暗がりには別の世界へ行くための入口があるんだ
見つけても決して飛び込んではいけないよ
お家に帰れなくなるからね
逆に帰りたくないのなら飛び込んでみるのも一興さ
そんなちょっと怖い話。
学校にも入っていないぐらいに小さい頃に、近所にいた名前も知らない少年が言っていた事。
少し大きくなった今となっては、暗くなる前に帰りましょうという話。
少し考えればわかる事だ。
でも、帰りたくない場合も提示されているのはなんでだろう。
「そりゃお前、向こう側の住民さね。」
「むこう?」
新聞紙を読みながら、しかめっ面をしている父の言葉を待つ。
「死んでる子供が、向こうで一緒に遊ぶ相手を探しに来てるんだよ。よく言うだろ、知らない人について行っては行けませんって。」
一緒に遊んでるから、知らない人じゃない。
「警戒心なんざ、子供はすぐ消えるからな。」
暗がりには別の世界へ行くための入口があるんだ
見つけても決して飛び込んではいけないよ
お家に帰れなくなるからね
「おおかた、帰れなくなったから飛び込んだことになったんだろうさ。ガキの間は、気付いた時にちゃんと周り見て帰って来れりゃ上出来なんだよ。怪我しててもな。」
帰りたくないのなら飛び込んでみるのも一興さ
お題:暗がりの中で
華やかな、鼻に抜ける匂いで目を覚ます。
ここ最近疲れが溜まっていたのか、日が傾いた頃の記憶が無い。
どうやら眠っていたようだ。
「おはよう。よく眠っていたね。」
ティーカップを2組取り出しながら言った彼は、字を書く仕事をしている。
作家というものだ。
普段は部屋に篭もりがちで、ご飯も作りはしても一緒に食べることは少ないから珍しいものを見た気分になる。
「少し煮詰まっててね、話し相手にでもなってくれないかい?」
「飲み物1杯分だけでよければ。」
そう言いながら、棚から焼き菓子をひとつふたつ取り出す。
煮詰まっていると言っていても、締切は近付いているのだろう事は脱稿間隔で把握している。
そんな私の考えを他所に、ティーポットを傾ける彼に視線を向けると、さも当たり前のように2つのティーカップに角砂糖をひとつずつ落とす。
ティースプーンで混ぜれば香りが広がる事は至極当然。
「眠気覚ましには、どんな話を聞かせてくれる?」
「それじゃあ、とびきりのやつを!」
彼の口から、身振りから、手振りから語られる。
大振りに手を広げて、彼の身体から溢れる物の語りは部屋の中に広がっていく。
まるで目の前にある紅茶の香りのように。
お題:紅茶の香り
「おはよう」
「いただきます」
「ご馳走様」
「行ってきます」
「ただいま」
「おやすみ」
誰かに向けた言葉?
モノに向けた言葉?
どちらでもあって、どちらでもない。
自分の人生を彩る、あいことば。
まごころだけは、そこにある。
お題:愛言葉
【定義】
ともだち。
志や行動などをいっしょにして、いつも親しく交わっている人々。
単数にも用いる。
友人。
インターネット検索結果を参照。
「友達って言葉、なんか難しいよね。」
スマホで最近流行りのゲームをしながら呟かれた話題。
「どういうところが?」
「なぁーんか、曖昧なところ?」
曖昧。
疑問に思った以上は何か理由があるのだろう。
続きの言葉を待つ。
「友達、親友、心友?真友と信友。ほら、友って字だけでも良くない?」
「…複数いるから友『達』なんでしょ?訛って『だち』になってるだけで、とも+たち。」
「あー!なるほどね!」
疑問に思ったことが昇華されて納得したのか、流行りのゲームをもう一度と言いながら新しく再開する。
大事な話もくだらない話も出来るぐらいに、気を許されている友達の中に私は入っているのだろう。
…それが、どこか暖かくてこそばゆい。
お題:友達
「行かないで」
そう口にして目を覚ます。
ああ夢かと思うには、現実味が無いどころか実感も無い事なのに、随分とリアルな夢を見たと思う。
その言葉を、言いたい相手に発せた事は1度もない。
お題:行かないで