落ちていくような気がした
貴方のその瞳に
落ちていくような気がした
貴方のその声に
落ちていくような気がした
貴方のその笑顔に
落ちていったんだ、貴方という人に
映画みたいなドラマみたいな出会いじゃないけれど、
確かに感じた、貴方と言う存在に惚れるという瞬間。
私の中で何かが動いた瞬間。
世界で何よりも君が1番綺麗に感じた瞬間。
そんな貴方が、
落っこちて死ぬなんて、
誰も思わないじゃん。
ずるいよね。
最後まで、私にだけは言わないでさ、
日記なんかで知りたくなかったよ。
あの日貴方も、私に落ちてたなんて。
冬になっても、会いに来てくれますか?
冬になったら、忘れてしまいますか?
冬になったら、私は消えてしまいますか?
冬になっても、私を忘れないでくれますか?
さくら
離れて居ても心は繋がっているとか、
ずっとそばで見守っているよとか、
そんなのはただの願望で、
夢物語で、絵空事で、
私たちが都合良く作り替えた概念でしかなくて、
多くの物語で語られて来た死という生の付属品に、
私たちはどうしてこんなにも心惹かれるのだろう。
どうしてこんなにも、心が締め付けられるのだろう。
どうしてこんなにも、美しいと感じてしまうのだろう。
朝、出勤前のバイクのメンテナンスをしていると、
倉庫の中からか細い鳴き声が聞こえた。
先日は雪が降りしきっていた氷点下で、
夜は耳を覆って立ち竦みたくなる程の寒さだった。
そう言えば倉庫を閉めずにさっさと家へと入って
しまったのかもしれない。
私は不審に思いつつ、小熊などでは無い事を
祈りながら倉庫の奥を覗くと、
そこには小さな子猫が居た。
生まれたばかりなのか、まだ歩く事も拙く、
倉庫にしまってあった最後いつ使ったのかも
覚えていないキ〇ィちゃんの毛布に必死に包まっていた。
周りを見渡しても親猫らしき姿も影もなく、
私自身も出勤の時間が近付いて居た。
そんな時、当時まだ生きて居た私の恋人のNが
子猫を優しく優しく私からとりあげて、
「俺が動物病院連れて行ってあげるから、
〇〇ちゃん。お仕事行っておいで」
と寒いの苦手な癖に、裸足にサンダルを履いて
スウェットのまま鼻と耳を赤くして、
嬉しそうに微笑みながら言っていたのを
私は今も鮮明に覚えてる。
それからその子猫はウチで飼う事となって、
名前はあの毛布のキャラクターに由来して付けた。
Nは男の子なのにそんな可愛くていいの?と
焦って居たけれど、私はこのキャラクターは
新しい家族を寒い中守ってくれた恩人…いや、
恩猫さんなんだよ?と言うと、渋々、
いや、かなり渋った上で了承してくれたっけか。
彼は本当に優しい人だった。
素敵な冬の思い出が、
微かにも私の頭を飽和して、
肺も凍る様な氷点下も、
貴方の笑顔で春を迎える。
あの時、時間をフッと止めて仕舞えば、
どれほど幸せだっただろう。
いや、止めて仕舞えば、
その時が1番幸せだなんて、
気付けて居ないんだろうな。
私達だけの歯車が廻って逝く。
Nだけを取り残して、
私達を追い越して。
1人と1匹は、今日も。
春のない世界で
止まった時間を喰らっている。
いつの間にか、おじいちゃんになっちゃったんだね。
おやすみ。
秋風が肩を叩いて振り返ったの。
でも頬に冷たい風だけ、
冬の訪れを感じただけ、
別れが近くなっただけ。