『半袖』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
ジメジメと蒸し暑い日が近づいて半袖を着る人が増えてきた
例に漏れず自分も半袖を着ている
ただ、どういう訳か友人は半袖の上に黒いカーディガンを羽織っている
暑くないの?と聞くと
もちろん暑い
黒いから熱を吸収して、ことさらに暑い
それでも何か羽織りたいのだ
と返ってくる
じゃあなんで、とさらに聞くと
「なんとなく」
そうはぐらかされた
梅雨が明け、本格的な夏がやってきた
おはよう、そう言ってやってきた友人は半袖だった
「半袖だ」
「暑いからね」
半袖から見えた彼女の腕は白く、眩しかった
〜半袖〜
★半袖
梅雨入りをした。
蒸し暑さとこれからくる夏のために
衣替えをしなければとクローゼットを整理する。
半袖のシャツと長袖の薄手の上着を何着か出して
左腕を眺める。
やはり夏になっても腕は出せない。
薄くなってきてはいるものの
人には見せられない幾つかの傷があった。
新しい傷はないけれど
それを見て心が落ち着くということは
私はあの頃と何も変わっていないのかもしれない
それでも、あの頃よりは少しはマシに生きている
そう思いたい
半袖から見えるはんこ注射に
あの日、泣き叫んでいたあなたが蘇る。
寒いよ、、。
過去の私達はいつもそう言っていた。真冬の空に親子で2人。寒いよお母さん、、。
ごめんね寒いね、、。
私達はいつもおんなじ服を着てたね。雪の滴る街で、半袖2着。お揃いだねお母さん、、。
そうだねお揃い、、。
大好きだよお母さん、、お母さんもだよ、、。
私達は2人で1つ。心は熱いよ、
ありがとお母さん。いつまでも。
〜半袖〜
半袖、夏、虫かご
あなたの笑顔が眩しい、あの夏の日
―半袖―
せっかく可愛い半袖シャツを見つけたのに
寒くなったら着れないじゃない
女の子は大変だ
どんなに暑くても日に焼けないように長袖を着て
いつだって可愛くあるためにメイクをして
女の子の日はイライラしちゃうし
女の子同士の関係もなにかの弾みですぐ壊れちゃう
もっと楽に生きられたらって思う
だからといって男の子にはそれなりの大変があるし
なりたいとも思わない
アダムとイブを作り出した神は
とても残酷だと思う
もう少し若い頃は抵抗があった。時期が来たからと言ってすぐには…。そんな感じ。
今はただただ快適を優先させるのみ。早め早めではいスッキリ♪
誰も見ちゃーおらんよ。思い出すのは母の声。
わたしの彼氏はいつも半袖だった。
イケメンで、優しくて、勉強も運動もできて……毎日半袖。冬でも半袖。
なんで?
その一点において激しく疑問を抱えていたわたしは、彼に尋ねることにした。
「どうしていつも半袖なの?」
すると彼は、
「うーん。まあ、強いて言えば、お前の愛が熱いから」
それは冗談をいう顔ではなく、マジだった。
「うっわ」
最悪である。とんでもないリアクションが口から漏れてしまった。
聞かれてないことを祈りつつ、彼を見やる。
彼はなんかすごく誤魔化すようにひどく変な顔をしていた。
やっぱりマジだったのか……。
凄いなわたしの愛!!
わたしが彼を愛しているかぎり、彼はわたしの愛を感じながら半袖を着続けるわけだ。
こんな簡単な相思相愛の確認方法があったのか。
わたしは、今度こそ確かな気持ちを言葉にする。
「もっと熱いやつ、半袖さえ着れないほどの愛を送ってやるよ」
「ふふっ、俺も負けてらんないな」
こうして、半袖男とノースリーブ女のカップルが誕生したとさ。めでたし。めでたし。
〜半袖〜
年間通して長袖しか着ないな。袖を捲くるだけだわ。「あれ?」ってなったら秒速で腹壊してるのと、日焼け対策に。マジで真っ赤になるだけなって皮むけて戻るからね。焼け損だよ。皮膚がんの可能性も高いとかさ、最悪じゃん。顔に日焼け止め塗って出てるとこ全部スプレーして長袖羽織る。
最近は涼しい素材多くていいけど、本気で真夏はセーブポイントかなってくらいには見えたコンビニ全部入るわ。そうすると寒暖差で腹壊すから長袖になるね。
【半袖】
半袖を ひと夏ばかりと 思うなかれ 大晦日でも 通常着用
悲しいかな、この句は実話である。我々の仕事は、大小さまざまな荷物を日々取り扱っている。暑い夏はもちろんのこと、秋から冬にかけて寒さが増す季節でも、長袖のシャツを着る気にはなれない。ゆえに、1年の最後の日であっても半袖Tシャツは欠かせない。
周りからは、様々な意見がある。見ていて寒々しいとか、季節感がないとか、元気だねーとか、小学生みたいだねとか…総じて褒められてはいない。むしろ、不評であると思われる。
というわけで、最近は折衷案としと「半袖Tシャツの上にカーディガンを羽織る」方式を採用している。でも、長年半袖で仕事していた習慣というものはなかなか抜けない。羽織っていたはずのカーディガンが、秒で行方不明になるのは日常茶飯事だ。
仕事からの帰り道、同じく冬でも半袖姿の運送業の兄さんたちを見ると思わず応援せずにはいられない。もちろん、長袖であっても半袖であっても誰かのために働く人たちは皆素晴らしい。服装をはじめ、それぞれが自分の働きやすいスタイルで仕事ができればそれでよいのだと思う。
ちなみに、現在抱える深刻な悩みで一句。
Tシャツを 新調したいが 値が上がり シーズンオフまで 我が待つ身かな
『半袖』
半袖の季節
それでも僕は
半袖が着られない
誰にも見せられない
僕の腕
乃木坂46のサードシングル『走れ!Bicycle』は、乃木坂のメンバーたちが半袖の衣装を着て自転車に乗っている姿が印象的だった。
『半袖』
(男性同士の恋愛を匂わせていますので、苦手な方はお逃げくださいませ)
半袖というと思い出す、俺・正宏とアイツ・卓弥の夏。
梅雨に入る前にもう夏かよ、ってな暑い日が続いて、さすがに学校も個人の判断に任せると言い出したある日、俺達は半袖のお供、シーブリーズを買いにきた。
その頃、付き合ってる者同士はシーブリーズのキャップを取り替えるってのが流行りだしてて、クラスでもクラブでもキャップの色が違うのを持っているのがステータスだったんだ。
でも悲しいかな。
俺達は付き合ってる、なんて堂々とは言えない訳で。
2年後、お互い志望の大学に入れたらシェアリングと言う名の同棲をしような、なんて約束していて。
(それまでは、こういったイチャイチャはお預けたよなぁ)
なんて俺は、シーブリーズをぼんやり眺めていた。
「ヒロ、どれにするか決めたん?」
親に頼まれた歯みがき粉を取りに行ってた卓弥が、後ろから声をかける。
「あ、うん。俺、これにしよかな。シトラスシャーベット」
「それ、めっちゃ冷たくなるヤツやろ。俺もそうしよ」
卓弥はふたつそれを持つと、全部まとめて会計をしてくれて。
「ええって。自分で買うって」
「かめへん、かめへん。オカンかお釣りで茶でもシバいてこいって余分にくれてるねん。マクドもおごれるで、今日は」
あ、イケメンのドヤ顔。
ちょっと笑ってまう。
「はい、コレ」
キュッとキャップを回して、外したものを取り替える。
それを1本、俺に手渡してくれた。
「エッ?」
「流行ってんねんやろ? 付き合ってる者同士でキャップ交換するの。同じのやけど、俺らが知ってればそれでエエやん」
何やねん、お前!
もう、ホンマ好き!
「なに、シーブリーズ見ながらニヤニヤしてんねん。怪しいヤツ」
シーブリーズの売場で思い出し笑いしてた俺に、卓弥が声をかける。
「柔軟剤、取ってきたで」
そう。
あれから2年。
俺達は晴れて、一緒に暮らす初めての夏を迎える。
『半袖』
私はどんなに暑い夏でも、決して半袖を着ない。
クラスのみんなが、涼しげにきれいな腕を出して半袖の服を着ていても、私は長袖であまりにも暑いとボタンを外し、一つまくり上げるくらい。
絶対に半袖を着ないので、クラスメイトに「何故、めぐみは半袖を着ないの?暑いのに」と、よく言われる。
その度に私は「なんか、半袖って好きじゃないの」と言ってごまかしている。
昔は高校には制服があったと聞く。今でなくて良かった。衣替えの日、みんなが一斉に半袖の制服になるなんて拷問だ。
だけど本当は、あんな風に涼しげに腕を出せたら。でもとても無理だ、と思い諦めていた。
私は、あまり友達がいない。
話しかけてくれる子はいるけれど、私なんかと友達になっても楽しくないと思うから、なんとなくみんなと距離をおいてしまう。
私は母に愛されてない。いつも母は憎々しげに「だいたい、あんたが出来なければ、お父さんとなんか結婚しなかったのに」と言う。
そして更に、私の右腕のひじ近くに、けっこう目立つあざがある。
いびつな形の赤紫色のあざ。
母は、たまたま私がお風呂あがりの時に腕が出ていると、さも嫌そうに「みっともないあざね」と突き放すように言う。そう言われると私が悪かったように、慌てて部屋に行く。
それなのに、妹は母に愛されている事が私はいつも不思議だった。
一度、思い切って母に聞いた事がある。「どうしてお母さんはあの子は可愛がるの?」
「だって、あの子は私が本当に愛した人の子供だから」何でもない事のように母が言う。つまり妹は不倫して出来た子、という事だ。
「あんなお父さんの子なんて、もうまっぴらだもの」と私に向かって言い放つ。
考えてみれば、なんとも理不尽な話だけれど、それでも私は母の愛情が欲しかった。妹を見る母の目はとても優しい。あんな風に一度でいいから、見られたいと、今日も叶わぬ夢を抱く。
だからか、私は可愛げのない子に育った。自分でもこんな自分が嫌いだった。
いっそ死んだら母は泣いてくれるかもしれない、と思い、カッターナイフを手首に押し当てたけれど怖くてだめだった。死ぬ事も上手く生きる事も出来ない、中途半端な私。
その日はいらいらしていた。朝から楽しそうに笑って話す母と妹を見てしまったからかもしれない。
いろいろな感情が複雑に絡み合って、もう何がなんだかわからなくなっていた。学校に行こうと家を出たけれど、なんだか学校も嫌で、途中の公園でベンチに座ってただ空を見ていた。
「なんだ、サボりかよ。大胆だなお前」不意に声をかけられ、びっくりした。それでつい「ああ、びっくりした」と言ってしまった。見ると同じクラスの中島くんだった。
「中島くんこそ遅刻じゃないの?もう」と言うと、何故か彼は私が座っているベンチに、少し距離をおいて座るのだった。
「お前さ」と、突然中島くんが言った。
「なんで、いつもひとりでいるんだよ、声かけてくれる友達いるのに」それに、と更に言った。
「なんで、暑そうな顔しながら、長袖着てんだよ」と言う。私の気持ちなんてなんにも知らないくせに。
私は朝から引きずっているいらいらを、つい中島くんにぶつけてしまった。「友達なんていない、可哀想だと思って時々誰かが声をかけるだけ」そう言うと自分がみじめで更にいらいらが増し、とうとう中島くんに
「これ、見てよ」と、いきなり長袖のボタンを外し、思い切り袖を上に押し上げた。醜いあざが丸見えになる。
「こんなみっともないあざがあるのに半袖着れると思う?」と言った。
気味悪がるだろうと思ったのに、中島くんは何も言わない。引いたのかな、そうだよね、と思っていると、いきなり思ってもみない事を、言った。
「きれいじゃない、それ、ちょうど赤紫色のあじさいの花びらみたいだな」
「このあざが?!きれい?」思わず、他人事だと思って、と腹立たしさがこみ上げ「適当な事、言わないでよ!」
と、叫んでしまった。言ってから、後悔した私はうなだれて「……ごめんね」と言った。
黙って、ふたりで座っていた。
空にはのどかに飛行機が飛ぶ音がしている。
「俺んちさ」急に中島くんが、独り言のように話し出した。
「いっつも親父とお袋が喧嘩しているんだ。それ見ていると嫌になってきてさ、なんで子供は親を選べないんだろうな、なんて思うよ」と言うので驚いた。
中島くんは、クラスでいつも明るい。だから友達も多い。
ああいう、両親に愛されてそれを当たり前だと思って生きてる人もいるんだ、と今まで冷ややかに見ていたのに。
「本当だよね。勝手に子供を産んでおいて、あんたがいなければ、なんて言われても私にはどうしょうもないもの」と、誰にも言えなかった胸に溜まっていたモヤモヤを言葉にした。
「お互い、親には苦労するよな」笑いながら中島くんが言うので、つい私もつられて「本当だよね」と笑ってしまった。
そして、少しためらってから言った。「ねぇ、こんなあざみたいなあじさいの花、本当にあるの?」すると中島くんが「あるよ、教室の廊下の窓から見えるのに。知らなかったの?」と言う。私はなんだか気持ちが軽くなっていく事に驚きながら、言った。
「じゃあ、その花を見て、きれいだと思ったら半袖になるよ」
「なるさ、すごくきれいだもの」
空を見上げる。青空がどこまでも続き、きれいだ。すると中島くんが
「青空ってさ、きれいだけれど」
「どんよりした曇り空で雨がじとじと降らないと、あじさいはきれいに咲かないんだよ」と言った。
そうか、あのきれいな花は鬱陶しいとみんなが思う雨が降らないときれいに咲かないんだ。
私は勢い良く立ち上がり、中島くんに言った。
「もう、完全に遅刻だね、学校、行こうか」
すると中島くんも立ち上がり
「そうだな、ふたり仲良く怒られるか」と言うので思わず笑ってしまった。すると急に顔をそらして
「お前、笑っている方がいいよ。すごくいい笑顔でかわいい」そらした頬が少し赤い。
胸に暖かいものが広がり、いい人だな、と思った。
中島くんの言ったとおり、ふたり仲良く先生に怒られ、クラスメイトからは冷やかされ、私は笑っていた。
休み時間に、教室の廊下の窓から見てみた。本当だ。私のあざみたいな赤紫色のあじさいが咲いている。花びらって、よく見ると歪なのもあるんだ。まるで本当に私のあざとよく似ていた。
こんなところのあじさいに気づく中島くんは、明るく振る舞っているけれど、心には苦しい悲しい物を抱えていたんだ。
翌日、私は半袖を着て行った。少し勇気が必要だったけれど。
教室に入ると、いつも話しかけてくるクラスメイトが「おはよう、めぐみ、半袖着てるじゃない。なんで今まで着なかったの?」と言うので、笑顔で腕を見せて「ほら、ここに赤紫色のあじさいの花みたいなあざがあるでしょ?今まではこれが嫌で半袖着なかったの」と言うと、何でもない様にその子が「本当だ、あざがあったんだ。でも、たしかに教室の廊下の窓から見えるあじさいに似てるね」と言ったのでびっくりして、「知ってたの?」と言うと、肩を揺らしてその子は笑って「いやだ、めぐみったら知らなかったの?みんな知ってるよ」と言った。
なんだ、みんなちゃんとあの花に気づいていたんだ。みんな、もしかしたら何かを抱えているのかな。
私は、初めてその子の名前を呼んだ。「菜月、今まで何度も話しかけてくれてありがとう」菜月は、当然のように「だって友達じゃない」と言った。
私は、私だけ不幸だと思ってひがんでいただけなのかもしれない、と思うと急に恥ずかしくなった。
「なになに?突然顔を赤らめて。今朝は中島とふたり仲良く遅刻するし」そして、菜月が言った。
「帰りにお茶しない?ちょっと聞き出したい事、あるからね」
私は笑顔で「うん、いいよ。でも何を聞きたいの?なんだか怖いなあ」と言った。
じりじりして
すーすーして
春なのか
夏なのか
はっきりしない季節に
誰はばからず
半袖から腕出して
まだ白い腕を
剥き出して
風をきって歩くことの
こころよさ!
あいつもう半袖着てる
この潔さを
なぜだか笑う者に
この清々しさは味わえぬ
解放された素肌が
はじめて息をするように
希望を予感して
風に遊んでいる
#半袖
主要な創作キャラ六人の内、
二人を「半袖を着ないキャラ」にしている。
それぞれ別作品だが、
片方は「筋力の乏しい自身の身体に
コンプレックスを持つため」。
もう片方は「深い火傷の跡を隠すため」。
設定が被っているという自覚はさておき
夏の気配を感じる度に、他人事のように思う。
暑くても半袖を着ないの、大変だよなと。
作者自身は、とても暑がりで寒がりだから……
電子の波が走る液晶の向こうで、今日も清楚に身を包んだ女性キャスターが言葉を紡ぐ。ここ数年ですっかり耳に馴染んでしまった異常気象の四文字は、例年通りの四文字を忘却させてしまうほどだ。
今年のGWは、例年より5度ほど平均気温が高く⸺そう続ける声にも例年との気温差を憂う様子は聞き取れない。もはや何が正常で異常か、その判断すらも危うくなっているように思える。
而して、目下の課題はそのような哲学的なことではなく、タンスから引き出す衣類の判断であった。
「半袖だとまだ朝晩は冷えるかな。かと言って長袖で汗かいても風邪ひいちゃうし…」
顎に手を添えて目を細めた美翠は、数秒の苦渋の末に半袖のTシャツと薄手の長袖シャツを二組取り出した。気温に適した無難な判断に思えるそれも、対象者に限ってはそうとも言えない。
「和は…忘れるかな、うん」
前科がいくつか数えるのは途中でやめた。のんびりとした自分のペースで動いているからか、本人も反省の色は持っていない。注意力は自ずとついてくるだろうという希望を持ちつつ、美翠は慣れた手つきで連絡帳にボールペンを走らせる。
保育士も多忙な業務の最中、園児一人の朝の装いを完全に覚えていることもないだろう。朝は冷えるためシャツを重ねて登園する、忘れても後日引き取る旨を記載すれば、少しは業務負担の軽減になるはずだと信じ、兄に丸印をつけてサイン代わりに。
そうしているうちに、時計を見れば双子を起こす時間。布団から這いつくばるように出る二つの頭に、ぽすんと手を乗せて軽く催促をする。朝の身支度は早めに流れたほうが何かと都合が良いものだ。
二者の挨拶を背中に、布団を畳もうと下に腕を伸ばせば、袖口が手の動きを邪魔する。
はて、袖はそこまで長かっただろうかと首を傾げれば、目の前の姿見に写る肩口が随分と空いていた。なるほど厚みかと、独りごちて納得し、久しく日光に当ててもいない腕の細さを見る。
今年の夏も自身の半袖が干されることはないのだろうと、例年通りに冷たい指先を擦り合わせて息を吐いた。
「昔はさ、自信に満ち溢れてて、僕を見て、僕を見て。
と、薄着で走り回って、ありのままの自分を隠すことなく見せていてさ。
でも、いつの日か羞恥心を覚え、世間体を考え、次第に自分を隠す様に、守るように、厚着をして本当の自分を偽って生きるようになってさ。
でも、もう、どうでもいいやって。
本当の自分隠す必要ないんじゃないか?って。
暑い服を脱ぐように、自分の枷を外すように。
そう飛び出たのが今ってわけさ。涼しくてとても心地いいよ。」
「いや、だからって本当に服を全部脱ぐ必要ないよね?君は形から入るタイプなの?こうしてまた手錠はめられて、自由を縛られたら意味ないよね?反省してる?」
「………すみませんでした。」
お題「半袖」
扉を開けた先に、天使を見た。
ストロボを受けたかのように白一色に眩んだ視界が、緩慢に輪廓を取り戻していく。
「どうしたの? 大丈夫?」
それは良く知る友人の声で、天使のように思われたのは、ウェディングドレスに身を包んだ彼女だったことに遅れて思い至った。
花嫁のための控室は、バニラアイスやホイップクリームよりも真っ白で、朝日よりも眩しい。
「そのワンピース、似合ってる」
「……嫌ね、花嫁さんに先に褒められるなんて」
ふふ、と控えめに笑う友人の薄いくちびるが、テラリと光を乗せて煌めいた。そのさまは、ケーキの上に飾られたフルーツを覆うゼラチンを思わせる。
友人のドレスは、ヴェールと同素材のフレンチスリーブが華奢な二の腕を強調する、クラシカルなデザインで、それは彼女にとても似合っていた。
「あまり、腕を出したくなかったのに」
沈黙を持て余したような空々しい呟きが、カーテンの白と光沢に弾かれて、乱反射して消えていく。落ち着かない様子で腕を擦る手までが、レースの手袋に覆われてうっすら白かった。
「もうすぐ彼が来るわよね。私も、そろそろ会場に行くから」
これ以上ここに留まったら、私の中の何かが漂白されてしまう。
「あ、待って。ねえ、わたし、ちゃんと綺麗かな……?」
なにを今更、と出かかった言葉を飲み込んだ。不安そうに揺れる瞳は、このあと彼の姿を認めて、はにかみながらほどけるだろうに。
「当たり前でしょう。綺麗すぎてびっくりしたもの。ほんとうに、天使みたいよ」
「……ありがとう。でもちょっと大袈裟」
ほんとうよ。ほんとうに、あなたはどの瞬間も天使みたいだった。ドレスなんか無くたって、嘘みたいに綺麗だったんだから。
あとでね、と微笑んで退出する。
小さく頷きながら、やはり戸惑ったように腕を抑える彼女の指の震えをとめてあげるのは、もう私の役目ではない。
廊下を歩きながら、おめでとうを言いそびれたことに気付いて、笑い出しそうになってしまった。
おめでとう、と花束を渡すような軽やかな気持ちで言えたら良かった。
行こう、新婦の友人のための場所へ。
そして、晴れやかな笑顔で、新郎とともに歩む彼女を、心から祝福しよう。
あのね、私には、こんなパーティードレス、似合っていないと正直に言ってくれて良かったのよ。
(半袖)