『ところにより雨』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
桜が咲き、たくさんの出会いと別れがあり、誰もが嬉しがり、そして悲しむ。あぁこれが世にいう。心のところに雨なんだね。
村があった。
村は人が寄り付かぬような山の奥深くにあり、村人は細々と生計を立てて暮らしていた。実り豊かな土地であったが、そんな村にも近年頭を抱えている問題があった。
水害だ。
水害の被害は家屋や田畑、人にまで及び、多くのものが流され、大切なものを失った。
村を取りまとめる長は、このままにはしておけぬと集会にみなを呼び集めた。
「供物を納めねばならん」
白羽の矢が立ったのは年端も行かない6つの子どもだ。
少女は場のものものしい雰囲気に怯え、母親の背に隠れるようにして大人達の顔を伺い見ている。
「おお、文代さんのとこの子か。ほんにめんこいのう」
「可愛らしいおなごの子じゃ、龍神様も喜んでくれるぞ」
龍神様は健康で汚れない心を持った人間を好む。
だから選ばれたのだと口々に言う。
しかし誰もがそれは表向きの理由である事を知っていた。
実際は、他村から移り住んできた、いわばこの親子二人が「余所者」であるからだ。母親は、自分達が周囲にとけ込めず部外者のような扱いを受けていたのは百も承知の上で――、言えなかった。
娘の事を愛していなかったわけではない。娘を庇うことで今度は自分に矢が立つ事を恐れたのだ。
儀式は粛々と行われた。
重石をつけた縄で両手両足を縛られ、海へ続く濁流へと捧げられた娘一人を除いては。
娘が供物として捧げられた翌年、水害の被害が収まった村では宴が開かれた。
雲一つない星が瞬く夜。
握り飯やら旬の野菜やらを扱った簡素な屋台も並び、誰もがその平穏を噛みしめた。
その宴に姿がない者が一人。
村のはずれの小さな小屋から、人知れず嗚咽し涙する声が響いていた。
「ところにより雨」
【ところにより雨】
父は、強烈な晴れ男です。
父と歩けば、空は晴れる。
おとうさーーーん
吾輩は猫である。名前は無い訳もなくクロなのだが、近頃飼い主の表情が晴れん。何やら洗濯物が乾かず、生乾きの匂いが酷いとか…心配して損した。
何はともあれ、飼い主がなにか隠してるのは明白だな。それがなんだろうと知ったこっちゃないが、吾輩を拾ってくれたあの日の、陽の光のような笑顔が、飼い主にないのは見るに堪えないのだ。きっと、この降り続く雨が原因なのだろう。
…もしかしたら、吾輩が奪ってしまったのかもしれんな。飼い主のあの笑顔を。他ならぬ吾輩が、拾われる前、梅雨の雨が辺りを濡らし、薄暗いじめじめした所で生きていたのだから。
返すよ、飼い主。お天道様は、こんな薄汚ねぇ黒猫の上なんかより、お前さんの上にある方が、よっぽど良いや。
さよならだ、世話になったな。
吾輩は、雨でぬかるんだ庭を走り抜けた。
久方ぶりに飼い主の屋敷に日が昇った。あぁ、やっぱりそうだったんだな。だが、屋敷に飼い主の姿が無かった。一体、何処に…?
「探したぞ!クロ、おめぇどこ行っとった!!」
「ニャ?!」
そこに居たのは、紛れもない飼い主だった。梅雨のような雨が降りしきる吾輩を、傘をさし、下駄を汚して、髪と着物を濡らし、息を荒くして、ずっと、探しておったのか。
「ほら、帰るぞ?猫は風邪ひいたらシャレにならねぇんだよ」
そう言った男の顔には、まるでお天道様のような陽の光を放つ笑顔と、一匹の黒猫が、頬を擦り寄せていた。
全く、バカな飼い主だ…。
#ところどころ雨
寝苦しい夜にせきこんだのは
体が溜め息つくなって言ってるんだ
「ずっと一緒に居れると思ったよ」
別れ際に捨てるようにして転がした言葉は、
嘘だった
本当は知っていたから
「ずっと」なんてないって
今よりももっと、あの頃は知っていた
君が「ずっと」を信じさせなかった
だけど、初恋じゃない初めての恋だから
「あの言葉は嘘だったけど、
悲しいくらいに本当だった」
寝苦しい夜せきこんで窓を開けると
雨が降っていた
水溜まりに街灯が反射してより明るく見える
君のところはきっと晴れているんだろう
【ところにより雨】
桜のつぼみも膨らみ、あたたかな風が春の香りを運ぶ今日この頃。
ありがとう。
お世話になりました。
頑張れよ。
元気でね。
晴れ渡った青い空の下、卒業生達の新たな旅立ちを祝福する声があちこちで聞こえる。
そんな泣きながらも笑う人達が集う間を縫って、俺は周囲に首を巡らす。目的の人物の姿はまだ見当たらない。
あと探してないところは──と、思い出していけばふとある場所が頭に浮かんだ。
俺は誰かに見付かって咎められる前にと、早々に気配を消して校舎内へと駆け出した。
みんな校庭に出払ってしまっているのか、三年のクラスがある三階の廊下は、しんっとして静まり返っていた。
俺は足音を立てないよう慎重に、けれど少し早足になって、三年の教室を端からひとつずつ中を確かめながら回っていく。
──あ、いた。
とうとう探していた人物の、後ろ姿を発見する。窓辺に肘をついて外を眺めているらしいその人物へ俺がゆっくりと近付いていくと、気配に聡いそいつはすぐにびくっと肩を揺らして後ろを振り返った。
「よっ!」
俺は明るく笑って片手を上げる。
振り返ったそいつは思いっきり眉を顰めた後、ずびっという音が盛大に聞こえるほどに鼻水を啜っていた。
「何しに来たの」
「別にぃ~? 何となく、来たかったから」
「放っといて欲しいんだけど」
そいつは再びくるりと窓辺へ顔を戻す。泣き顔を見られるのが本当に嫌なのか、そのまま窓縁についていた両腕に顔を突っ伏した。
俺は構わずそいつの隣にまで足を進める。
下を見れば晴れ晴れとした表情の生徒達が、互いに最後の別れを惜しみ合ったり、新天地への門出を励まし合ったりと、眩しいくらいの光景が広がっていた。
「・・・・・・ダメだったの?」
俺はぽつりと呟いてみる。明らかな動揺を見せて背中をピクリと動かしたそいつは、突っ伏した姿勢のまま僅かに頷いた。
「そっか。まあ、頑張ったじゃん。ちゃんと告白したんだろ?」
「・・・・・・した。先生にちゃんと自分の気持ち伝えられたし、今までお世話になったことにも・・・・・・、お礼、言えた」
それでも、やっぱり悲しいものは悲しいと、そいつは震えた声で続ける。
俺は肩に掛かっているそいつの長い髪を、ぽんぽんと労るように撫でた。
小さな嗚咽が繰り返される音を聞きながら、俺は教室の窓から覗く澄んだ青空へと視線を上げる。
すぐ隣で降り続ける雨は、まだ当分止みそうになかった。
【ところにより雨】
窓から見えるのが雲ひとつもない大空なのだというのに私の心は土砂降りの雨が降っていた。
それを間際らせる方法は思いつかない
いつも楽しいこと嬉しいことだけなのは望ましいことだと思う。
でも、楽しいこと、嬉しいことへと、繋がる道には苦しい辛いものが道中にたくさん現れるだろう
でもそれは本当に苦しいこと辛いことではなくその時には分からなくても時間が教えてくれる。
あの時頑張って続けられたり声をあげることができたから今の自分がその場にいられる。
色んな選択がある中選べるのは一つだけだしチャンスは1回きりだと思うし環境関わる人でも選択肢がかわるのだと思う。
お題[ところにより雨]
No.8
にわか雨の中 君は踊る
透明な傘に 雨粒が光る
セーラー服の奥にはピンク
手を取る 君の手は冷たい
雨とローファーのタップ
幽かに口ずさむ歌声は
僕だけにしか聞こえない
―ところにより雨
「ところにより雨」
「今日は、ところにより雨でしょう。傘を持ち歩くのをおすすめします。」
天気予報士は言う。
そっか、今日は雨なんだ。
雨なんだ…
そんなことを考えているうちに涙が出てくる。
なんで泣いているんだかわからなかった。
どこかが痛いわけではない。
不思議だと思った。
でも、分かった気がする。
お父さんの命日も、「ところにより雨」だった。
気づいた瞬間にまた涙が出てくる。
(ふとした瞬間に辛いことを思い出してしまうことってよくありますよね!
やっぱり乗り越えるのって難しい(๑・౩・๑)
そして、小説も難しい…)
ところにより雨
これを聞いたら
じゃあ大丈夫だと思う
ところによりが
自分の所とは
思わないからだろう
降っても霧雨だろうと
勝手に思ってしまう
傘を持ち歩くと
どこかに置いてきてしまうので
持たなくていいように
自分に対しての言い訳
桜が咲き始めた頃に雨。
もう散ってしまうんじゃないか、と思ったけど、
なんとか大丈夫だったみたいだ。
都会の方は、晴れて気温も高かったみたいで、
青空に映えて、綺麗だったんだろうなぁ。
何だかいつも、咲き始めに雨が降って、
満開の時期が短い気がする。
雨、もう少し待って。
花開くの、これからなんだ。
「ところにより雨」
天気予報をお伝えします
今日はついにきみとの初デートでワクワクしていますので、朝6時頃は良い天気となるでしょう。
午前9時頃には、集合時間を過ぎてもやってこないきみを心配してドキドキするため、不安定なお天気となりそうです。傘のご準備をお忘れなく。
正午頃にはきみと向かい合っての食事をします。お手洗いに行った際自分のメイクの崩れ具合に悶絶。大粒の雨がふりそうですが、きみの頬にナポリタンのソースがついているのを見て、安心し、さらに自分にとって好印象となるため、晴れてくる予想です。
15時になると、きみとの初デートも終盤となり、寂しい気持ちと楽しかったという気持ちで、曇り空となるでしょう。しかし、
“次はあそこに行きたいね”という一言に次があることを確信。空は一気に快晴となるでしょう。
#ところにより雨
雨に当たらないだろうと思った私がバカだった。
こういう風に思ってた時に限って雨に当たる。
考え方が甘い。
ところにより雨
心が晴れていてもどこかで雨が降っている
きっと苦い思い出とか、後悔のせいだ
過去の自分に傘をさせるような人生を生きれてるかな
あの雨があったから今快晴なんだって言いたい
桜が首をもたげている。急激に頭角を現して、たんぽぽだとかそういう小さな者の居場所を覆い隠そうとしている。そう芽吹きから話を聞いた。それは早々に止めなければならない。しかし、咲いてしまったものは仕方がない。花弁を落としてやる、そうすればもう威張り散らすことはないはずだ。生温い風を呼んだ。所により雨、小さな春休みである。
お題 ところにより雨
[ところにより雨]
ところにより、とは。
地域の一部。部分的にそんな場所もある。みたいな感じだ。
「--よし」
残ったシミをペットボトルの水で洗い流して、頷いた。
傍には気を失った男性。ぐったりしてて顔色も悪いが、命に別状はないだろう。
服に血が付いてるが、盛大に転んだからだ。そう言うことにしてある。
腹部の傷も、もう少ししたら塞がるだろう。
気付いたのは偶然だったけど、犯人には感謝しよう。
明日のニュースにならないのは、俺からのささやかなお礼だ。
いいことをした。
「それじゃ、ご馳走様。もし思い出したら、犯人は自分で探してね」
そう言い残して、通り魔事件の現場を後にした。
あの路地裏が濡れてるのは雨が降ったんだ。天気予報でも「ところにより雨」って言ってたし。
でも、実際降ったのが血の雨だったと知ってるのは俺だけだ。
それでいい。
見上げれば
泣いていた
私の空だけが
泣いていた
目から出るものは
きっと雫だろう
周りには
花が咲いている
花になるためには
雫だって必要だろう
今日の私は_
『ところにより雨』
誰もが望んだ理想
鳥が鳴いて 誰もが幸福を感じる
誰もが望まぬ現実
雨が降り続け 誰もが絶望している
ついさっき
一人の青年が旗をあげた
瞬間
憂鬱をまとった雨雲が去った
誰もが目を開いた
民衆は青年を囲んで歓声をあげた
青年は まるで英雄のような笑みを浮かべ
民衆と喜びを分かち合っていた
誰もが望んだ現実
鳥が鳴いて 誰もが幸福を感じる
誰もが望まぬ理想
独り、死んだ眼で雨を望む少年
ところにより雨
子供達がディズニーランドに
遠足に行きました
雨雲レーダーを眺めながら願う
どうか「ところにより雨」に
あたりませんように
#ところにより雨
「今日の天気は曇り、ところにより雨が降るでしょう」
朝の天気予報のアナウンサーの朗らかな声を思い出しながら、ザーザーと振る空を眺める。
--ところにより、なら大丈夫だろ踏んでいたのにな。
そう心の中で叫んで地団駄を踏んだが、空は変わらない。雨は相変わらず降りしきっている。
コンビニ探して傘コースかな、とそのままボーッと辺りを見渡すと、街の隅のほうに小さく喫茶店と書かれた扉を見つけた。普段なら気にも留めない場所に、昔からあったかのように蔦が窓と扉を覆っている。
まあ、たまには雨宿りも悪くねえか。
そう呟いて、私はその扉に向かって歩き出した。