Echo

Open App
7/12/2023, 2:15:37 PM

「なあ、ホントによかったん?」

 単純な疑問を口に出して、しまったと思う。
 ただ、そんなぼくの心配など全く意にも介さず、目の前のシワの深い顔がくちゃっと歪んでそのシワを更に深くする。

「かまわん、かまわん。先祖代々の家ってワケでもなし、生活に合わんくなったんだから仕方ないて」

 じいちゃんはそんな風に笑うが、「ここはじいちゃんの父ちゃんが建てた家で、色んな思い出があるからばあさんと死ぬまで住むんや」と家に遊びに行くたび、少しお酒が入ればそう言っていた。皆知ってるのに。
 ぼくらの家から車で30分程度の距離だから、心配はするがそれでも手放す必要なんてあったんだろうか? まだ危なげなく車も運転できたというのに、免許まで返納してしまった。

「一人じゃ広すぎるしなあ」

 家具が運び出され、すっきりしてしまった部屋を見て周りながらそう呟く。その横顔は寂しさももちろんあるが、どこか晴れ晴れとして見えた。
 「まるで終活じゃないか」酔った勢いでそう呟いた父に、「そんなワケないでしょ、変に酔うから全く」と言いながら母が並々と父のコップに発泡酒を注ぎ足していたのを思い出す。

「ヨロシク頼むなあ」
「宜しくお願いします」
「かたいなあ。気楽にやろ。ある意味新参やけど、家族やねから」

 これは自称ばあちゃんの弟子の母が正しそうだ。
 そうして終わった引っ越し後、同居開始の最初の夜、三世代揃って母に酔い潰されたのだった。

 「前向きな"これから"に決まってるじゃない!」




お題:これまでずっと

7/11/2023, 11:29:10 AM


ねえ、好き
なんだけど   午後10:36


付き合わない?   午後11:13

           📞 音声通話が終了しました
    既読 午後11:54 26:10





お題:1件のLINE

7/10/2023, 11:26:08 AM

目が覚める
斜向かいのお父さんが死んだ
嘘だ、そう思うと意識が遠ざかる

目が覚める
前の家族が死んだ
明かりが消えている、そう思うと意識が闇に沈む

目が覚める
うちのじいさんが死んだ
高い金を払ったのに、憤りも空しく意識が飛ぶ

目が覚める
隣で息子が死んだ
嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、もうーー

目が覚める
隣で妻が死んだ
もう嫌だ、もう目覚めたくない...

次に見た風景は、自分以外の装置が沈黙した光景だった
ああ、暗い
みんなダメだった
何で、俺だけが
泣いた
泣いた
泣きつかれて眠った

もう男が目が覚めることはなかった
棺桶のような機械が寝息をたてるように並んでいる




お題:目が覚めると

7/10/2023, 5:22:11 AM

ねえ、気づいてる?
私、目玉焼きは半熟が好きだったの。
でもいつの間にか、堅焼きが当たり前。
ちょっと裏と縁がぱりっとしてる位が好きになったの。

ねえ、気づいてる?
あなた、ケーキとかドーナツとか、おやつには紅茶だったの。
でもいつの間にか、コーヒーになってる。
ちょっと濃い目に淹れるぐらいが当たり前。

当たり前って、当たり前じゃなかったんだね。

でも悪い気はしないよね。



お題:私の当たり前

7/8/2023, 3:04:26 PM

23時45分
ふと喉と小腹の主張を感じ、ふらりと家を出る。

近付いては遠のいていく灯りと、小気味良いエンジン音。
ぺたぺたと合間に引っ掛けてきたサンダルの音が混じった。

コンビニから出て、ゴミ箱横の軒下で缶チューハイを開けた。
喉を潤し、さてと手を掛けたサラダチキンの包装に、はてと思い手が止まる。
足元には黒く影が伸び、正面の道にはまだ車も人の往来もあるのだ。

あの町では暗闇に、波と虫の音しか聞こえなかったと言うのに。
ずいぶんと夜更けの時間が遅くなったものだな。

じっ
誘蛾灯に焼かれた羽虫が落ちる。



お題:街の灯り

Next