【春風とともに】
ぶらんこを漕ぐ。
こんなに疲れるものだったっけ、と。
地面との距離が遠くなって、空が近くなる。
ちょっと怖くなった。
不規則な揺れがちょっと気持ち悪い。
毎日ぶらんこを漕いでいた頃が、懐かしかった。
【小さな幸せ】
息が止まりそうに荒くなって、苦しさで視界が滲む。
喉が熱くなってほろりと涙がこぼれる。
自分の涙を見ないように、顔を上に向けた。
「…大丈夫」
自分が落ち着くいつもの言葉。
それでもしんどくて、いくつも涙が落ちていった。
空中をつかむ。
手に入れたいものを全部取り落としている気がしていた。
fin.
【七色】
七色に混ざれない色は、どうなるのだろう。
無数に色は存在する。
彩度が高い色から、低い色まで。
明度が高い色まで、低い色まで。
無数に存在するのに。
初めからないみたいに扱われる。
【記憶】
一回目は記憶がなかった。
二回目は少し周りを見れるようになった。
三回目は今まで見たことのないものを見た。
四回目は自分史上最高だった。
まだ、頂点には立てない。
【もう二度と】
「もう二度と、出られないんですよね」
「出れないわけじゃないけどね」
嬉しいことのはずなのに、ひどく悔しそうな顔だった。
「楽しかったね」
「楽しかったです、ほんとに」
楽しそうに笑っていた姿が印象的だった。
「あなたすごい楽しそうだったね」
「最高でしたよ」
隣の彼は、緊張も感じていないようだった。
羨ましいと思う反面、頼もしかった。
「解放されたって思うんですかね、みんなは」
「そうだろうね」
遠い夢に向かっているのか、追いかけられているのか。
毎年わからなくなる。
「今年も、ありがとうございました。僕のわがままに付き合ってもらって」
「こちらこそありがとう」
彼と一緒にやってきてよかった、と強く思った。
fin.