繰り返す。
何度もあの日の前日を
次の日には進めない
進んだら君は消えてしまうから
だったら繰り返せばいい
何度も何度も、繰り返した。
あの日の前日を、君がいる時間を。
そうしたらきっと、明日もそこに君がいる。
あの日の前日、君が最後にこの世にいた日。
君の声が、鼓動が、いつまでも消えなければいい。
そのためなら私は、いつまでも対価を支払い続ける。
君のいるこの世をいつまでも繰り返すために
扉を開けた。
私を出迎えたのは暗くて静かな空間
呼吸音も物音も自分からしか出ることはない
空間を歩いても歩いても、何も無い
昨日まであった温もりも、気配も、笑い声も、何一つない
どの扉を開けたらあの温もりに、気配に、笑い声に包まれるのだろう
玄関ではなかった
お風呂場でもなかった
冷蔵庫でもなかった
残すは部屋の奥、透明な扉
扉を開けた。
小学校に入学した時、大きなジャングルジムを見上げた。
空に届きそうなくらい大きくて、登ったらどこまで行けるのだろうとわくわくしていた。
でも1年生は登っちゃいけなくて、登れるようになったのは小学校3年生の頃だった。
ずっとずっと思いを馳せていたジャングルジム
一段一段にしっかりと足をかけて、その山に登った。
ふと次の棒がないことに気づいて慌てた。
しっかりと両脇の棒を掴んで、方向転換して棒に腰掛けてみた。
大きな白雲、澄んだ青空、眩しい新緑
視界いっぱいに広がる自然に目を奪われた。
ねぇ、5歳の私
あの頃憧れたジャングルジムは、こんなにも壮大な景色を教えてくれるんだよ
暖かな風が、私の成長を祝福してくれた気がした。
声が聞こえる
どこからともなく聞こえる声
鳥居の向こうに佇む暗闇
心に灯る焦燥感
声が聞こえる
駆け出す身体
近づく暗闇
呑まれる足先
____声が聞こえる
秋恋____涼しくなって人肌恋しい季節に始まる恋のこと。
「肌寒いなぁ……早く温めに来てよ、」
無駄だと分かっていても、そう言い放ってしまう。
今日も私は線香の匂いを纏って、眠る恋人に会いに行く。