『たとえ間違いだったとしても』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
──……きて、おきてパパぁ。
愛娘の声がする。眼を開けるとお腹の上に頭を載せた娘が笑っていた。
──あ、おきたぁ! ママぁ、パパおきたぁ〜!
嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねまわる娘に、男はくすりと笑みが溢れる。ブロンド色の癖毛をくしゃりと撫でてやるといひひっと笑い手に擦り寄って来た。
娘と共にリビングへ行くと、朝食の良い匂いが漂ってきた。
──おはよう、あなた。小さな愛し子(リトル)、お役目ご苦労様。
妻は微笑み娘をひと撫でし、夫である男の頬にキスをした。
朝食は男の好きな具沢山のポトフと硬めのパンだった。木の温かみのあるリビング、朝の日が差し込む中、3人は食卓を囲んだ。男は思った───これは夢だ。
夢から覚めるとそこは屋根や壁が崩れた小屋であった。
夜明け寸前の淡い桃色と藍色の空には厚めの雲が四散している。昨晩は雨が降っていた。
奴隷市と呼ばれる地獄(ばしょ)から死に物狂いで逃げてきた。強制労働、人身売買、人体実験、臓器売買、そこで売られたものに人権はない。
「ふぅぅぅぅ────」
男は息を吐いた。季節は冷たい空気を残す春前。逃げる途中で盗んだ薄手のジャケットを着ているとはいえ、雨に濡れた衣服は少しずつ体力を奪っていく。濡れているのは衣服だけではなかった。頬に伝う雫はいつ止まるのかと男は眼を閉じた。
これは悪夢だ──男は思った。
眼に映る惨劇を前に男は動けずただ呆然としていた。鮮血が飛び散る床に横たわる2つの亡骸。一人は成人した女性、もう一人はまだ幼い女児。
「あ──あぁ」
遠くで獣のような声がする。喉が締まり痛むのは何故だ。眼から流れる液体は何だ。手の中にいる亡骸は誰だ────男は妻と娘だった亡骸を抱え慟哭した。
気づけば辺りは暗闇に落ちていた。よたよたともたつく足取りで男はシャベルを探す。妻が好きなスミレの群生地に2人を埋葬した。ここではまともな葬儀は望めない。
「俺もすぐにそっちに行くからなぁ」
男は言い残し、埋葬地を後にした。
男は再び眼を開けた。どうやら凍死を免れたらしい。
ここはスラム街の外れにある山奥。人狼や魔女、鬼の噂のある場所だった。
──いっそう、人狼や鬼に喰われて死んでしまいたい。
その思いだけで険しい山に登った。それでも男は生きている。あくまで噂は噂。
「ははっ───」
男は情けない己を自嘲した。
2人を埋葬した後、男は自暴自棄になり街をさまよっていた。街もまた悲惨なあり様である。善社会(ヒーロー)と呼ばれる者たちはどこにもいない。男が覚えていたのはそこまでであった。その後何があったのかわからない。気づいたときには奴隷市につれて来られていた。手の甲や腕には暴れたのか傷ができていた。ジクジクと痛むたび血が垂れていた。
家畜同然で檻に入れられた男がそこで見聞きしたのは善社会(ヒーロー)の裏の顔であった。
名は──アキレギア。表の顔は反社会(ヴィラン)と戦う英雄。裏では人権を奪い人身売買、臓器売買、売春で荒稼ぎする善人の皮を被った糞野郎だった。
生きているのなら──男は腹の奥から沸き立つような衝動に決心するように立ち上がった。
時は経ち────惨劇から2年が過ぎた。
復興は善社会(ヒーロー)たちと国が力を合わせ刻々と進んでいた。
あの日、現場に急行できなかった善社会(ヒーロー)たちはカメラの前で頭を下げていた。形だけの謝罪と本心ではない言葉の羅列を並べていた。
男は着々と決行の日を伺っていた。奴隷市で聞いた言葉を胸に最初のターゲットをアキレギアに決めた。
あの男を野放しにはできない。かと言って前線で戦う善社会(ヒーロー)に腕っ節が叶うわけではないので裏で動いてもらうことにした。金を詰めばいくらでも話に乗る者は多い。
レストランで食事を取りながら男は店内にあるテレビを見ていた。そこにはアキレギアが映っていた。
──今日の勝利は市民の方々の協力もありスムーズに反社会(ヴィラン)を確保することができました! 我々が戦えるのは皆様のおかげです。ありがとうございました!
猫をかぶり市民を欺く男(アキレギア)に男は静かな怒りを抱いていた。
テーブルにチップと紙を起き、レストランを後にする。
決行は今夜だ。
男は指示のあった場所へと訪れていた。スラム街から車で1時間ほど走らせた所にある廃墟となった研究施設だ。元は動物を使った実験が行われていた場所でもある。
重い扉を開け荒れた廊下を進み、階段で地下へと降りていく。手付かずのためややホコリとカビの臭いが充満していた。
地下は実験が行われていた痕跡が至るとこにあった。奥に進み自動ドアを手動で開けて入る。
そこにはアキレギアがいた。やや興奮した様子でガラス張りの小部屋に囚われていた。
「ここから出せェ! こんなことしてただで済むと思うなよォ!」
アキレギアは声を荒げガラスを叩く。前線で戦うのも頷けるほどのガタイのいい体。腕や脚も太く背も180はあるだろう。だが今は善社会(ヒーロー)という面影はなく、ボクサーパンツ1枚でそこに捕まっていた。
「……こんなに上手く行くとは思ってもいなかった」
「あぁ?」
男の言葉にアキレギアは顔を顰めた。
「はじめまして、善社会(ヒーロー)のアキレギア」
男は腰を下ろししゃがんで言った。
「誰だてめェ! どうでもいいから出しやがれくそったれェ!!」
アキレギアの怒号が飛ぶ。ガンガンとガラスを割るように叩く。冷ややかな目をした男はそれを眺めているだけで何も言わなかった。
「ちっくしょー、あの女(アマ)美人局かよォ。覚悟してろよォ、ぜってぇ娼婦に落としてやる!」
善社会(ヒーロー)としてあるまじきな言葉を吐き散らしアキレギア暴れていた。
「今のお前を見たら市民は何と言うんだろうな?」
その言葉にアキレギアは動きを止め男を睨みつけた。
男は続けて───
「お前がしてきたことは全て調査済みだ。お前が奴隷市で金稼ぎしていること、約2年前にあった街が襲われた事件も────全て知っている」
「だから何だァ?! てめェに何が関係があるんだァ? あぁ?」
アキレギアは今一度語気を強めた。
「妻子を、あの事件で殺された。その後どに連れて行かれた俺はお前の所業を知った。ただそれだけだ」
アキレギアは呵々と嗤った。
「そうか、そうか、死んじまったかァ! それでてめェはオレに復讐しようとしてるわけかァ!! 悪かったなァ救えなくってよォ」
手を叩き、それは愉しそうに言うアキレギアに男の眉が顰む。
「そうやって嗤って入ればいいさ。失ったものは戻らない。善社会(ヒーロー)くせに何もわかっていないんだな、お前」
男は小部屋の横にある装置を弄り作動させる。轟々と機械が動き出す。
「な、何をした! おい、おい! ここから出せェ!」
焦りだしたアキレギアはいっそう強くガラスを叩き出した。
「………この糞反社会(ヴィラン)」
ボソっとアキレギアが呟く。小部屋内の空気が変わったのか、
げほ、げほ咳き込みながら荒い息をしながら男を睨みつけていた。
アキレギアの息遣いに混じるようにははっと冷笑に似た嗤いがこぼれる。
「いいや、俺は反社会(ヴィラン)じゃない」
「……てめェみたいなっ、やつを反社会(ヴィラン)と呼ばずに……なんと言うんだァ!」
ゼェゼェと肩で息をしているアキレギアを横目に男は背を向けた。
「俺に反社会(ヴィラン)のような度胸はない。大層な思想も支配欲もない。ただ俺は俺の目的のためにやっているだけだ」
「馬鹿馬鹿しい……」
アキレギアは鼻で嗤った。
「お前には言われたくないよ」
男はアキレギアを見て嗤った。
「てめェは……反社会(ヴィラン)……だ。オレ(ヒーロー)たちの、敵だ」
げほ、げほと咳込み喉からヒューヒューと喘鳴する。アキレギアの体に徐々に毒ガスが回っていた。
「お前の口からまだその言葉が聞けてよかった」
息が漏れるように嗤い、男はアキレギアに背を向け地下施設を出た。
翌朝──テレビはアキレギアの死亡報道ではなく、アキレギアの不祥事で持ちきりであった。
市民は当然激昂し、善社会(ヒーロー)団体に批判殺到してしまった。一部の地域では暴動が起き、首が回らない事態に陥った。
あの後───アキレギアは男の通報により仲間に助けられ、一命を取り留めた。
男にとって目的は“殺人”ではない。悪行を働く者の厚生でもない。目的は──。
男は今日も変わらずスラム街のレストランに入ろうとしていた。
「よお、お前さん。上手く行って良かったなぁ〜」
薄汚れた面立ちで歯の抜けた中年が声をかけてきた。この男は──情報屋だ。男の計画にいち早く乗った人間だった。
「あぁ、お陰様で。どうです? メシでも奢りますよ」
「ひひっ、悪いねぇ〜。お言葉に甘えてそうさせてもらうよ」
禿げた頭を掻きむしりながら情報屋は嬉しそうに笑った。
「お前さん、これからどうするつもりだ?」
席に座ると同時に情報屋は聞いてきた。続けて──
「あの男だけじゃないだろう? お前さんは何のためにあんなことをした?」
「単純に復讐心だけですよ」
「本当に──?」
「えぇ、本当に──」
他愛もない会話をしていると注文したメシが運ばれてきた。
男の前にハンバーグランチ、情報屋の前にオムライスが運ばれてきた。
食べすすめながら男は口を開いた。
「──わかっているんですよ。俺がしていることが間違っていることぐらい。それでも失ったものは戻らない、どうしたって」
男はハンバーグを一口頬張り嚥下する。
「たとえ間違いだったとしても俺はこの生き方を変えることはできない───戦場にいた頃と何も変わらないんですよ」
男は左足を撫でた。無機質な硬い感触──義足であった。
「復讐心だけでは心が癒えることはないぞ」いたずらっぽく、声に真剣さを残しながら情報屋は言った。
「──知っていますよ」
男が2人のも元にやってきたのは情報屋と別れてすぐのことだった。スラム街からかなり離れた所に群生しているスミレの中を足取り確かに進んだ。
大きな木の下、スミレが一番綺麗に咲く場所の近くに妻と娘が眠る。
小さな花束と、複数味の入ったドロップス缶をを供えた。
2人の側に座り男は語りかける。幸せだったときにしていたような他愛のない話を。
「ごめんな……。もう少し俺は生きていないといけないらしい。こんなことしているってバレたらお前たちに叱られてしまうな。それでも俺はお前たちを殺したやつを許さない」
たとえ間違いだったとしても俺は俺のためにやり遂げる。
───そう俺は“復讐者”(ヒール)
【Heel】
[それが間違いだったとしても]
たとえまちがいだったとしても、まちがいだということがわかるために、まちがいをすることは、まちがいじゃないし、まちがいない。
楽しく過ごせればたとえ間違いがあつても、気にしない。
この高揚が
この切なさが
この痛みが
たとえ間違いだったとしても
こんなにも大切に抱いていたいのだから
正しくなくても構わない
(たとえ間違いだったとしても)
/たとえ間違いだったとしても
うたた寝に
夢を見た
お告げのようにも思えたが
私なぞの身に
そんなことが起きるだろうか
空は曇りだが
雲は薄墨と白によく光り
私らしい空だった
あれはお告げなのかもしれない
私は
よんぶんのさんくらい、信じることにした
たとえ間違いだったとしても
その選択が間違いかもしれないって
悩んでいますか?
たとえ間違いだったとしても
自分の気持ちを抑えること できないでしょ
誰かが それを 止めようとしても
自分でも それが 良くない未来につながっていると
わかっていても 止める事なんてできないこと
誰にだってがあります
痛くて 辛くて 泣いたり 叫んだり
するかもしれない
その道が苦しくて 苦しくて
頭を掻きむしって 家の中の物をなげとばしたり
錯乱したりするかもしれない
でも 選んだことり後悔することはないよ
絶対に
だから 間違いだったとしても
自分の思う通り進んでみても
いいと思います
強烈に引き寄せられ
魅せられて
どんなことよりも夢中になった
やめなさいと言われて
やめれるものではない
どうしても手に入れたいと
心が叫ぶ
遠回りになるのだろうか
しあわせを掴むための一欠片
知ってしまった
自分の中に住んでいた黒い獣
未来のことはあとから考えよう
この獣に従って進むと決めた
この道がたとえ間違いだったとしても
#たとえ間違いだったとしても
たとえ間違いだったとしてもその判断を悔いなきものにすることを考えて先に進めばいい
『たとえ間違いだったとしても』
その手を取らずには居られなかったろう。
いつかの後悔を待つだけだとしても
隣にない道を歩くなんて出来ない。
始まりをまた君と生きるために還りたい。
「今あなたは幸せですか?」
なんか宗教勧誘みたいな言葉が聞こえてきた。
けどこれは生きてく上で大切なこと。
私は今幸せなのか?
自分で分からない。
別にお金が沢山あるとか
毎日友達と遊んでるとか
すごく幸せだと感じるわけじゃない。
でもご飯も食べれるし、
好きなこともできてるし
不幸なわけじゃない。
幸せって気が付かないのが不幸
って聞いたことあるけど
もしかしたらそれは本当かもしれない。
もしこれを抜け出すなら?
間違いを恐れずにやってみること、、
私の頭にはそれくらいしか分からなかった
まぁ、気分が向いた時にね。
間違いだったとしても。
やりたいことやればいっか。
この考え方はきっと間違ってないから。
「たとえ間違いだったとしても」
たとえ間違いだったとしても
社会的信用なんてなくても
学力がなくても
仕事に必須な能力なんてなくても
取り柄がなくても
きっと、咎められないよ
背景を知れば。
そして、明日は我が身だと
私を見て思い知って欲しいよ。
私のできることは
強引で、危険な手立てしかない
そんな不安定で弱い立場だけれど
できるだけ、やってみるよ
たとえこの生き方が
間違いだったとしても。
―たとえ間違いだったとしても―
目の前に現れたのは別れ道
幾度目だろうか
きっとこの先も道は
枝分かれしていく
きっと目が回るほどの
複雑な道のり
行先も当てもなく
きっと終わりなんてない
でもそれでいい
この選択が
この決心が
たとえ間違いだったとしても
この道の果てが
この私の終わりが
地獄に行きついたとしても
後悔はしない
酸いも甘いも味方につけて
未知の未来も乗り越えていく
題 たとえ間違いだったとしても
たとえ間違いだとしてもやるってどれだけの決意があるのだろう.間違いなら報われない。それでもやる。やるしかないとはいうけど、やらない選択肢だって常にあるだろう.なんならその選択肢とともに生きている人の方が多いような気がする。やるか、やらないか?その選択を突き出された時にやると言える人間の割合はそんなに高いのか?それを貫く人間の割合はそれと同じなのだろうか?できない人間の方が多いと思う。そんな人間を普通と呼ぶのか?
それともやると答える人間の方が多く、なんとかみんなやってるのか?やらないと答えた人間が、車輪の下なのか?どちらにしても普通とはすごいことだと思う。普通を積み重ねてすごいことになるのだから、すごいことの素は普通ことだろう.普通のことAと普通のことBの粉を混ぜたらすごいことになる。私はグレープ味が好きだ.
普通でいいって負け惜しみで言うことが、情けなく感じることがある.なんで普通のことAとBがもらえる前提で話しているのだろうと思う.まぜまぜ。
いや、違うのか?普通の人は普通のことAだけを持っているのか?すごい人はそのどちらも持っている。こう言うふうにも考えられる.水魚の交わり的なノリでAとBがあえば、ねるねるねるねができるんじゃないか?
普通が一番だという言葉が惨めに感じられるのは、まだ私が若くAも BももしかしたらCかもしれないが、何かしらの味になるねるねるねるねを持っているからなのかもしれない。歩いていく中で粉を落としたり、食べられてしまったりすることがあるんじゃないか?
ぶっちゃけ、ねるねるねるねにあのアメはいらない。けど見た目的にあったらいいし、ある方が美味しい.
でもなくてもねるねるねるねはねるねるねるねだ。だってあのアメは封を切れば完成だもん.
普通が惨めに感じられるのは、生まれた気は普通じゃなかったから?てか、このアプリの仕組みがわからん?これみられてるのだろうか?
「たとえ間違いだったとしても」
陽向(ひなた)くん、
30歳の誕生日おめでとう
独り暮らしで自由なあなたには
今更必要なものなどないだろうと思って
お母さんからは手紙と「これ」を贈ることにしました
あなたが3歳の時に
離婚を選んだお母さんは
おじいちゃん、おばあちゃんにも頼れず
陽向くんと二人きり
楽しいときも 辛いときも
うれしいときも悲しいときも
いっしょだった
あなたが幼い頃は
お母さんはあなたを保育園に預けて
朝早くから夜遅くまで仕事していたから
先生との連絡帳がズッシリと
こんなに何冊にもなりました
この中にはおかあさんの弱音が
たくさん書かれています
「仕事が忙しくて、会話ができていません」
「どうしたらいいかわかりません」
「他のお母さん方はどうされていますか?」
陽向くんが20歳の頃にはきっと
ピンと来なかったでしょうが
30歳になった今なら わかるだろうと
「これ」を選びました
今のあなたくらいの歳に
お母さんが何を考え 何に悩み
どうやってあなたを育て
あなたから育てられたか
お母さんは失敗だらけ
間違いだらけの人生を歩んできたけれど
あなたのお父さんと別れた選択が
たとえ間違いだったとしても
あなたの今の存在が
お母さんのすべてを肯定してくれています
だから 安心して失敗してもいい
あなたの選択が間違っていたと
あとから気づいても それでいい
そのままでいい
お母さんが失敗を繰り返して
いまのあなたを得られたように
こんなにも誇らしいあなたを
得られたように
あなたもきっと何かを得られるから
あなたが描いた沢山の絵
いもほり えんそく しおひがり
うんどうかいでもらったメダル
これも一緒に入れておくね
あなたはこれを描いたとき
メダルをもらったとき
自分がどんなに世界から愛されているか
知ったはずだから
いまだって愛されているんだから
お誕生日
ほんとうにおめでとう
痛みを堪える面差しを僅か残しているくせに、なんてことはないと言わんばかりの振る舞いが鼻につく。思ったことをそのまま唇に乗せてやれば、横に腰掛ける綿雲めいたピンク髪の偉丈夫からは苦笑の御回答。
「君は僕をよく見てるね。嬉しいけど恥ずかしいや」
「茶化さないでちょうだい」
ぴしゃりと誤魔化しを断てば、芽吹く春の森に似た眼差しに漸く感情が追い付いた。
「君の言い分はごもっともだよ、ミーミア」
馴染んできた共同生活の場、巨木の切り株をそれぞれ机と椅子に加工した居間の空気は、机上で湯気を消さないカップのハーブティーも手伝って柔らかく凪いだもの。大きな両手の指をカップに添え、唇に近づけつつも触れず、ハイネは意を溢す。
「僕はただ逃げているだけ。あの時の判断は正しかった、って思いたくて、信じたくて」
彼は、故郷のため未来のためと、同胞を殺した。生きたまま火炙りにした、と淡々と細やかな事実を告げた時の無表情を知るは自分だけだと思いたい。
「ただまぁ、事実からは逃げられないかな」
「そうね。大量虐殺には違いないわ」
真実の在処や有無はさておき、事実は事実でしかなく。否定や慰めを与えたところで無意味であり、だからミーミアは事実を述べる。標のように、楔のように。忘れるなと打ち込むのは己のみであれと、横柄な感情を伏せながら。
案の定、発言は性分由来だと判断しているハイネは柔らかく笑みを綻ばせた。
「僕、君のそういうところが好きだなぁ」
「あたしは貴方のそういう素直なところは嫌いじゃないわね」
【たとえ間違いだったとしても/終わりの魔術師と共犯者】
これが間違いでもまだやり直しはできる
そのうちにそれが少し上向きになっていく
まだ実感はないが必ずよくなっていく
間違いを多少の事でも何か発見がある
そう自分を責めないようにしよう
たとえ『間違いだった』としても、この旅を中断することは絶対にしない。
そう心に誓って、早数ヶ月。
旅というものにはトラブルが当然のようについてくる。 博士は、そのトラブルに慣れているようだった。
「助手くん見たまえ、熱気球だぞ」と、ひび割れた地面を見ることなく歩く。
「上なんか見てられないです」と半ば怒りながら返せば、「ワタシに出来るんだからキミにできないわけがないだろう」とケラケラと笑った。
博士は、僕の尊厳の恩人だ。 生まれた場所で暮らすのにあまりにも向いていなかった僕を、博士は法律やらなんやらを全てさらっとクリアして救い出してくれた。
大きな地鳴りがして、また足元が割れていく。 今は僕の足でまたげる程の亀裂でも、数日も経てば底の無い闇に変わる事は知っている。
「知っているかい、ここに熱気球が多い理由」
「『家』ですよね」
「正解! ……と、言いたいところだけど」
違うのか、と風になびく白衣の裾を見つめた。 顔を見る余裕なんかとっくになくて、それでも視界に入れないと少し不安だったから。
ガイドブックに書いてない真実がある事は知ってるけど、それなら来た直後に見えた大量の熱気球は一体なんなんだろうか。
「アレに住民達が乗っているのは間違いないよ」
「でもね、助手くん」
「世間はそんなに優しくないし、正直でもないんだ」
博士はひょいひょいと亀裂を踏まないように避けながら、事も無げに僕に言葉を伝えてくる。
これは長くなるぞ、と僕は期待を込めて耳を研ぎ澄ませる。
「アレはシェルターだよ」
「シェルター? ……地面が割れるからですか」
「んん、まあそれもあるけど……」
口篭るのは珍しい。 少し思い切って歩を早め、僕は博士の隣に立った。
「政府が騙したのさ、彼らをね。 政府といっても僕らの住む国じゃない、この、亀裂だらけの国の方だけど」
「彼らは『永続的可能な燃料』で浮かされた熱気球に乗っている。 気球とは言うけどあれはもうれっきとした船だ、本物の『熱気球』だらけの国はまた別にあってだね──」
「博士、話逸れてます」
「……まあ、また今度連れてくけど。 ここの熱気球の動力はこの地面だからね。 さらに観光名所として付近の国は爆儲け」
うげ、と声を出しかけた。 博士は身振り手振りを繰り返しながら説明を続ける。
「政府は彼らに『もう地面の亀裂に怯えなくていい家が出来ました』って告知して、ここいらに住む国民達を熱気球……まあ、ほんっとうに、広々として羨ましい家だけどね。 アレに住まわせたのさ」
「熱気球を初めて上げる時にだけ少しの燃料がいるのさ、でもとある高度まで行けばそこからは何をしても下がれなくなる。 亀裂の隙間からよくわからないガスかなんかがちょっとずつ出てるらしくてね」
僕が思わず口元を抑えると、博士はにんまりと(顔が見えなくてもわかる)笑って、「わざと大量に吸ったり亀裂に落ちでもしない限りは大丈夫だよ」と優しい声色で伝えてくれた。
「まあでも、それも『その高度』に行くまでの話だ。 そこに見えない壁でもあるみたいに、ガスの層が出来ているみたいなんだ。 だから誰も彼らを助けない。 大枚払って地面を埋めて、爆発するまでの間に救出するミッションなんてものはほとんど不可能だからだよ」
「でも博士、」と、遮るつもりはなかったのについ口をついて出た言葉に博士が立ち止まる。
気付けばそこは周りより細かいひび割れが多いように見えた。
「言ってみたまえ」
「ガスが溜まってるのはこの地域だけなんですよね」
「そうとも」
「なら、もういくつかそれ用の熱気球を作って横にずらしていけば」
「……」
ひどく悲しそうな顔だった。 まるで昔からの友人が頭上にいるみたいな、そんな顔を一瞬だけして、また歩き出した博士についていく。
「──どうなると思う?」
「え?」
「当時の革新的技術によって、熱気球たちは空へ放たれた。 水も何もかもを上で調達、もしくは確保できると世界が保証したからさ。 でも、」
「でも、『帰り道』だけは用意されてなかったし、今もない」
「あれは何万トンもする構造物だ、ガスで浮いているだけで、ガスがなくなればすぐさま……」
「中の人達は」
「中の人達はどうなるんですか……」
「…………さあ、ね。 そもそも、生きているのかすらわからないから……」
博士はそれきり黙り込んで、僕は、例えそれが嘘でもとても悲しい事だろうと思ってしまった。
騙されて気球に乗った人達は、どんな気持ちで帰れない事を知ったのだろう。
知らないのなら、今はなにを思っているのだろうか。
そして、「ああ、僕も同じなんだ」と気付いた。
いつか博士について行った先で、もう逃げられない場所で、騙されてしまうんじゃないか。
それでも、後悔はない。
僕は他でもない僕で、過去の僕が選択したこの旅がどうなろうと、絶対に悔やむことだけはしちゃならない。
それが『自分自身』に対する、僕なりの礼儀だからだ。
「博士」
「ん?」
「僕、博士の話もっと聞きたいです」
「構わないとも、目的地に着くまで話していてあげようじゃないか。 そもそも気球を発明したのは誰か知っているかい? あれは──」
『たとえ間違いだったとしても』
間違いだってかまわない
別に気にしないから
だから、君が僕を殺したいと言うのなら
僕は頷くよ
だって、君が僕の最期を看取るんだろう?
好きな人と最期を過ごせるんだ
こんなに幸せなことはないよ
一生に一度の素晴らしい経験だ
テーマ : たとえ間違いだったとしても
この言葉って結構、使い勝手が良かったりする
使いやすいんだよね
なんか、ふと過去に目が向いた
誰だって殺したいくらい憎い相手はいるじゃんね
それを実行するか、しないかは置いておいて
僕も1人だけ
たった1人だけ
許されるなら殺したい人がいる
あの時、躊躇ってしまった
今でも後悔してる出来事
自分の人生めちゃくちゃになるぞって言われても
そんなのどうでもいいくらいに憎かったんだ
自分の人生めちゃくちゃになるより
相手が生きてる事の方が僕にとっては嫌だった
だけど、思う
一般的な考えの上だと、殺人って1番やっちゃいけない事
わかってる、十分に理解してるよ
だけど、その考えさえよぎることも悪だとされる時だってあるわけで
なんでって
人間の本能じゃないのって僕は思うんだけど
野生動物は生きてく為に、お互いを殺し合う
生きてく為だから仕方ないよね
生存本能で相手を殺して
人間じゃない動物は、これらを当たり前として行って
それを見てる人間の僕らも、これらを当たり前として
でも、僕ら人間同士でこれらを行った場合
「狂ってる」の評価が飛んでくる
だって、人間は殺し合っちゃいけないんだから
とすると、戦争は何だよって思っちゃうけど
お互い平和に暮らすための条件を紙の上で行って
時には裏切って、裏切られて
普通という概念から一般的って言う言葉を作り出して
なら僕は、まだこんなのより本能的な野生動物の方が
生きてる物としては普通な気がして
ただ、他の動物より
少し器用で、喋れるだけの人間という動物だろ
人間より頭いい動物たくさんいるし
ただ、その動物たちは喋るという事ができないだけで
だから
「こいつがいたら僕は生きていけない」って
思う事は何もおかしくないし
ある意味、生存本能が働いてるだけな気がするんだ
現実問題
やっちゃダメ
思っちゃダメ
…まじ、うるせぇって思って
さて、テーマに戻るよ
僕ね、本当に後悔してるんだ
あの時、実行しなかったおかげで今でも被害こうむってるから
過去の自分には頼まないよ
今の僕が、あの時に戻れるんだとしたら
今度こそ、必ず
その行動が一般的には【たとえ間違いだったとしても】
僕は正しい行動だと思うから
次こそ、必ず
―たとえ間違いだったとしても―
茶道歴約20年になっても間違える事はある。
そういう時、つい手が止まったり、慌てたりしてしまう。
間違えても気にせず続けて、丁度良いところで直せるようになりたい。