『何気ないふり』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『何気ないふり』
いつからだろう。
君が、笑わなくなったのは。
どこからだろう。
君に、追いつけなくなったのは。
なぜだろう。
君を、失ってしまったのは。
でもまだ「何気ないふり」をして、
君に話しかけるのは。
これ以上君と、距離を離したくないから。
「今日のご飯はオムライスだよ」
「お、美味そう。いつもありがとう」
「なーにお礼なんか言ってんの?珍しいね」
リビングから2つ、オムライスの乗った皿を運んできた彼女。からから笑いながら席に着く。俺はそれを見て目を細めた。なんて幸せなんだろう。
テーブルを挟んで、いただきますをした。
彼女は画面の中でオムライスを美味しそうに食べている。俺もそこらへんに置いてあったメシを食べて、彼女との団欒を楽しむ。
何気ないふり
「《何気ないふり》が今回のお題なわけだが」
「うん」
「難しいんだ」
「まあそうだろうな、お前すぐ顔に出るからな」
「そこなんだ。何気ないふり、が成立するには、相手がそのふりをふりと見抜いてくれる、あー、つまり、俺は何の意図も下心もありませんよ、というフリをしてるけどフリしてるだけで実は下心もまあ、んー、言っちゃえば欲?もけっこうやばいレベルで抱えてて正直もう何気ないフリしてるの限界なんだけど、ってのをちゃんと分かってて、それでも気づいてませんよってフリをしてくれないと駄目で、」
「……」
「……いや、俺の話じゃなくて、ええと、友達の話なんだが」
『何気ないふり』
手足の生えた空き缶、羽の生えたネズミとそれを威嚇する野良猫、胡散臭い易者、道行く人の背に覆い被さる黒い何か、道端でしゃがみ込む少女、路地の暗がりから手招く白い手、話しかけてくる石像、得体の知れない募金活動、蠢く肉塊、選挙カーの騒音、転落し続ける人影、捨てられたペットボトル、人の顔をしたカラス、ホーム下から覗く潰れた頭、昼間から大声で騒ぐ酔っぱらい、電車の窓に張り付いた顔、音漏れしてるヘッドホン。
私が何気ないふりをして、通り過ぎていくものたち。
いつしか、見なかった事にするようになったモノたち。
「……ここ、座ってください」
電車の席を譲る私に、しきりに礼を述べる老婦人。
その背中で心配そうにしていた朧げな姿の老紳士が、にこやかに笑って丁寧に頭を下げるのを、私は何気ないふりで見なかったことにした。
「いーぃ天気だぁ! 最高のお花見日和だねっ」
溌剌とした声を放ちながら空をふり仰ぐ。見上げた雲ひとつない青空を遮るように、視界に割り込むのは淡い色の花をたっぷりと咲かせた枝。
これでもかと咲き誇った桜が、土手道の両脇をずらりと彩る。満開の桜は青空にも負けない美しさと鮮やかさで圧倒してくる様に、眩しさを感じて一度だけ瞼を強く閉じた。
チリ、チリ、とした音がその一瞬の間だけ耳に届くが、目を開けてしまえば風の音、川の流れる音、道を行く人々の賑やかさが一気に戻ってくる。
屋台で買ったものを食べる人々。飲む人々。彼らは皆思い思いに花見を楽しんでいる。画一的なまでに、お決まりのように。だがそんなことは花見を楽しむ彼女には関係ない。
待ちに待った春――桜の季節なのだから、楽しまなければ損をしてしまう。そう、久しぶりの桜なのだから。
「ねえ、すごい桜じゃない! 近くで見ると、手鞠みたいに桜が咲いてる」
垂れる枝先に触れるほど近くまで手を持っていくのも容易だった。風で揺れる枝先から頭を垂らして花を咲かせている桜は愛らしいの一言に尽きる。
ふらり、ふらり、ゆらり、ゆら――ゆら。
花びらは触れそうなほど近いのに、風の悪戯で触れられない。そもそも桜の木には触れないようにと注意書きがあちこちにあるので、これだけ近くに手を持っていくのは褒められたことではないのだが。
「ねえ、桜の花びらってどんな感触だったか覚えてる? あたしは忘れちゃったな〜」
目を細めて見上げた花。雪よりもやわらかく色づいた花びらの隙間からわずかに、ブロックノイズが走ったが空とほとんど変わらないそれは視認されない。
「こんなに天気がいいのも本当に信じられない。もうずっと快晴の空なんて見た記憶がないもんだからさぁ」
やっぱりいいもんだねえと花に伸ばしていた手を今度は空へと高く高く伸ばす。
空にはちっとも近づかない。だが不思議なことに、とても空までの距離が近く感じられていた。
どこからか、笛のように甲高い音が響く。けれど人々は気にも留めずに喧騒のままに振る舞う。
ただ彼女だけがその音に動きを止めて瞬きをする。
日常の景色のなかに響く音に驚いて手を引っ込めると、その音は途絶えた。残響の一音すら残すことなく。
「ね、今の音なんだったの? いや、なんか音したよね。ピーってさ。聞こえなかったの……?」
不安そうに振る舞う姿に気のせいだよと宥められ、幻聴だったのかと眉を下げた彼女だったが、桜の美しさを見ることで不安さを和らげることにした。
そのことに姿のない同行者は胸を撫で下ろして、彼女が美しいだけの景色を楽しむのを見守っていた。
#何気ないふり
何気ないふりをした
君が僕の飲み物を飲んだ時も
君が僕の口にプチシューを突っ込んだ時も
傘を半分に分け合った時も
僕は何気ないふりをした
くすぐり合って笑い転げた時も
ぴったり体を寄せ合ってテレビを観る時も
君が突然失恋話をしてきた時も
僕は何気ないふりをした
けれど時々思い出してしまう
兄弟の誕生日を忘れるくらい鈍感な君が
僕の誕生日だけは覚えていると自慢げに笑った事や
君が誰かと付き合っていた時
僕にだけは知られたくないとひた隠していたので
別れてから知ったのは僕だけだった事
そこには裏も表も
ましてや真意なんてあるわけが無いのに
僅かにでも期待しそうになる自分に気付いては
自分で律して罰する事を
これからあと何度繰り返すのだろう
その不毛な痛みを抱えてでも
手放したくないと願ってしまう汚い僕に
どうか気付かないようにと
また何気ないふりをした
「えっ、彼女いるんですか?
あー。地元の人と。へぇー。知らなかったですよ。」
お酒の、お酒のせいにしてしまおう。
「出身結構遠かったですよね?
遠距離って、あんまり会えないし、何か不安だし?なんかやっぱり」
「あっ来月から同棲?
うちの大学に入学…?あっ年下なんですね。」
帰ってこい酔い。
「えっ、もちろんですよ!先輩が選んだ子とか絶対良い子だし。むしろ可愛がりすぎてわたしに取られないように頑張ってくださいよ!」
彼からしたら何気ない会話、
わたしにとっては忘れたい会話。
花を一輪、買った。
バラの花。贈り物用のラッピングも、してもらって。
ただ、渡すだけだ。別に想いを伝えるわけじゃあない。
渡すべきその人とよく会う場所で、……ああ、会えた。
その人に声を掛ける。さも偶然会ったように、そして……
「余りなんだ、一つあげる」
花を差し出す。
その人は特に表情を変えることなく、無機質な感謝の言葉を述べて、花を受け取った。
受け取ってもらえたので、自分は別れの挨拶をして、その場を去った。
目的は達成した。
あとはただ、帰るだけだ。
…………
「……バカな人。
耳真っ赤にして、"偶然"だなんて嘘ついて。
……本当、バカで……可愛い」
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何気ないふり
へぇ〜良かったじゃん。
ww良いね。リア充。
はぁ。こっちの気も知らないでさ。
知らない人の話なんかしないで。
何気ない振りも苦しいんだよ。
私は何ヶ月かに一度、中身がぐちゃぐちゃになる。
泣き叫びたいのに黙っていたくて、ほっといてほしいのにかまってほしくて、眠りたくないのに寝たい。そういう風に、相反する感情ばかりで心の中が嵐のように荒れる時がある。
でも見た目は変わらないから、誰にも気付かれることはない。気付かれたくなくて何気ないふりをしているせいもあると思う。本当は誰かに気付いてほしいって厄介な気持ちも持ち合わせているけれど。
私は別に誰からも愛されたいわけじゃない。でも蔑ろにされるのは悲しいし、大切にはされたい。でも私のせいで誰かが負担を感じるのは嫌なの。
今日はそういう日。自分のぐちゃぐちゃになった中身を黙って見つめる日。だって何気ないふりして笑う自分に気付いているのは自分だけだから。
あなたに恋した私は、何気ないふりしてあなたに近づいたの。
そしたら、何気ないふりしてるあなたが近寄ってきたの。
■ 何気ないふり
乾いた空気が流れる事務所
私は画面上の数字を見ながら
さらなる数字を打ち込む
入口近くに置かれたホワイトボードには
営業部の直行直帰や戻り時間などが
乱雑に書き残されている
タイピングの合間にホワイトボードをみると
勤めて3年目 気の優しい営業くんが
少し息を切らしながら入ってきた
自分の名前の横にある戻り時間を消す
今日はエレベーターが午後から点検だったので
階段で上がってきたのだろう
頬を赤らめながら 額には汗がにじんでいた
彼が席に着いたのを見るやいなや
私はすかさず領収書の確認に向かった
息が切れていたのに私が話しかけると
必死で鼻呼吸に変え キリッとした顔つきをする
そんな彼の仕草を可愛らしく感じながら
私は息を整える暇を与えないように
息が切れている事に気づいてないふりをして
至って平然という風に話し続ける
相手を立てながら からかうのも意外と技術がいるのだ
私の密かな 褒められない楽しみである
何気ないふりしてるけど
ほんとは淋しいんだけど
でも涙は出ないんだけど
そんな自分が切ないんだ
#何気ないふり
「何気ないふり」
偶然を装って予定を聞いてお誘いしたり
うざ絡みにならないように距離を測ったり
もっと近くに、もっと長く、一緒にいたいけど
ぐっとこらえて心地よい距離感を探る
きっと、全部バレている
何気ないふり
一番傷つくのが
僕、私、きみ、あなた
ふりが
ふりでもない
傷になる
何気ないふりで話をしている。
内カメラを起動したアンドロイドをちらちらと見ながら。
口角は上がっていないか 目が笑っていないか
服は汚れていないか アイツ好みのメイクか とかとか。
今日はなぜだか気が散っていて、何もかもが気になる。
思考を巡らせていると、アイツは視界からいなくなっていた
アンドロイドの画面を見ると私のキョトンとした顔と、
それを横から珍しそうに、画面を見つめるアイツ。
驚いてカメラを閉じようとすると、
アイツは撮影ボタンを押した。
努力虚しく破顔した私と、いつも通り輝く笑顔のアイツ。
こんな写真持ってたら、もう何気ないふりできないな。
お題:何気ないふり
(何気ないふり)
目覚めると朝日がある事知っていた
駆けたら息が浅くなる事気づいてた
今宵も昨日と変わらない
この息の根が止まるまで同じことを
気づいてる 気づかない方が良いからふりをして
何気なく誘いたい
そうやって誘いたい
カッコ良く誘いたい
偶然を装おうのでなく
ほんとの偶然で
それは必然になるから
君は必然だから
ふたりは必然だからです
この時間は必然だから
これからも必然だから
いつまでも必然だから
【何気ないふり】
「おっと、ごめんね」
そう言って彼女は小さな男の子の進路を塞いだ。男の子はぽかんとして彼女を見上げるが、彼女の方は急ぎ足にその場を去る。すると、「まーくん、そっちダメよ!」と母親らしき声に、まーくんと呼ばれた子供は振り向いた。
(あーあー、ダメよじゃダメなんだよな、ポジティブワードで呼びかけたほうがいい、こっちにおいでとか、ママのところに来てとか)
彼女はそんなことを考えながら早足に歩いている。次の交差点で、すみません、と言いながら一番信号機に近い場所に立つ。信号待ちの人は横一列に並んでいるが、彼女の隣の一人、高校生らしい制服の少女だけはスマートフォンをいじっていた。信号が青に変わる。彼女は爪先で一回だけトン、とリズムを取ってから歩き出した。すると、スマートフォンをいじっていた少女はハッとしたように顔を上げて、慌てて横断歩道を渡る。
(左右見なよって)
もしも彼女を見ている人がいるならば、彼女がいつも誰かの進行を阻害したり、変更させたりしていることに気付くだろう。
高校三年生の春に車に撥ねられてからこちら、彼女には、事故の導線が見えていた。それが死に直結するかどうかは別として、その導線は誰かの足元から伸びており、そのまま導線の上を歩いていくと、大なり小なり事故に遭う。そんなことを誰かに相談してみようものなら、それこそ精神科か心療内科を勧められてしまうだろう。大学受験のストレスが、入学後に爆発したとか、そんなことを言われて。
なので、彼女は誰にも言わず、ただ何気ないふりをして導線を消すことにしている。正義感なんてものではなく、目の前で事故られて、その目撃者になるのが面倒なだけだ。とはいえ、シンプルな導線のときに限られる。ぐちゃぐちゃに絡まっている場合は、何をどうしたって事故は起こる。
だから、今日も可能な限りで、さり気なく事故を防止する。少なくとも大学に着くまでは、平穏無事な時間を過ごすために。
飲み会の帰り道、皆んなと歩いている中こっそり手を繋ぐあの緊張感と多幸感が好き。
さり気なく車道側を歩いてくれるところが好き。
単純なカードゲームで延々と遊んで笑っていられる、お泊まりが好き。
美味しいものを一緒に食べる時間が好き。
しあわせだね、と笑うあなたのくしゃっとした笑顔が大好き。
本当に言いたいことに蓋をして、強がるふりをして。
私の目の前からいなくなる、今のあなたは大嫌い。
『何気ないふり』