■ 何気ないふり
乾いた空気が流れる事務所
私は画面上の数字を見ながら
さらなる数字を打ち込む
入口近くに置かれたホワイトボードには
営業部の直行直帰や戻り時間などが
乱雑に書き残されている
タイピングの合間にホワイトボードをみると
勤めて3年目 気の優しい営業くんが
少し息を切らしながら入ってきた
自分の名前の横にある戻り時間を消す
今日はエレベーターが午後から点検だったので
階段で上がってきたのだろう
頬を赤らめながら 額には汗がにじんでいた
彼が席に着いたのを見るやいなや
私はすかさず領収書の確認に向かった
息が切れていたのに私が話しかけると
必死で鼻呼吸に変え キリッとした顔つきをする
そんな彼の仕草を可愛らしく感じながら
私は息を整える暇を与えないように
息が切れている事に気づいてないふりをして
至って平然という風に話し続ける
相手を立てながら からかうのも意外と技術がいるのだ
私の密かな 褒められない楽しみである
3/30/2023, 4:30:35 PM