もう少し待っててくれ
少しだけ生きる理由があるから
あの子を育てることは時間稼ぎ
ぼーっと毎日を生きて死ぬ時間が来るのを待っていた
関心は無かったがよく似てるあの子と暮らすことになって長い
去年、高校生になった
大学進学を考えているらしい
だから、もう少し待っていてくれ
「先輩、好きです。結婚しましょう」
後輩の実家で暮らす毎日
一日一回は言われた言葉
結局、最後まで「分かった」の一言を言わなかった
二人で暮らして半年 後輩の言葉は変わらなかった
「俺も好きだよ」
伝えたい
彼女の両親が気を使って、渡してくれた骨壺の中を見た
生きている間に伝えれば良かった
彼女が死んで16年 後追いもせずに生きてる
覚えている
あの日、開け放たれたベランダから見た景色を、風に膨らむカーテンを
落ち行く貴女の姿を
落ちた後、洗濯籠には干し切れていない洗濯物がまだ入っていたことを
この場所で俺は貴女と同じ景色を見ている
一人暮らしをするようになって、初めて貴女の気持ちが分かった
ベランダから見る街の景色はとても汚かった
今になって貴女を許せる気がする
あの日、綺麗な姿でこんなに汚い場所に落ちていった貴女
逃げたつもりで、逃げた先で見世物になった
開け放たれたベランダの前で座り込む子供は、身勝手な怒りを持っていたけど、捨てられたと、役目を放棄して逃げたと思ったけど
今でも持っている あの日の新聞の切り抜きを
『母親 ベランダから飛び降りか』
誰もがみんな心の中に何かを抱えている
人に言えない悩み、自分だけが辛い訳では無い
そう理解していても、自分は周りより辛い気がする
かと言って、そう思っている時もあればあいつより自分は辛くない、マシだと思っている時もある。
自分の方が辛いと思って不幸せに浸かっている時もあれば、自分はマシだと思って溺れないように藻掻いている時もある
人間らしくてそんな自分が、嫌いで好きだ。
死にたい生きたいと言っている自分が、なんだかんだ言って好きなのだ