痛みを堪える面差しを僅か残しているくせに、なんてことはないと言わんばかりの振る舞いが鼻につく。思ったことをそのまま唇に乗せてやれば、横に腰掛ける綿雲めいたピンク髪の偉丈夫からは苦笑の御回答。
「君は僕をよく見てるね。嬉しいけど恥ずかしいや」
「茶化さないでちょうだい」
ぴしゃりと誤魔化しを断てば、芽吹く春の森に似た眼差しに漸く感情が追い付いた。
「君の言い分はごもっともだよ、ミーミア」
馴染んできた共同生活の場、巨木の切り株をそれぞれ机と椅子に加工した居間の空気は、机上で湯気を消さないカップのハーブティーも手伝って柔らかく凪いだもの。大きな両手の指をカップに添え、唇に近づけつつも触れず、ハイネは意を溢す。
「僕はただ逃げているだけ。あの時の判断は正しかった、って思いたくて、信じたくて」
彼は、故郷のため未来のためと、同胞を殺した。生きたまま火炙りにした、と淡々と細やかな事実を告げた時の無表情を知るは自分だけだと思いたい。
「ただまぁ、事実からは逃げられないかな」
「そうね。大量虐殺には違いないわ」
真実の在処や有無はさておき、事実は事実でしかなく。否定や慰めを与えたところで無意味であり、だからミーミアは事実を述べる。標のように、楔のように。忘れるなと打ち込むのは己のみであれと、横柄な感情を伏せながら。
案の定、発言は性分由来だと判断しているハイネは柔らかく笑みを綻ばせた。
「僕、君のそういうところが好きだなぁ」
「あたしは貴方のそういう素直なところは嫌いじゃないわね」
【たとえ間違いだったとしても/終わりの魔術師と共犯者】
4/23/2023, 1:53:43 AM