【もう二度と】
「もう二度と、出られないんですよね」
「出れないわけじゃないけどね」
嬉しいことのはずなのに、ひどく悔しそうな顔だった。
「楽しかったね」
「楽しかったです、ほんとに」
楽しそうに笑っていた姿が印象的だった。
「あなたすごい楽しそうだったね」
「最高でしたよ」
隣の彼は、緊張も感じていないようだった。
羨ましいと思う反面、頼もしかった。
「解放されたって思うんですかね、みんなは」
「そうだろうね」
遠い夢に向かっているのか、追いかけられているのか。
毎年わからなくなる。
「今年も、ありがとうございました。僕のわがままに付き合ってもらって」
「こちらこそありがとう」
彼と一緒にやってきてよかった、と強く思った。
fin.
【曇り】
"曇天"
ちょっと響きが悲しすぎない?
重すぎない?
【bye bye…】
さよならが多いこの時期。
上手くさよならを言うのが苦手だ。
自分のことなんてと思って、さよならを言えなくなる。
大好きだった部活の先輩。
「ご卒業おめでとうございます」も言えずに、教室を眺めた。
最後に見たのは、卒業式の行進。
少し涙ぐんで歩く姿に、もらい泣きしそうになった。
また会えたらいいけど。
幸せに生きてたらいいけど。
大好きでしたよ、先輩。
【君と見た景色】
「ほんとに、いいんですか」
「いいよ。出たいなら、出ようよ」
「納得できる勝ち方じゃなかったんです」
無意識に言葉が零れた。
今まで封印していた気持ち。
でも、耐えられなかった。
まだまだ若く、実績もない僕たちが勝っていいわけなかった。
「じゃあ出よう」
「出ます。…でも、これが最後」
「わかった」
やっと決断できた。
目標が決まれば、それを達成する道筋が見える。
あとはその道を走り続けるだけ。
勝てなくてもいい。
報われなくてもいい。
それでもいいから、去年の僕たちよりふさわしい人達が頂点に立ってほしい。
そして、僕たちも頂点に立てるような人物になって見せる。
そう気持ちを新たにして、前を向いた。
fin.
【手を繋いで】
ふわりと柔らかく笑う姿が忘れられなかった。
「好きです」
空気に溶ける。
手を繋ぐことすらできなかった。
キスなんてなおさら。
あーあ、時間が流れる。