【柔らかい雨】
私は、傘を持つのが苦手だ。
折りたたみ傘をかばんに一つ入れるのすら苦手だ。
すぐなくしてしまいそうな気がするから。
傘のいらない柔らかい雨なら、喜んで濡れて帰るのに。
そう思いながら、今日もかばんに折りたたみ傘を忍ばせている。
fin.
【一筋の光】
変わらない日々に嫌気が差す。
毎日学校へ行って、ただ授業を受けて帰る。
話す友達もいないし、一生懸命になれる部活もない。
青春も人生も無駄にするのだと思っていた。
どんよりした今にも雨が降りそうな空のようだった。
何気なくスクロールしていたスマホの画面。
あるクリエイターさんの動画を見た瞬間、一筋の光が差した。
短い時間で人の心を掴み、記憶に残る。
明るい口調と表情の裏には、きっと血の滲むような努力がある。
そのことに気づいて息が止まりそうになった。
人生を無駄にしている場合じゃない。
この人みたいになりたい。
暖かい布団を抜け出して、明るく電気をつける。
勉強机の上を綺麗にして、教科書を広げる。
シャーペンを持って手を動かせば、
見えない未来に向かって手を伸ばし始めた。
fin.
【哀愁を誘う】
哀愁を誘うもの
地平線に沈む夕日
ツタに覆われた廃屋
稲刈りが終わった田
過去の教科書とノート
先輩を追いかける新人
過ぎていく季節
真っ赤に咲く彼岸花
風に揺れるカーテン
お揃いで買ったキーホルダー
祖父が語る戦争の記憶
大好きな人の視線の先
葉が落ちた桜の木
【鏡の中の自分】
鏡の中の私は、笑っていた。
鏡のこちら側で泣いている私を嘲笑うように。
人を下に見ることでしか優位に立てない可哀想な笑み。
しばらく見つめていると、ゆっくり唇が動く。
"消えちゃえばいいのに"
鏡の中の私は、泣いていた。
鏡のこちら側で笑っている私を憐れむように。
悲劇のヒロインぶっただけの涙。
気持ち悪い視線を向けてくるから、口パクで伝える。
"消えちゃえばいいのに"
「消えちゃえばいいのに。私なんか」
fin.
【眠りにつく前に】
眠りにつく前に思う。
明日は、今日よりもっといい日に
なったらいいなって。