ー 一輪の花 ー
昔の頃の話。学校で人気者のあの子が自殺したと聞いた時、生徒の皆は多くの花や、あの子が生前好きだったものを机に置いていった。
別に親しかった訳でもないし、良くさせてもらったこともなかったけれど、場の雰囲気に合わせて1輪だけの花を机に手向けた。
ある時、クラスでいじめが起きて、私はそれに気付かないふりをした。
クラスのリーダーに逆らってはいけない気がして、何も出来なかった。
すごく痛い事だったけれど、他人事として流すしか無かった。
挙句の果てには、机に酷い落書き…というのは元からだったが、一輪の花が置かれ、葬式ごっこのようなものが起きていた。
先生に相談しても見て見ぬふりだった。
誰も、助けに行こうとはしなかった。
私は、もうそれ以上気付かないふりをすることは出来なかった。
自分の部屋で、前々から考えていた策をだす
すごく怖いことだけれど、あれを毎日見るよりはマシなはずだ。
そして私は、自分の首を縄にかけた。
痛かった。心も、体も。
かつてのあの子も、こんな気持ちだったのだろうか。
昔の人気者のあの子みたいに、沢山の人に多くを望む訳では無いけれど、少しでもクラスメイトの気が変わればいいな。
これで、違う人にターゲットを変えないだろうか?
ああ、だけれどせめて一輪だけでいいから花を手向けてくれたら、少し心が安らぐかな。
ーひそかな想いー
そう言われると、多くの人は色恋沙汰に持っていくだろう。
だけど、私が考えるのはもっと暗い話。
「あいつに不運が降りればいいのに」
「地獄に落ちればいいのに」
そんなものも、決して人に言えないひそかな想い。
「なんで私だけ不幸な目にあうの」
「あの子はいいのに、なんで私はダメなの」
「じゃあどうすりゃいいのさ」
誰か教えて、と聞きたいけれど決して人には言えない。
そういうものもひそかな想い。
ひとつの言葉に現れる意味はひとつではない
「ひそかな想い」という言葉でこれほど変なことを考えているのだって、誰にも言えない。
そんな奴とは思われたくない。
だからそっと胸の奥に閉まっておく。
誰にも言えない
ーひそかな想いー
ーあなたは誰ー
優等生のような人生を送ってきた。
自分から進んで行動し、発言をし、喧嘩の仲裁をし、一軍に居続けた。
成績も運動神経も良かったし、人当たりもいいほうだった思う。
みんなから好かれる、主人公のような人。
それが、学校でのみんなの印象。
沢山努力して手に入れた、私の存在。
私の生きる意味。
私の生きる価値。
私の生きる理由。
全てが順風満帆に進んでいた。
そんな時にふと現れた嫌な希望。
成績もそれほど良くない癖に、大した努力もしてないくせに。
貴女が笑えばみんなが笑う。
貴女のことは、皆が認める。
私を、まるで噛ませ役のようにした、
突如現れた、まるで漫画の主人公のような
ーあなたは誰ー
ー輝きー
才能の原石、というのはよく聞く言葉だ。
削れば光る宝石。その擬人法。
その光は、皆が色んな光り方をしていて、石の形は不揃いだ。
生まれつき尖って、異彩を放つ宝石もあればヤスリで少しずつ削られていく宝石もある。
削っても削っても光を発さないものから削らないままの丸くても光を放てるものだって。
なら私はどうだ?
生まれつき尖っている訳でもないのに、丸いまま光を出せる訳でもないのに。
削る努力はしたのか?
答えるとするなら、それは否だ。
私の宝石は、もう取り返しのつかないほど変形してしまっているのだから。
1つ願いが叶うなら、私は取り戻したい。
いや、普通の形に作り直して欲しい。
皆のような
ー輝きを持つ原石をー
ー時間よ止まれー
何度、その言葉を呟いたか。
何度、そう願ったことか。
何度、それが無意味と気づいたのか。
それでもまだ、私は願い続ける。
あと少し待ってもらえればあの子に追いつけると信じて。
あと少し待ってもらえれば普通に追いつけると信じて。
そして毎度、時間など止まらないと。
止まっても追いつけることなどないんだと。
気づいていても、気づいてしまっても。
それでもまだ、私は願い続ける。
ああ、どうか、どうかお願いだから。
「時間よ止まれ」