全国高校陸上決勝戦
あと一周で勝負が決まる。
胸が張り裂けそうだ。
足ももう限界が近い。
あと2メートル。
あと2メートルで金メダル。
僅かな差が縮まらない‥。
4年連続1位の土佐高校の天城葵。
彼女に勝つために私は研鑽してきた。
もう無理かもしれない。
また負ける。何度も負けてきた。
最後の最後までねばれない。
いつもそうして負けていた。
けど、今日は違う。
亡くなった父のため。父に金メダルをかけるため。
諦める訳にはいかない。
諦めるな。
お前のいいところは1つのことに真摯に向き合い、最後までねばることだ。亡くなった父の言葉だ。
心に炎をともして。
心の灯火を燃やし続けろ。
勝つのは私だ。
4年連続優勝の女王、天城葵に勝利した今の気持ちを率直にお願いします。
父の言葉のおかげです。ありがとうを伝えます。
私は今日お墓参りに行く。
金メダルをかけるために。
心の灯火
シトラスのようにスッキリしていて、
バニラのように甘い香り。
あなたとすれ違う度に香る匂いは、
あなたと話してみたいと思わせる。
いい香りですね。つい声が出てしまった。
あなたは、恥ずかしそうに頬を赤らめ
いい匂いでしょ?と可愛らしくはにかんだ。
なんだか照れくさく、恥じらいを誤魔化すために、
外を眺める。
ガラスに映る自分の姿に、照れくささと
心地よい高鳴りを感じた。
柑橘系の香水を纏い、あなたに近づきたいと
今日も
容姿をを磨く。
貴方の特技はなんですか?
物事を論理的に考えることができます。
論理的に考えることができるね。ここに来る人はみんなそう言うんだよ。まあ弊、論理的でないと生きていけないのも確かなんだけどね。
でも私が聞きたいのは、あなたらしさ、あなたの誇りは何という点なんだよね。
論理的とかではなく。あなたの根本が知りたいな。
難しいことを言われた。面接は不採用。
何度お祈りメールをもらったことか。
昔からそうだ。他人と何故か価値観が異なっており、みんなの普通が私には理解できなかった。
社会生活では、しばしば、普通を強要される。
飲みの場に参加する。上司には胡麻を擂る。
話の流れを読んで発言することを求められる。
求められるというより、普通にできて当たり前であるが故、わからないことを聞いても、わからないことがわからないと言われるだけ。
特技はなんですかと聞かれたら、得意なことで自身があることを話すに決まってる。
いざ話すと、そういうことじゃないと一掃され、いうことを聞かない奴と思われ、当人の意思とは関係なく不採用の烙印が押される。
あなたの根本が知りたいというけれど、根本なんて一言で表せるものではないし、安い言葉で終わらせたくもない。そんなことを、面接という限られた人生の選択の瞬間に問うのは無理があるように思える。
そんな状況でも無理やり話を合わせることのできる人が、社会生活でキャリアを積みどんどん昇格して行くのだろう。
しかし私は、無理やり話を合わすくらいなら、ありのまを曝け出し、できないことはできないと、芯を持って真摯に向き合うことを選ぶ。
人に否定されようが、おかしいと言われようが、面倒くさいと思われようが、使えないと思われようか、自分の意志に嘘は付きたくない。
誇らしさとは、言葉にできない心のなかに秘めるものだと思います。
自転車に乗って緑のトンネルを抜けると、
照りつける太陽が、灰色の世界を光らせる。
グラジオラスとスターチスを添え、
あの人に挨拶をする。
川のせせらぎ乾いた音。風の匂いに揺れる鈴。
合唱曲に滴る汗。暑い日々が続きますね。
カブトムシを捕まえ持ち帰り、
一丁前育てると言い張り、結局いつも人任せ。
当の私は、スイカとひやむぎに舌鼓。
午後から親父と釣りに行く。
釣り竿片手に肩から餌箱をかけ、自転車漕いで川まで走る。キスがよく釣れ、母にお土産。
あの頃は、時間が立つのが早かった。
父さん、母さんおはよう。
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「パパ!カブトムシ捕りに行こう!」
たも網と籠を持った息子を見てあの頃を思い出す。
「ほら。行ってきますは?」
「ママ。行ってきます。」
「行ってらっしゃい。パパの言う事聞くのよ。」
「それじゃ、行ってくるよ。」
「あなたも気をつけて。」
「おう。」
「美味しいスイカとひやむぎを用意しておくから、暗くなる前に帰ってきてね。」
「よし。森までパパと競争だ。」
自転車に乗って、一緒に森に向かう。
日陰を走っているはずなのに、
あの頃よりも少し暑く感じた。
隣の太陽は今日も満点に煌めいて、
私はひと夏の幸せを噛みしめる。