【やさしい嘘】
耐えられなかった。
「嫌いだよね」
「いなかったらいいのに」
顔も知らない誰かを非難する言葉たち。
「私は好きだけどな」
誰かもわからないのに、つい言っしまった。
fin.
【あなたへの贈り物】
これが好きかなって。
これが喜んでくれるかなって。
そうしている時間が一番楽しい。
そして、あなたの笑顔が見られたら一番嬉しい。
【羅針盤】
羅針盤は、人々が進むべき道を表すものだ。
それがないと、どちらに進んだらいいのかわからなくなる。
進む道は自分では決めづらい。
誰かに決めてもらうのは楽だ。
責任をもたなくていいから。
【明日に向かって歩く、でも】
家に帰る。
制服を脱ぐ。
机に向かう。
教科書を開く。
ノートを開く。
シャーペンを握る。
文字をさらさらと書く。
真っ白だったノートが黒くなっていく。
ーーそんな夢を見た。
fin.
【風のいたずら】
見てるだけでいい。
その気持ちが崩れたのは、いつのことだったか。
目の前の人を笑顔にすることだけを考えて、自分の評価も気にしない彼を手に入れたい、と思ったのはいつだったか。
僕の気持ちに気づいてほしい、と。
いつの間にか、そう思っていた。
そしてそれと同時に、彼女の影を感じたのはいつだったか。
怖いぐらい唐突に、女の存在に気づいた。
好きだ、と気づくのとだめだ、と自制するのがほぼ同時だった。
無意識に、好きになっちゃだめだと思っていた。
目で追っても、見てて欲しくても。
絶対にそんなことなるわけないって、無理矢理押さえつけていた。
だから、彼女をつくった。
好きになってしまった気持ちを忘れるため。
ただそれでも忘れられなくて、どうしようもない痛みだけが胸の中にあった。
fin.