『スリル』
スリルを味わいたい。
いつからかそんなことを思うようになっていた。
「今日は学校に行くのよ」
と母が言う。
「わかってるよ」
これがいつもの会話だ。
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中学生の時にいじめられ、不登校になった。
ネットで1年半付き合っていた彼氏にも浮気され、振られ。
病まない日はなかった。
中学3年生。はじめてリスカをした。
今までやってこなかったことをするのは少し、いやとてもドキドキした。
スパッッ
切れ味のいいカッター。
ジワァ
滲む赤い液。
紙で指を切ると痛い。しかし、刃物で切ったのに全く痛みを感じない。
「楽しい…もっと…」
この日を境に 毎日 腕の隅々まで切るようになった。
「はいるわよ」
ある日。いつものようにリスカしていたら母が入ってきた。
「何してるのよ!」
カッターを取った。
「かえして!」
バチンッッ
私を殴った。
「こんなことやめて!私だって忙しいし辛いのよ!?」
「これは没収よ」
冬休みに入った。やはり隠れてリスカはしていた。
わたしは母が大好きだから辞めようとした。
でも。
「リスカを辞めたら私は何を…」
そうだ。ODがあるじゃないか。
それから、私は母に勘付かれないようにお金を貯めた。
1月6日。冬休みの最終日。
課題が終わらず、学校に行きたくないと思っていた頃
ふとODのことを思い出した。
『飲み過ぎると最悪死にます』
『幻覚や幻聴等の症状が出ます』
と。ネットの記事か何かで見た。
すぐに近場のドラッグストアへ向かった。
真冬で雪があり、歩くのは辛かったが、死ぬのだから関係ないと思った。
有名な某鎮痛剤を適当にカゴに入れた。
「これで…私は…。」
店を出た後、
初めてリスカをした時のようなドキドキを感じた。
これがスリルというのだろうか。
とても気分が高揚し、雪が降っているのも忘れてスキップして帰った。
「何買ってきたの?」
妹が話しかけてくる。
「お菓子!」
私は本当にお菓子を買ったかの様な返しをした。
大根役者な方であったが、こういう嘘は誰にもバレたことの無く、得意だった。
いつもの様に夕食を食べ。
いつもの様に母を仕事へ見送る。
そして。いつもの様に部屋に入る。
机の上に買った錠剤、更に家にあるありとあらゆる錠剤を広げた。
「これをこれから飲むんだ、!」
飲んでる間。飲む前。誰にもバレてはいけない
言葉では表せないほどの感情がどっと押し寄せた。
最初は喉に詰まらせないよう、2-5錠ずつ飲んだ。
早く死にたいという思いが耐えられず、一気に沢山飲み込んだ。
「ッッッお゛え゛」
あまりのマズさに吐きそうになった。
薬の味。これ以外に表現のしようがなかった。
1時間程だっただろうか。
全て飲み終え、コップを置く。
いや、もう1杯水を飲もうと椅子を立つ。
ドサッ
何かが倒れる音がした。
気にせずドアに手をかけようとした。
体が動かない。
さっきの倒れた音は私だった。
私は何も考えられず、心臓の音が早くなっていくのだけが分かった。
私は何故かスマホに手をかけ、友達に連絡していた。
【くすりのんじゃった】
【!?大丈夫?】
【やばあかもw】
【何してるのまじで】
【今部屋?】
【うゆ】
【待って。お母さんに言ってくる。】
【まってだめやめて】
【もう言った。██のママに連絡するって。】
私はここで携帯が手から離れた。
「みゃあ、」
飼い猫が心配してくれている。
ごめんね。わたし先に逝くね。
色々考えているうちに、母が「生きてる!?」と帰ってきた。
「どうしたのママ」
妹が母に聞いているのが聞こえた。
「お姉ちゃんが部屋で倒れてるって●●ちゃんのお母さんが!」
ドタドタドタドタ
うるさい。みんなが走ってる音が聞こえる。
「大丈夫!?◾︎◾︎(妹)、き、救急車呼んで!」
妹が呼んだのだろうか。
ぴーぽーぴーぽーとサイレンが近づく。
救急隊員が入ってきた。
私は担架に乗せられた。
安心したのか、思わず、吐いてしまった。
なんで吐いたんだろう。
死にたいのに。
なんで死なせてくれないんだろう。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「大丈夫だよ。ママこそごめんね。」
私はここで涙が止まらなかった
母は悪くないのに。母に謝らせてしまった。
私のせいで。
気付くと救急車に乗せられていた
「15歳。中学3年生 オーバードーズです。お願いします」
救急隊員の1人が無線で電話をする声が聞こえる。
目が開かなかった。
眩しかった。
寝ていたらしく、気付くと救急車を降りていた
「もう気持ち悪くない?大丈夫?」
仕事着の母がベッドの隣にいた。
私は点滴を刺され、心臓の奴(笑)を付けられていた。
「ママ、仕事は、?」
「そんなの休んだに決まってるでしょ。馬鹿なの」
すごく申し訳ない気持ちになった。
でも、それと同時に少し嬉しかった。
昔は構ってくれなかったから。
1人で公園とかで遊んで、親子で遊んでる子皆に話しかけては仲良くしていた。
「ごめんなさい。」
「いいのよ。でももうしないで。」
母の様子から、ほんとに心配してくれていたのだろう。
病室に運ばれ、大事をとって1週間入院することになった。
病室生活は、とても楽しかった。
この管を取ったら私は死ぬんだ、とか
脱走したらどうなるのかな、とか
ドキドキが止まらなかった。
この件の後、家族はもっと優しくなった。
危ないことをすると、みんなが心配してくれる。
それから、スリムを求めることがもっと好きになった。
11/12/2022, 11:51:19 AM