部屋で一言も交わさずに見た映画も、
半分こで飲んだフラペチーノも、
2人でこっそり出た夜の明るさも、
笑いながら歌ったカラオケの曲も、
1つの傘で帰った日の心臓の喧騒も、
教室からグラウンドを眺めていた時間も、
ケンカ中なのに玄関で待ってたことも、
触れてそのまま繋いだ手の温もりも、
好きな人との思い出として覚えてるのは私だけ
全てに付箋を貼って、覚えているのは私だけ
あなたにとって全部、「友達」としての思い出だったんだろうね。
私のと違って、ずっとキラキラしてたんでしょ
LINEで返信するの10分待とうとして、結局5分で返したことも無いんでしょ
嫉妬させたくてやった他に親友がいるアピールも気にしてなかったんでしょ
ずるい
本当に私だけだった
全部私だけのものだった
お題『友だちの思い出』
あの夏のあの夕べ
寝ているあなたの頬を撫で
そっと頬を触れ合わせたことも
あの午後の図書館の中
あなたの返した本を真っ先に手に取って
腕の中で抱きしめたことも
あの春の綺麗な空の下
友達に話しかけるふりをして
あなたを横目で見ていたことも
あの校舎のあの廊下
震えないように気をつけて
ようやく出した声のかすれも
あの冬の冷たい雨の日
降りしきる水の中で
こっそり呟いた2文字も
誰も知らない
私も知らない
みんな忘れた
みんな知らない
知っているのはただおひとり
そのおひとりも、話してくれはしないのだ
お題『神様だけが知っている』
窓越しに見えるのは、
向かいの座席で寝ているおじさん。
窓越しに見えるのは、
有名でもない小さな山。
窓越しに見えるのは、
派手なネオンのエスニックバー。
窓越しに見えるのは、
二、三軒ばかりのマンション。
窓越しに見えるのは、
2匹のメス猫の戯れ。
窓越しに見えるのは、
疲れた顔のおばさん。
窓越しに見えるのは、
夢か現か透明の景色。
お題『窓越しに見えるのは』
僕たちは赤い糸で結ばれてるんだよ。
違うよ、白い糸だよ
何それ?だってほら、こんなに真っ赤なんだから。
ううん。白いよ
君が見てるのは違うものじゃないの?
ううん。君と同じものを見てるよ
じゃあ、赤くないとおかしいよ。
おかしくないよ。だって、白い糸が赤く染まってるだけだもん
何の赤なの?
君の血液よ
どうして染まるの?
私たちに結ばれてるのはただの糸だもん。運命の糸なんかじゃないもん
少女は少年に背を向けると、小指に結ばれた糸を解いて駆けて行った。
少年は倒れたまま動かず、日は暮れる。
お題『赤い糸』
顔を洗う。
靴を履いて外へ出る。
車に乗る。
渋滞の中をのろのろと進んでいく。
帰りたい
何のためになるのか分からない仕事をする。
無くとも良いグラフを作る。
ミスをする。
大勢の前で叱られる。
帰りたい
皆が俺を馬鹿にする。
嘲笑し、見下す。
ああ帰りたい
ここではないどこかへ
帰りたい
玄関のドアを開ける。
服を脱いで風呂に入る。
一息つく。
帰りたい
ここは家
帰るべき場所
ただ、いつもどこかへ帰りたい
戻りたい
暗くあたたかい羊水の中
おかあさんの
子宮のなか?
お題『ここではないどこか』