糸花

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3/31/2024, 2:00:08 PM

『幸せに』
パパパッと打ち込んで、持っていたスマホは、ソファへと投げ込まれた。

座って沈み込んでいた部分に落とされたスマホは、スーッと流れて俺の膝で止まる。

このあと姉貴はトイレに行く。いつものことだけど、食卓のテーブルに置いておけばいいのに、なぜかソファだ。

いつも通りに、手の甲で払って、ソファの隅へと流してやろう。

自然と眼に飛び込んできた、「幸せに」の文字。退屈そうな、自分にも関係のある事柄だけど直視したくない、つまらない眼をしながら打っていたのがこれなんだ。

歳の離れた姉貴。友達だろうと思われる相手のアイコンには、赤ちゃんの写真。
姉貴はよく誰かと付き合っている。その分、別れもあって泣いているのを聞くこともあった。

トイレから戻ってきた姉貴は、料理を始めた。時刻はとっくに昼を過ぎている。
親が仕事で居ないとき、気まぐれに姉貴は料理をした。

食卓に二人分が並べられた。できたよ、とか、ごはんとか、いろんな呼び方あるだろ。無言で自分だけ食べ始めんなよ。

「味付け丁度いい」
「いつもチャーハンなのに、なんで今日は感想言ってんの」

幸せに似た漢字……あぁそうだ、辛いっていう字。ちょっとしか違わないなら、この瞬間の表情みたいに、笑ったときを笑えたときを、幸せと考えればいいんじゃないの。

3/30/2024, 12:17:45 PM

『何気ないふり』
話すことがほとんどない男子と、日直になってた。

今朝取りに行ったから、日誌はあたしが持ってたし、当然あたしが書いた記録がある。

どうしよ。

とりあえず、やれることはやって、記入しないと。

背伸びしてやっと消せるところまで、びっしり書かれてる。その上を軽々いってしまう男子の手。

日誌持ってる?
そう言ってきて、声が出せなくて、指差しをした。

ぱらぱら捲って、シャーペン借りていい? その声にも頷いて返事するのが精一杯。

「黒板、上のほう、消してくれてありがとう」
「……別に。そういうの言われ慣れてないから、知らない振りしとけよな~」

言わなきゃよかったかな、なんか気まずい。
窓も閉まってる、あとは鍵をかけて日誌も一緒に職員室へ持っていけばいいだけ、なんだけど。

日誌を持っていた両手が、突然軽くなる。

「日誌、俺のすることほとんど無かったし」

そう言ったら、鍵も一緒に持って行ってしまった。また言うと気まずい空気になっちゃう? でも、「ありがとっ」そう言い切ったら「んー、じゃあな」そう返ってきた。