あと3時間で世界が滅亡するらしいから
2人でどこかへ出かけよう
あんまり遠くへは行けないけど
海くらいなら行けるからさ
電車に揺られて1時間半
ほんとはもっと早く着いたけど
僕が電車を乗り違えて
こんな時間になっちゃった
君はあと少ししかないって焦ってて
それがとってもおかしかった
涙が出たのはおかしかったせいだよ
白い砂浜なんて事なくて
汚く冷たい場所だった
それでも普段の人混みよりも
何千倍も素敵だった
君と海を眺めたりして
残りの時間はあと1分
君は最後は笑ってたけど
僕はちょっぴり泣いちゃった
近所にできたケーキ屋も
約束してた映画だって
まだまだできてないことだらけで
嫌だねやっぱり生きたいね、なんて言って
2人の世界で笑ってた
あと1分で世界は滅亡するらしいけど
皆と心中なんて嫌だから
一足先に僕らだけで逝こう
お題『世界の終わりに君と』
あの人は駄目だなあ
うん
主人公になるには、傲慢さが足りなかったんだ
自らを正義と信じて疑わないような
自分だって差別意識はある癖に、人を罵って自分は違うと見下す愚かさも
聖職者なんか、自分の手元にある本を見てみろってもんだ
あの人も愚かだったさ
でもな、違うんだよ
あの人の愚かさは、根本的に違っている
紙一重だったさ
あの人も、すれすれ
いや、もしかすると他の視点で見れば既に主人公だったかも知れない
でも、違った
正義と正義が戦って、勝つのはどっちだと思う?
強い方か?弱い方か?
いいや違う
強さなんて関係ない
どちらの視点で見るかで決まる
つまり、どちらが主人公になるかだ
主人公になれさえすれば、勝敗はもう決まってるんだ
主役になれば勇ましい勝利が約束され、悪役になれば、無様に負ける。それがルールだ。
小さな塵を見過ごしても、その塵が積もり積もって街一つ埋めようとも
許される、それが正義だ
あの人は、主人公になろうとしたんだろうなあ
そういう人だったから
でもな、結局お終いだよ
あの人、才能は十二分にあったんだがな
お題『最悪』
自分にできないことができる人は尊敬するし
私よりも早くできる人も
私より完璧にできる人も尊敬できるのに
自分より下であってほしいと思う人がいる
その人が私より少しでも上だと感じると嫌になって、
自分の生きている価値が分からなくなる
違う分野で比較して安心して
また劣った部分を見つけて泣きそうになる
その子のことは大好きなのに
誰より仲良しな自覚もあるのに
醜い征服欲を抱えて
相手の言動に一々ピリピリして
こんなこと、もう辞めたい
お題『誰にも言えない秘密』
ほら、やっぱり
あんまり考えすぎちゃダメなんだよ
考えることは確かに真理に近づくけれど
考えすぎると逆に遠ざかる
人間そんな複雑にできてないのに
死にたいのに死ねないのは怖いから、とか
あの人が死んだのは事故だったから、とか
そんな事実を受け止められなくなるくらいなら
思考をやめた方がいい
適度に考えて適度に気を抜く
そのバランスを保たないと壊れてしまう
だからあの子は壊れてしまった
だから私は生き延びた
こんなに狭く小さいところで
発狂するのは救えない
私は生きる
あの子の肉を喰らってでも
狂っているのは
あの子だけ?
お題『狭い部屋』
何で神様は私を作ったの?
何でこんなパーツにしたの?
何でこんか世界に生まれさせたの?
何で作ったのに放置するの?
何で教えてくれないの?
ねえ
ねえ
ねえ
ねえ、教えてよ。
「好奇心は猫をも殺す」って言葉知ってる?
私ね、殺して欲しいの
猫みたいにね
私、本気よ
嘘なんかじゃないわ
死にたい程辛いわけじゃないけど
それ程に、追い込まれてるわけじゃないけど。
ただね、知りたいの
死ぬのって、どんな感じか
私を、おかしいと思う?
思わないでしょ
だって、狂ってるのは私じゃなくてあなただもの
ふふ、怒っちゃった?
ほら、あなた、私の首に手をかけてる
殺したいんでしょ
良いわよ
私、殺されたいって言ったでしょ
そう、そのまま、
呼吸する間なんか与えないでね
決心が鈍るわ
ねえ、
でも、最期に教えてね
私はあなたが好きだったのよ
あなたは?
手のひらに残る生々しい感覚と、彼女の遺した言葉が、目の前に倒れる『それ』が夢でないことを示していた。
何で彼女はこんな僕を好きになったんだろう。何でこんな奴に殺されたがったんだろう。
初夏の暖かい空気の中、頬を濡らす雫は空を知らなかった。
お題『梅雨』