奈緒

Open App

『秋風』



「キンモクセイの匂いがすきなんだ」


ある日の放課後、


文化祭のための資料を作成していた君が言う


「そうなんだ」


私も作業していたから、素っ気なく返した


「キミはどんな匂いが好き?」


「うーん、お線香の匂いとか?」


「縁起はあんまり良くないけど、いい匂いだよね」


「うん」


「僕は他にもね」





少し暗くなった、誰もいない教室。


後ろの窓側でくっついている4つの机。


隣にカバンを置いて、2人で夢中になって喋った。


好きな匂いの話をしていたら、


あっという間に青空が夕暮れになっていた


「あれっ、もう夕方?」


「うん、資料も作り終わったし、帰ろっか」


「そうだね」


玄関を出ると、ざわざわと木がなっている。


「風強いね笑」


君は髪を押さえながら言う


「フード被っても飛ばされちゃうや」


あはは、と笑う君に、私はそうだね、と返す


文化祭は今週。


君とこうして帰れないのは、少し寂しいな。


また一緒に帰れればいいのに。


二人の間を秋風が吹いていく。

11/15/2022, 9:29:43 AM