね」
彼女の身の上話だった。
以前、この病院に入院していたこと。
手術が必要だったが、ある理由から輸血が許されず、手術を受けられないままに亡くなってしまったこと。
あとは…何故かどこへも行けず、ずっとこの病院の周りを彷徨っていること。
「たぶん、この世界にサヨナラする気持ちが出来上がってなかったからだろーね、って、あのおじいさんが」
「おじいさん?」
「うん。あなたのおじいさんだって。二ヶ月前に死んじゃったって」
「え…?会ったの?」
「会ったってゆーか、最近ずっと一緒にいる。なんかね、自分が死ぬ直前に突然おねーさんがこれから入院ってなって、心配しながら死んだせいか、うまく成仏出来ないんだって」
「…罪悪感でいっぱいになりそうなこと、さらっと言うね」
「だからね、見守ってるから大丈夫だって」
「…ここには来れないの?」
「来てるよ。窓の外にいるんだけど…見えないんだね」
窓の外には夜の闇。人の姿はない。
「あなたは、こんなにはっきり見えるのに」
「私はね、手術がしたかったんだ。そしてもっと生きたかった。だから、おねーさんが羨ましいの。はっきり見えてても、私はもうこの世にはいないからね」
少しだけ、病室の窓が揺れて音を立てる。
「おじいさんが、頑張れって。まだこっちに来るなって。心配してくれる人がいるのも、羨ましいよ」
少女が目を伏せて、悲しそうな表情を見せる。
彼女の両親のことを聞こうとしたが、聞けなかった。
「だからね、もう心配しないで。今夜はゆっくり休んで、明日のために」
「…そーだね。生きるために、頑張んなきゃね」
あなたの分も…生きるよ。これは言葉に出来ない。
「あ、それと、これ」
蝶々の髪飾り。ローマ字で「Emilie」とある。
「私の名前入っちゃっててゴメンだけど、良かったら使って。ベットの下に落としたまま、誰も気付いてくれなくて」
「ありがとう。大事にするね」
「うん。それで、私の分も生きてね」
…さらっと言われた。
「じゃあ、行くね。あ、看護師の相田さんに、お世話になりましたってお礼言っといて」
「びっくりしちゃうだろうけど、言っとくよ」
「じゃあ、バイバイ。おじいさんも手を振ってる」
「うん。バイバイ。おじいちゃん、見守っててくれてありがとう」
「あー、おじいさん、泣いてる。大人も泣くん…」
気付いたら、私以外、誰もいない病室。
いつのまにか、窓の外には雨が降っていた。
おじいちゃん、あの子をよろしくね。
暗い窓の向こうにささやいた。
次の日、ナースステーションに向かう途中で、相田さんに会った。
私の髪を見て、足を止める。
「それ…どこにあったんですか?」
蝶々の髪飾り。気付いてくれた。
「私のベッドの下に。エミリちゃんのですよね」
「え…?どうして笑里ちゃんのこと…会ったことないですよね?」
「会いました。可愛い子でした」
「そんな訳ないですよ。亡くなったの、もう何年も前ですよ?」
廊下で二人、少し涙ぐんで。
相田さんは私の話を信じてくれた。
エミリちゃん、私よりお姉さんだったのかもしれないな。