恭真

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華やかな、鼻に抜ける匂いで目を覚ます。
ここ最近疲れが溜まっていたのか、日が傾いた頃の記憶が無い。
どうやら眠っていたようだ。

「おはよう。よく眠っていたね。」
ティーカップを2組取り出しながら言った彼は、字を書く仕事をしている。
作家というものだ。
普段は部屋に篭もりがちで、ご飯も作りはしても一緒に食べることは少ないから珍しいものを見た気分になる。

「少し煮詰まっててね、話し相手にでもなってくれないかい?」
「飲み物1杯分だけでよければ。」
そう言いながら、棚から焼き菓子をひとつふたつ取り出す。
煮詰まっていると言っていても、締切は近付いているのだろう事は脱稿間隔で把握している。
そんな私の考えを他所に、ティーポットを傾ける彼に視線を向けると、さも当たり前のように2つのティーカップに角砂糖をひとつずつ落とす。
ティースプーンで混ぜれば香りが広がる事は至極当然。

「眠気覚ましには、どんな話を聞かせてくれる?」
「それじゃあ、とびきりのやつを!」

彼の口から、身振りから、手振りから語られる。
大振りに手を広げて、彼の身体から溢れる物の語りは部屋の中に広がっていく。

まるで目の前にある紅茶の香りのように。

お題:紅茶の香り

10/27/2023, 4:27:30 PM