Echo

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「なあ、ホントによかったん?」

 単純な疑問を口に出して、しまったと思う。
 ただ、そんなぼくの心配など全く意にも介さず、目の前のシワの深い顔がくちゃっと歪んでそのシワを更に深くする。

「かまわん、かまわん。先祖代々の家ってワケでもなし、生活に合わんくなったんだから仕方ないて」

 じいちゃんはそんな風に笑うが、「ここはじいちゃんの父ちゃんが建てた家で、色んな思い出があるからばあさんと死ぬまで住むんや」と家に遊びに行くたび、少しお酒が入ればそう言っていた。皆知ってるのに。
 ぼくらの家から車で30分程度の距離だから、心配はするがそれでも手放す必要なんてあったんだろうか? まだ危なげなく車も運転できたというのに、免許まで返納してしまった。

「一人じゃ広すぎるしなあ」

 家具が運び出され、すっきりしてしまった部屋を見て周りながらそう呟く。その横顔は寂しさももちろんあるが、どこか晴れ晴れとして見えた。
 「まるで終活じゃないか」酔った勢いでそう呟いた父に、「そんなワケないでしょ、変に酔うから全く」と言いながら母が並々と父のコップに発泡酒を注ぎ足していたのを思い出す。

「ヨロシク頼むなあ」
「宜しくお願いします」
「かたいなあ。気楽にやろ。ある意味新参やけど、家族やねから」

 これは自称ばあちゃんの弟子の母が正しそうだ。
 そうして終わった引っ越し後、同居開始の最初の夜、三世代揃って母に酔い潰されたのだった。

 「前向きな"これから"に決まってるじゃない!」




お題:これまでずっと

7/12/2023, 2:15:37 PM