巡り逢いって言葉、なんかロマンチックだけど、実際そんな大層なもんじゃないと思うんですよ。
だってたとえば、あの日コンビニでおでん買ってなかったら、レジに並ぶタイミングずれて、あなたとは出会ってないんですよ。
つまり、あなたと私を繋いだのは、あのときの「大根」なんですよ。
巡り逢いって、意外と汁っぽいんです。
「巡り逢い」
彼女「ねえ、今日どこ行く?」
彼氏「うーん…どこ行きたい?」
彼女「どこでもいいよ。」
彼氏「じゃあ、水族館とか?」
彼女「え〜、混んでそうじゃない?」
彼氏「じゃあ…映画?」
彼女「2時間も座ってるのちょっとなあ〜。」
彼氏「……じゃあ、カフェ?」
彼女「この前も行ったじゃん。」
彼氏「あの……じゃあ、どこ行きたい?」
彼女「え?だから、どこでもいいよ?」
(無音5秒)
ナレーション:
「“どこでもいい”と言う人は、“どこでもよくない”人である」
「“どこへ行こうか”の裏にあるのは、“試されている”という事実である」
彼氏(心の声):「これ、デートじゃなくて、面接じゃね?」
彼女(心の声):「ここで“私の気分を的確に察するセンス”が試されてることに気づいてない男って、無理。」
ナレーション:
「どこへ行こう――。それは、カーナビには決して表示されない“恋愛偏差値”の分かれ道である」
どこへ行こう
元カノが結婚するらしい。
正直、「へぇ~」としか思わなかった自分に少しガッカリしている。
もっとこう、胃がギュッとなるとか、思い出が走馬灯のように…とか、あるのかと思ってたのに、
実際はスーパーの特売チラシを眺めてるときと同じテンションだった。
でもその夜、無意識に彼女のインスタを2時間くらいスクロールしてた。
それが、僕にとっての「big love」だったんだと思う。
いや、そもそも「big love」ってなんなんだろう。
「big」って言ってる時点で、「small」や「medium」と比べてるわけで。
つまり、量とか、規模の話になるわけで。
でも愛に量って、あるのか?
じゃあ俺が今感じてる「もしかしたらあれが一番ちゃんと好きだったんじゃないか?」みたいなこの後悔って、big loveなの?
でも当時はそんな大事にしてなかったよ?
コンビニの新作アイスの方が気になってた日だってあったし。
ってなると、big loveって、あとから気づく系の愛なのかもしれない。
リアルタイムでは評価されないけど、時間差で心にジワジワ再生されてくるやつ。
もしくは、
「あの人が隣にいたら今もっと人生ラクだったかも」って思わせる、謎の幻覚。
つまり、「big love」って、いなくなってから勝手に美化される愛なのでは?
……あーあ。
なんか、もう一回付き合いたいわけじゃないんだけど、
「実はあんたのこと、すっごい愛してたよね?」って、一回でいいから彼女に言われてみたかった。
あれって、たぶん、誰かに「big loveだったのはあなたです」って、
スタンプラリーの最後でもらう記念バッジみたいなものなんだろうな。
big love
私は、ささやきが嫌いだ。
人は皆、口に出して言うことが怖いのだろう。
だから、声を潜めて、耳元で何かを言いたがる。
しかし、どうして耳元で囁かれると、あんなにも心が揺さぶられるのだろう。
その声が、まるで密かに自分の心を覗いているような、
そんな錯覚を覚えてしまう。
「お前は……」と、耳に囁かれるだけで、
何も知らぬはずの私の心の奥底が、どこかに見透かされてしまうような気がして、
そのたった一言で、私は自分を壊すのだ。
人の言葉が、こんなにも私に深く刺さるのは、
結局のところ、私が言葉に依存しているからだ。
私は、誰かの言葉を待っている。
それを欲して、心の中で求めている自分に気づいているが、
その欲望が、また私を不安定にさせる。
「好きだよ」と囁かれたとしよう。
その一言に、私は一瞬で心を奪われ、
その後、その一言だけに縛られ、
その言葉が意味を成す瞬間を、何度も繰り返すことを望むのだろうか。
だが、私は知っている。
その言葉が囁かれるたびに、
私はもっと虚しくなり、もっと深く暗闇に沈んでいくことを。
だから、私はささやきが怖いのだ。
それは、私を壊す言葉だから。
でも、同時にそれを望んでしまう自分もいる。
私は、自分を傷つけたがっているのだろうか。
結局、私は何も分かっていない。
ささやきに寄り添うこともできず、
その言葉に頼ることもできず、
ただただ自分の中で空回りしているのだ。
ささやき
星明かりが好きだなんて、嘘でした。
あの夜、わたしが星を見上げていたのは、
ただ、あなたの顔を直視したくなかったからです。
「綺麗だね」って言葉が喉まで出かかって、
わたしはそれを飲み込みました。
その瞬間、何かが終わった気がしました。
星は相変わらず、静かに瞬いていました。
星明かりって、優しそうな名前をしてるけど、
あれはただの太古の光です。
何千年も前に死んだ星の亡骸。
それを「綺麗」なんて言って、酔っているあなたが、
わたしには、とても愚かに見えたんです。
あの日から、星を見上げることはなくなりました。
あの光が、あなたの横顔を照らしていたと思うと、
吐き気がするんです。
でもね、時々ふと、思い出すんです。
あなたの声と、あの夜の空気と、
「星明かりが似合う人だね」って、
本当は言いたかった、たった一言を。
星明かり