流れ星に願いを
それはどうしても避けられない事はわかっていた。
それでも願わずにはいられない。
だから俺は願う。
どうか、どうか……兄さんが、俺の……
俺は空を見上げながら、流れ星を待った。
*****
俺が残業を終え、家に戻りドアを開けると、中は真っ暗だった。
まだ、弟はバイトから戻ってきていないのだろうか。しかし、今日はバイトも夜の講義も無いと言っていた。
サークル仲間と飲みに行っているのだろうか?
だが、その連絡もない。
ただいまと言ってみたが、返事がない。
俺はリビングの明かりをつけようとしたとき、弟が窓の外から新月の空を見上げていたのが見えた。
こんなに街の灯りがあるところで、星など見えはしないだろうに。何をしているのか。
俺は疑問に思っていたが、今日の天気ニュースで、どこかの星座のあたりから流星群が見られると言っていた。
もしかしたら、明かりもつけずに流星群を見ようとしていたのか?
弟は、流星群が見られるという方向に頭を上げたままじっとしている。
まさか、流れ星に願いをしているのではないのだろうか。
俺はリビングのライトをつけようとしたとき、弟が俺の気配を感じ取ったのか、俺の方を振り向いた。
新月の闇の中で弟の顔には影がかかっていたが、何かを訴えるような瞳で俺を見つめる気配がした。
俺と弟の視線がぶつかる。
弟は立ち上がり俺の方へ近づくと、震える唇で俺に言いづらいであろう思いをぶつけてきた。
俺はその弟の想いを受け止めた。
そうして、リビングの明かりをつけ、椅子に座るよう弟に促した。
*****
「どんなに考えてもレポートが進まないんだ! 頼む兄さん! 俺の代わりにレポート書いて!!」
明るいリビングで、弟は俺に向かってダイニングテーブルにぶつけんばかりの勢いで俺に何度も頭を下げてきた。
「それは自分で頑張れ」
俺は弟の願いを受け止めたが、応じるとは一言も言ってない。
第一、レポートは弟がするべき課題だ。何故俺に頼るのか。
「そこをなんとか! 明日が締め切りなんだ!!」
弟は涙声で俺に言うも、俺は弟へ言わずにはいられなかった。
「流れ星に願う時間を使って書けばよかったのでは……」
お題:雫
私が一瞬、ほんの一瞬だけ目をそらしてしまっただけで、今まで積み上げてきたものがすべて失われてしまった。
積み上げるのには、とてつもない努力と時間とアイデアを注いできたのに。
どれだけ雫のような涙を流しても、全てはもう、取り返せないのだ。
思い出も記録も保存していなかった。ましてや形などかけらも。
軽く見ていたのだ。
本当に少しだけ目を離すことで失われるなどと。
どんなに泣いても、時間も努力もアイデアも戻ってこない。
また一から積み上げていくには、あまりにも辛くて。
かつて築いてきたものを、もう取り戻せない現実を受け入れるのが難しくて。
他(ゲームを立ち上げた)に浮気するんじゃなかった。
執筆中に他のアプリを開くんじゃなかったと。
後悔してももう遅いのだ……。
―――――
多分一度は経験あると思います。
ちょっと他のアプリを立ち上げて、ココに戻ってきた時に、せっかく書いたものがすべて消えているということが……。
お題:何もいらない
俺は今、何もいらないと強がっている。
あと少し、あと少しだけなんだ。
あと少し我慢すればいいだけのことなんだけど……
分かってる。俺のこの思いが、願いが不条理なことはわかっている。
俺はカレンダーと財布を見ながら、何度もため息を付いた。
そんなときは兄さんの顔がよぎる。
だけど、どんなに乞い願っても、兄さんへこの願いは届かない。届いたところで、決して受け入れられるはずのない願いだから。
だからもう、何も期待しないと。
言い聞かせても我慢できない思いを抱きながら、午後から授業の俺は、朝10時頃に震える手で兄貴のドアをノックした。応答はまったくない。
よく考えたら、兄さんは出勤していた。そりゃいないよな。
俺は空きっ腹を抱えて午後の講義に出るのだった。
……ここのところ俺は、兄さんの顔を思い出しては、顔を見ては、何度もため息を付いている。
決して無理とわかっていながら、それでも期待してしまう自分が苦しい。
言い出せない自分が、とても苦しい。
そんな思いを抱いて2日後。
夕食を食べているときに、兄さんが俺の名を呼んだ。
「どうしたんだ。ここのところ俺の顔を見ては悩んでいるように見えるのだが、何か言いたいことがあるのか?」
「うっ」
俺は慌てて首を振った。
「それなら良いのだが」
兄さんはそう言うと、再び食事を始める。
食事の間中、俺達の合間に嫌な沈黙が落ちる。
しばらく続いた沈黙を破ったのは兄だった。
「本当に、何もないのか?」
兄さんが、うつむいている俺に向かって名前を呼んだ。
ドキリ。
俺の心臓は高鳴った。
兄の顔を見ることが出来なくて顔を上げられない。兄さんは一体どんな顔をしているのだろう。それがとても怖かった。
その時が来たのだと、覚悟していた。
兄さんに、この思いはすでに届いていたのだろうと思って、俺はぎゅっと目をつむった。
もう、黙ってはいられなかった。
「兄さん、俺はもう兄さんからは、今は何もいらない……返せないから。だから借金の返済だけは待ってほしいんだ」
「そうか。分かった」
兄はあっさり俺の願いを聞き入れてくれた。
俺の胸のつかえが降りて、ホッとしていると兄が続けた。
「今日はボーナスが入ったからお前が欲しがっていた財布を買ったのだが、俺からは何もいらないようだな。ならば俺が使うことにしよう」
「えっ」
それとこれとは全然別だから!!
待ってー!!
何もいらないなんてそんなことないから!!
俺は兄さんの言葉の取り消しを乞い願い、だいぶご機嫌を取った後、欲しかった財布を貰ったのだった。
もしも未来を見れるなら
僕は何を見るのだろう
貴女に会うのが楽しみで
ずっと会えるのを待ってます
貴女の震える声を聞き
僕は覚悟を決めました
僕には貴女が全てでも
貴女は僕を愛せない
こんな未来は見たくなかった
貴女に愛されないことも
さよならさえも言えないまま
黙って去っていくことも
お題:もしも未来を見れるなら
昔々あるところに
将来を誓った ある二人がいました ある日の
夜中の白く眩しく 輝く太陽と月の中で
くちづけをかわし
のりとを交わしました
正式なめおととなった 二人は
重ねた手を握りしめて
いつしか 世界の中に溶けてしまいました
そうして
二人を形作っていた 世界は
消えてしまいました
お題:無色の世界