【あなたは誰】
見覚えのある男の顔と目が合った。
ただただ嫌な予感がする。
目がそらせない。
手に力が入る。
生唾を飲み込む。
逃げたいのに、足がすくむ。
金縛りのように、全身が動かない。
いつまでこのままなのか。
思考が凍りつきそうになったころ。
にやり、と男の口角が上がって、膝から崩れ落ちた。
何が起きたかすら分からず、まばたきだけ繰り返す。
こちらに向かってくる足音に、身体がガタガタ震え始める。
トン、と靴が視界に入ったのを合図にして、抗いようのない恐怖の海に沈んでいった。
「…あーあ、残念。もうちょっと、だったのに」
fin.
【輝き】
輝きが見出だせなくなったのはいつからだろうか。
きらきら光る街に、どこかどす黒い闇を感じるように
なって煌めきを感じなくなった。
新しいことに恐怖しか感じなくなって、避けることが
多くなった。
どんどん悪くなる現実から逃げるようにインターネットにのめりこんだ。
日々の中に、輝きなんてあるのかな。
【時間よ止まれ】
家は出るしかない。
でも、学校に行くまでの時間が嫌でたまらない。
家から出て、学校に行くまでの時間が
止まればいいのに。
【君の声がする】
『恋慕』
「僕のこと、好き、ですか」
「好きだよ」
自分から聞いておいて、真っ赤に頬を染める。
「どしたの、不安になった?」
「…ちょっとだけ」
「好きだから、こういうことしてるんだよ」
ベットの上でも隣にいる。
こんなに隣にいたら、いつか一つになってしまうのではないかと思う。
「そうですよね」
「なんかあった?」
口が開きかけて、また閉じる。
話すのをためらっているのがわかる。
「…話したくない?」
「…言葉、見つからなくて」
なんかあると思うんですけどね、ともどかしそうにつぶやく。
「いつでもいいからね」
fin.
【ありがとう】
「ありがとうね」
隣の彼にゆっくりつぶやく。
「なにがですか?」
「まぁ、いろんなこと」
「僕のほうこそありがとうですよ」
合った目線が何よりもあたたかかった。
fin.