今日は健とデート、自分とデートをするのってどんな感じなんだろうと考えた。2年間、栞菜と過ごして互いの口癖や仕草を真似て、栞菜に成り切るよう努力した。2年が過ぎた冬に共に過ごしたマンションを売り払った。
タイに行って性転換をして、韓国で整形をした。マンションで栞菜と別れてから、今日まで一度も会っていない。互いに入れ替わって初めて会う。
スペイン料理店奥のテーブルに座っているのは健、元の私だ。ほんとに自分でも信じられないくらい、私がそこにいる。健が私に気づいて手を上げた。
健のところに行くと花束を渡された。栞菜の理想は初デートで花束を渡されることだった。
自分から花束を渡されるのは、不思議な感じがした。花束を受け取り、「ありがとう」と微笑んだ。
最初で最後のデート、これが終われば二度と会うことはない。
鏡に映る新しい顔を見て、栞菜は自然と笑みが溢れた。女になって初めて見せる笑顔は、自分に向けられている。女として生きると決めてから、幾つもの障害を乗り越えて手に入れた新たな人生。
男として生きた人生も決して悪かったわけでもない。ただ自分の気持ちに正直でありたいと思う気持ちも、強くなっていた。
そんな時に出会ったのが白石栞菜だった。彼女に出会わなけれは、人生を交換しようとは思い付かなかったと思う。
彼女は自分が思い描いていた理想の女性だったから・・・
私は他人の人生を生きている。白石栞菜という女性から全てを金で買った。顔、人生、彼女の全てを。
タイに行って性転換手術をして、韓国で顔と体を整形して、白石栞菜になった。本物の白石栞菜は、谷岡健として生きている。そう私は元は男だ。私の人生は彼女にあげた。
これがどこにも書けないこと。
数年間一緒に同居して、彼女の仕草、口癖、今までの彼女の思い出を自分のものにした。お互い両親を早くに亡くし、親戚とも疎遠だったので、別人だとバレるリスクはほとんどない。
今では本当に白石栞菜として生きてきたんじゃないかと思えるくらい、自分に馴染んでいる。
彼女とは同居を解消してから会っていない。お互い過去の自分を捨て去るため、もう会わないと決めた。
女として生きてはいるが、恋愛対象は男性ではないというか、女として生きるのが好きであって、恋愛自体に興味がない。