『愛情』
母は私に愛情を沢山注いでくれる。
私が将来人の役に立てるように
『勉強しなさい』
と言ってくれたり。
私が体調不良にならないように、
栄養バランスの整った夕食をつくってくれたり。
私が他の子に虐められないように、
進学先を決めてくれたり。
勉強で遅れをとらないように、
塾や予備校に通わせてくれたり。
全部私のためを想ってしてくれるの。
お母さんは医者で、お父さんは大学の教授。
人の命を救う仕事と人を育てる仕事。
2人とも完璧にならなきゃ役に立てない仕事。
そんな2人の子である私も完璧にならなければいけない。
お友達も、みんないい子ばかり。
だから、私もお母さんの愛情を無駄にしないように生きるの。
『子猫』
うちに、子猫が来た。
真っ黒な猫と、真っ白な猫の2匹。
名前はゴマとユキ。
ゴマサラサラな毛並みで、ユキは固めの毛並み。
性別は男の子と女の子。
性格は大人しい子と元気な子。
正反対な2匹だけど、仲はとても良かった。
ソファーで横になると、2匹一緒にお腹に乗ってくるし、
猫じゃらしをそこら辺に置いとくと勝手に遊んでる。
半年も経つと、もう1匹も両手では収まらなくなった。
1年経ったら、2匹とも顔立ちが大人になった。
2年経つと、2匹の間に子供が生まれた。
ゴマはお父さんになって、ユキはお母さんになった。
何匹か生まれたけど、産まれてくる途中でなくなったり知り合いに譲ったりした。
残ったのは1匹だけ。
名前はマロ。
ユキからは白い毛とオッドアイを。
ゴマからはふわふわな毛並みを。
マロはみんなに愛されて育った。
すくすく育って、あっという間におっきくなった。
子どもの成長は早いなぁ、
自分も子どもなのに、
我が子を育てるように感じたのであった。
『秋風』
「キンモクセイの匂いがすきなんだ」
ある日の放課後、
文化祭のための資料を作成していた君が言う
「そうなんだ」
私も作業していたから、素っ気なく返した
「キミはどんな匂いが好き?」
「うーん、お線香の匂いとか?」
「縁起はあんまり良くないけど、いい匂いだよね」
「うん」
「僕は他にもね」
少し暗くなった、誰もいない教室。
後ろの窓側でくっついている4つの机。
隣にカバンを置いて、2人で夢中になって喋った。
好きな匂いの話をしていたら、
あっという間に青空が夕暮れになっていた
「あれっ、もう夕方?」
「うん、資料も作り終わったし、帰ろっか」
「そうだね」
玄関を出ると、ざわざわと木がなっている。
「風強いね笑」
君は髪を押さえながら言う
「フード被っても飛ばされちゃうや」
あはは、と笑う君に、私はそうだね、と返す
文化祭は今週。
君とこうして帰れないのは、少し寂しいな。
また一緒に帰れればいいのに。
二人の間を秋風が吹いていく。
『スリル』
スリルを味わいたい。
いつからかそんなことを思うようになっていた。
「今日は学校に行くのよ」
と母が言う。
「わかってるよ」
これがいつもの会話だ。
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中学生の時にいじめられ、不登校になった。
ネットで1年半付き合っていた彼氏にも浮気され、振られ。
病まない日はなかった。
中学3年生。はじめてリスカをした。
今までやってこなかったことをするのは少し、いやとてもドキドキした。
スパッッ
切れ味のいいカッター。
ジワァ
滲む赤い液。
紙で指を切ると痛い。しかし、刃物で切ったのに全く痛みを感じない。
「楽しい…もっと…」
この日を境に 毎日 腕の隅々まで切るようになった。
「はいるわよ」
ある日。いつものようにリスカしていたら母が入ってきた。
「何してるのよ!」
カッターを取った。
「かえして!」
バチンッッ
私を殴った。
「こんなことやめて!私だって忙しいし辛いのよ!?」
「これは没収よ」
冬休みに入った。やはり隠れてリスカはしていた。
わたしは母が大好きだから辞めようとした。
でも。
「リスカを辞めたら私は何を…」
そうだ。ODがあるじゃないか。
それから、私は母に勘付かれないようにお金を貯めた。
1月6日。冬休みの最終日。
課題が終わらず、学校に行きたくないと思っていた頃
ふとODのことを思い出した。
『飲み過ぎると最悪死にます』
『幻覚や幻聴等の症状が出ます』
と。ネットの記事か何かで見た。
すぐに近場のドラッグストアへ向かった。
真冬で雪があり、歩くのは辛かったが、死ぬのだから関係ないと思った。
有名な某鎮痛剤を適当にカゴに入れた。
「これで…私は…。」
店を出た後、
初めてリスカをした時のようなドキドキを感じた。
これがスリルというのだろうか。
とても気分が高揚し、雪が降っているのも忘れてスキップして帰った。
「何買ってきたの?」
妹が話しかけてくる。
「お菓子!」
私は本当にお菓子を買ったかの様な返しをした。
大根役者な方であったが、こういう嘘は誰にもバレたことの無く、得意だった。
いつもの様に夕食を食べ。
いつもの様に母を仕事へ見送る。
そして。いつもの様に部屋に入る。
机の上に買った錠剤、更に家にあるありとあらゆる錠剤を広げた。
「これをこれから飲むんだ、!」
飲んでる間。飲む前。誰にもバレてはいけない
言葉では表せないほどの感情がどっと押し寄せた。
最初は喉に詰まらせないよう、2-5錠ずつ飲んだ。
早く死にたいという思いが耐えられず、一気に沢山飲み込んだ。
「ッッッお゛え゛」
あまりのマズさに吐きそうになった。
薬の味。これ以外に表現のしようがなかった。
1時間程だっただろうか。
全て飲み終え、コップを置く。
いや、もう1杯水を飲もうと椅子を立つ。
ドサッ
何かが倒れる音がした。
気にせずドアに手をかけようとした。
体が動かない。
さっきの倒れた音は私だった。
私は何も考えられず、心臓の音が早くなっていくのだけが分かった。
私は何故かスマホに手をかけ、友達に連絡していた。
【くすりのんじゃった】
【!?大丈夫?】
【やばあかもw】
【何してるのまじで】
【今部屋?】
【うゆ】
【待って。お母さんに言ってくる。】
【まってだめやめて】
【もう言った。██のママに連絡するって。】
私はここで携帯が手から離れた。
「みゃあ、」
飼い猫が心配してくれている。
ごめんね。わたし先に逝くね。
色々考えているうちに、母が「生きてる!?」と帰ってきた。
「どうしたのママ」
妹が母に聞いているのが聞こえた。
「お姉ちゃんが部屋で倒れてるって●●ちゃんのお母さんが!」
ドタドタドタドタ
うるさい。みんなが走ってる音が聞こえる。
「大丈夫!?◾︎◾︎(妹)、き、救急車呼んで!」
妹が呼んだのだろうか。
ぴーぽーぴーぽーとサイレンが近づく。
救急隊員が入ってきた。
私は担架に乗せられた。
安心したのか、思わず、吐いてしまった。
なんで吐いたんだろう。
死にたいのに。
なんで死なせてくれないんだろう。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「大丈夫だよ。ママこそごめんね。」
私はここで涙が止まらなかった
母は悪くないのに。母に謝らせてしまった。
私のせいで。
気付くと救急車に乗せられていた
「15歳。中学3年生 オーバードーズです。お願いします」
救急隊員の1人が無線で電話をする声が聞こえる。
目が開かなかった。
眩しかった。
寝ていたらしく、気付くと救急車を降りていた
「もう気持ち悪くない?大丈夫?」
仕事着の母がベッドの隣にいた。
私は点滴を刺され、心臓の奴(笑)を付けられていた。
「ママ、仕事は、?」
「そんなの休んだに決まってるでしょ。馬鹿なの」
すごく申し訳ない気持ちになった。
でも、それと同時に少し嬉しかった。
昔は構ってくれなかったから。
1人で公園とかで遊んで、親子で遊んでる子皆に話しかけては仲良くしていた。
「ごめんなさい。」
「いいのよ。でももうしないで。」
母の様子から、ほんとに心配してくれていたのだろう。
病室に運ばれ、大事をとって1週間入院することになった。
病室生活は、とても楽しかった。
この管を取ったら私は死ぬんだ、とか
脱走したらどうなるのかな、とか
ドキドキが止まらなかった。
この件の後、家族はもっと優しくなった。
危ないことをすると、みんなが心配してくれる。
それから、スリムを求めることがもっと好きになった。