【願いが1つ叶うならば】
星に願いをこめる。
"何も変わりませんように"
いつもの"日常"が壊れるのが怖い。
それなら、何も変わらなくたっていい。
ずっとこの場所にとどまっていたい。
立ち止まりそうだ。
【嗚呼】
「あーあ」
「どうしたの?」
「消えちゃえばいいのに」
「…なにが?」
「………数学」
「はははっ!なにそれ」
「お母さんに点数見せれないんだけど…」
fin.
【風が運ぶもの】
菜の花が咲いていた。
黄色く静かに咲く花。
相変わらず美しくて、思わず春の歌を口ずさんだ。
自転車で風を切る身体が、少し暖かく感じた。
風が、春を運ぶ。
【question】
夜の記憶がない日がたまにある。
ご飯を食べてお風呂に入れば、そこからの記憶がない。
でも、目覚めたときにはベッドにいる。
寝た記憶がないのに。
着ていたはずの服が変わっていたり、物の配置が変わっていたりした。
さすがに恐ろしくなって、起きているように努力もしてみた。
それでもいつの間にかベッドで眠っていて、朝が来ているだけ。
朝焼けを眺めながら、ため息をついた日のことは忘れられない。
「どうしたらいいんだろう…」
ずっと頭の中にある可能性があった。
それだとすれば、すべての辻褄が合う。
認められないのは、怖いからだろうか。
目を背けたいからだろうか、自分自身が。
「自分って、なに…?」
fin.
【約束】
「勝ちたい」
彼の目に映っていたのは、常に今じゃなくて未来だった。
立ち止まっている瞬間はなく、走り続ける。
「勝ちたいね」
去年の今頃、『僕らなら勝てます』と言い切った彼についてきた。
いや、喰らいついてきた。
誰よりも前のめりで、変革を怖がらない彼に。
「誰も見たことない景色見よう」
自らがヒールになることにもなんの躊躇いもなかった。
どこまでも孤独で孤高だった。
誰にも止められなかった。
彼にとって唯一無二で、証明だったのだと思う。
「どんな景色なんだろうね」
緊張で強張った顔が和らいだ気がした。
fin.