ななせ

Open App
6/6/2024, 10:40:55 PM

あの人は駄目だなあ
うん
主人公になるには、傲慢さが足りなかったんだ
自らを正義と信じて疑わないような
自分だって差別意識はある癖に、人を罵って自分は違うと見下す愚かさも
聖職者なんか、自分の手元にある本を見てみろってもんだ
あの人も愚かだったさ
でもな、違うんだよ
あの人の愚かさは、根本的に違っている
紙一重だったさ
あの人も、すれすれ
いや、もしかすると他の視点で見れば既に主人公だったかも知れない
でも、違った
正義と正義が戦って、勝つのはどっちだと思う?
強い方か?弱い方か?
いいや違う
強さなんて関係ない
どちらの視点で見るかで決まる
つまり、どちらが主人公になるかだ
主人公になれさえすれば、勝敗はもう決まってるんだ
主役になれば勇ましい勝利が約束され、悪役になれば、無様に負ける。それがルールだ。
小さな塵を見過ごしても、その塵が積もり積もって街一つ埋めようとも
許される、それが正義だ
あの人は、主人公になろうとしたんだろうなあ
そういう人だったから
でもな、結局お終いだよ
あの人、才能は十二分にあったんだがな


お題『最悪』

6/6/2024, 6:57:12 AM

自分にできないことができる人は尊敬するし
私よりも早くできる人も
私より完璧にできる人も尊敬できるのに
自分より下であってほしいと思う人がいる
その人が私より少しでも上だと感じると嫌になって、
自分の生きている価値が分からなくなる
違う分野で比較して安心して
また劣った部分を見つけて泣きそうになる
その子のことは大好きなのに
誰より仲良しな自覚もあるのに
醜い征服欲を抱えて
相手の言動に一々ピリピリして
こんなこと、もう辞めたい


お題『誰にも言えない秘密』

6/5/2024, 6:33:19 AM

ほら、やっぱり
あんまり考えすぎちゃダメなんだよ
考えることは確かに真理に近づくけれど
考えすぎると逆に遠ざかる
人間そんな複雑にできてないのに
死にたいのに死ねないのは怖いから、とか
あの人が死んだのは事故だったから、とか
そんな事実を受け止められなくなるくらいなら
思考をやめた方がいい
適度に考えて適度に気を抜く
そのバランスを保たないと壊れてしまう
だからあの子は壊れてしまった
だから私は生き延びた
こんなに狭く小さいところで
発狂するのは救えない
私は生きる
あの子の肉を喰らってでも
狂っているのは
あの子だけ?


お題『狭い部屋』

6/2/2024, 1:41:40 AM

何で神様は私を作ったの?
何でこんなパーツにしたの?
何でこんか世界に生まれさせたの?
何で作ったのに放置するの?
何で教えてくれないの?
ねえ
ねえ
ねえ
ねえ、教えてよ。

「好奇心は猫をも殺す」って言葉知ってる?
私ね、殺して欲しいの
猫みたいにね
私、本気よ
嘘なんかじゃないわ

死にたい程辛いわけじゃないけど
それ程に、追い込まれてるわけじゃないけど。
ただね、知りたいの
死ぬのって、どんな感じか
私を、おかしいと思う?
思わないでしょ
だって、狂ってるのは私じゃなくてあなただもの

ふふ、怒っちゃった?
ほら、あなた、私の首に手をかけてる
殺したいんでしょ
良いわよ
私、殺されたいって言ったでしょ
そう、そのまま、
呼吸する間なんか与えないでね
決心が鈍るわ

ねえ、
でも、最期に教えてね
私はあなたが好きだったのよ
あなたは?


手のひらに残る生々しい感覚と、彼女の遺した言葉が、目の前に倒れる『それ』が夢でないことを示していた。
何で彼女はこんな僕を好きになったんだろう。何でこんな奴に殺されたがったんだろう。
初夏の暖かい空気の中、頬を濡らす雫は空を知らなかった。


お題『梅雨』

6/1/2024, 12:02:51 AM

子供は無垢で良いねえ。
子供が無垢なのは頷ける。けれど、無垢とは良いことだろうか。無邪気であるとか、そういった事は全てプラスであるのだろうか。
私なりに、幼い頃を振り返ってみる。
ある雨上がりの日のことだ。学校から帰っていた私は、道に蛙を見つけ、何も考えず傘の先で潰した。
結果、蛙はくきゅ、と音を立てて無惨な姿に変貌し、私は顔を顰めた。
あれは無垢だ。
罪の意識もなく、純粋な興味のみで行われた行為は無垢そのものであり、到底咎められるものではない。悪意を持って起こった事ではないからだ。
もう一つ。
私の小学校には、気の弱い生徒がいた。
自分の意見を全く言わず、人に合わせる、早い話が引っ込み思案だった。その子はいつもオドオドしていて、幽霊みたいにふらついていた。
そのことを、誰かがこう言った。
「あの子って、おかしいよね」
『おかしい』この言葉に、大した差別意識や嘲笑などは含まれておらず、ただ自分が感じたままに言っただけである。
しかし、それ故に周りも賛同した。
お前、おかしいって。ねえやっぱりさあ、おかしくない?おかしいよね。うん、分かる。
それはどんどん伝染して行き、耐えられなくなったその子は、担任の教師に訴えた。
教師はクラスメイトを叱ったが、誰一人として心に響いてはいなかっただろう。
何故なら、悪意を持った行動でないからだ。
いじめてやろう、嫌がらせてやろうと思って笑っていた者は一人もいないのだし、むしろ面白いネタが増えたくらいの気構えだったのだ。
これも全く無垢である。
どんなに善い行いをしても、その根源に欲があればそれは無垢ではなく、打算の上の行動だ。
逆に、悪逆非道の限りを尽くしても、その根源に欲望がなければそれは無垢なのだ。
心に濁りのない者は、ひとたび道を間違えると独裁者にもなりかねない。小さいうちならまだ叱咤で済まされるだろうが、年齢を重ねるにつれて負う責任の重さも増していく。
そう考えると、大人になる前に無垢を失うのは良い設計と言えるのかもしれない。


お題『無垢』

Next