【梨】
「梨、買ってきたんだけど、食べる?」
「え、食べたい!」
わかった、と言ってキッチンに引っ込んだ彼。
冷蔵庫から梨を取り出して、果物ナイフで軽やかに切っていく。
「切れたよ」
「ありがとう」
いただきます、とつぶやいて一切れ手に取る。
シャクっといい音がして、果汁が溢れ出した。
「おいしいね」
【LaLaLa Goodbye】
「ばいばい」を言うのすらためらうようになった
"別れ"が言葉になるのが悲しくて、つらくて
言葉を出すことへのハードルが高くなった
どう思われるのだろう、と
共感されないのだろうか、と
でも、共感なんて考える自分がダサくて気持ち悪くて
そんな自分の言葉なんていらないと
どんどん口に出さなくなっていった
書けるのに、口には出せない
【秋恋】
金木犀の香りを一緒に楽しみたいのは誰だろう。
紅葉を一緒に見たいのは誰だろう。
秋刀魚を一緒に食べたいのは誰だろう。
文化祭に一緒に行きたいのは誰だろう。
布団の中でぬくもりを分け合いたいのは誰だろう。
朝一番最初にあいさつしたいのは誰だろう。
その人がきっと、愛したい人。
【静寂の中心で】
教室で授業を受けていると、泣きたくなるときがある。
叫び出したくなるときがある。
静寂に包まれるみんなが気持ち悪くて
自分自身も気持ち悪くて。
自分が自分でなくなるような恐怖に襲われる。
落ち着いて時計を見る冷静さも
紙に気持ちを吐き出す方法も身につけたけれど。
爆発しそうなこの感情は、消えることがない。
消えてくれないのだろうか。
浮かんでは消える泡のように。
【永遠なんて、ないけれど】
永遠なんてないけれど、
あなたとの永遠だけは求めさせてほしい。
この命が尽きるそのときまで、
あなたと永遠でいたい。
でも、私のこともわからなくなってしまうのだろうか。
あなたのこともわからなくなってしまうのだろうか。
幸せな永遠だけが続けばいいのに。
あなたのために、私がいる。