お前たちにとってあの人は悪だったろうがな、俺にとってのあの人は聖母だったんだ
正義を振りかざす側は楽で良いな
裏で立ち回るドブネズミの事なんか考えずに済むんだ
皆が皆、太陽を望んでいると思うなよ
あの月の、慈しむような光の下でしか息をつけない奴らだっているんだ
それをお前は奪ったんだ
お前が正しかろうが何だろうが、あの人を奪ったことに変わりは無い
自分と違えば全て否定しても良いのか?
お前が善とは誰が決めるんだ?
お前はその善に悪と決め付けられて、素直に死ねるのか?
死ねないだろうな、所詮そんなものだ
あの人は間違っていたか
お前らに取って、悪だったか
だがな、俺はあの人を信仰していたことをこれっぽっちも後悔しちゃいない
それを間違いとされたとしても
たとえ本当に間違いだったとしても
俺はあの人を誇りに思う
お題『たとえ間違いだったとしても』
空にある、あの白いのは何ですか
あれは魚じゃ。魚の群れじゃ。
草々を揺らす、透明は何ですか
あれは鳥じゃ。飛び交う鳥じゃ。
暗い時に空にある、たくさんある、あれは何なのですか
あれはなにでもない。なにでもない。
ではあれ、空から落ちてくるあれは何なのですか
あれは泪じゃ。
誰の泪ですか
ここに生きておる皆の泪じゃ。
なぜ泪が空にあるのですか。我らは下におりますのに
泪を集める象がおってな。その象が、我らの泪を集めて空に行くのじゃ。
象はなぜ空から泪を落とすのですか
象が落としておるのではない。泪のほうで勝手に落ちてくるのじゃ。
集めた泪が無くなって、象は悲しまないのですか
悲しむ脳が、無いんじゃよ。無くなったことにすら気が付かぬ。故に何度も泪を集める。
象は、なぜ脳がないのですか
犬は太陽、虎は月。鳥は風、象は雫。雫に、脳があると思うか?
思いません、けれど、象は可哀想です
なにも可哀想ではない。なにが可哀想なものか。
なぜですか
そういうものじゃ。昔から、そういうものと決まっておるのじゃ。
そうですか、そうですか
さあもうおやすみ。また明日。
朝になったら、空には犬です
お題『雫』
したい事はある?
──ううん。
食べたい物はある?
──ううん。
欲しい物はある?
──ううん。
無欲だね
──違うよ。
じゃあ、何を欲しているの?
──ぼく、ここから出たいよ。おうちに帰りたいよ。ママのごはんがいいもん、パパとキャンプするってやくそくしたもん。無欲じゃないよ。ぼくが何回いってもきいてくれなかっただけじゃないか。ねえ、ここから出して。それ以外は、ぼくいらないよ。
それは駄目だよ。でも、それ以外なら何でもしてあげる。何が欲しいの、言ってみなさい
──このひと、きらいだ。
お題『何もいらない』
もし、未来が見えていたなら。
君と出会った時から、もっと上手く立ち回れていたなら。
君の蛮行を必死で止めて、彼を殺させたりなんかしなかった。
僕は君を許さないし、君は僕を憎むだろう。
そして僕は君を許すことはない。彼女を一人ぼっちにして、悲しませることもない。
ああ、でもきっと、僕はやり直せたとしても君を選んでしまう。彼女を選ぶことなく、君と二人で死んでしまう。
そんなことを考えながら、
暗く深い海の底で、
瞳を閉じた君を眺めて、
その時感じた気持ちが何だかとても気持ち悪くって、
眠った。
お題『もしも未来を見れるなら』
この世に色が無くなったら、どんな世界になるだろう。
まず、信号機は意味を無さなくなるから、全部が音で表すタイプのものに付け替えられる。それなら聴覚障害のある人はどうするんだと言う問題はあるが、周りの人が歩くのを見て合わせれば案外何とかなりそうだ。
それから、色んな模様が発明される。服の色はみんな同じだから、柄で他と差をつけて、ファッションセンスを競ったりする。
分からなくなってしまえば、肌の色で差別されたりするのは無くなるんじゃないか。
あれ。
指摘されて気が付いたけれど、私が言ってるのはモノクロだ。
無色なら、白色も黒色も無い。全てが透明だ。
透明、透明。
透き通っているのなら、自分の体も相手の体も、何にも見えない。相手の息遣いで、自分の声で、ここにいると叫ばなければ気付いてもらえない。
なら、眠ってしまえばどうなるのだろう。自身の存在も、目覚めたら無くなってしまっているのではないか。しかも、それは誰にも気付かれることは無い。
見えないから、返事をしていないだけだと思われるのがオチだ。
誰にも見えないまま死んでしまえば、死んだことさえ気付かれない。泣いて悲しむ者さえいない。だっていないなんて分からないから。
何だか、寂しい虚しい世界だ。
お題『無色の世界』