【紅茶の香り】
紅茶は、大人の飲み物だと教えられた。
独特の香り、透明感のある薄茶色。
どれをとっても、僕がいつも飲んでいる麦茶とは違っていた。
大人になってからね。
母が飲む紅茶をこっそり飲もうとすると、母は決まってそう言った。
僕も、早く大人になりたいと思った。
fin.
【愛言葉】
スマホのロックを外すときは、6桁の数字を入力する。
どの数字だったっけと思う間もなく、指が勝手に動く。
今の数字は、恋人の名前を数字に直したもの。
これが、私とスマホの"愛言葉"。
fin.
【友達】
友達か? 問いかけられる 焦燥感
既読をつけたら 返さなきゃだめ?
既読をつけたら、すぐ返さなきゃって気持ちになると思います。でも、すぐ返さなきゃいけないんですかね?すぐ返す人=いい人って思ってません?すぐ返すかどうかで人の価値を決めているような、そんな空気を感じるときがあります。相手だって、後悔しない言葉を選んでいるだけかもしれません。あなたを傷つけないために。そう思ったら、待つのも苦じゃないでしょ?
【行かないで】
両親が視界から見えなくなるだけで、泣き始める子どもだったそうだ。
ほんとに困ったのよ、と母は笑って言った。
そんな私は、今彼氏に依存している。
私のことだけ見ててほしい。
他の人なんて必要ないでしょ。
あなたに愛されないと生きてる意味がない。
そう繰り返して、行かないでと縋りつく。
私のこと捨てないで、と。
あのときから、そういう意味だったのかな。
fin.
僕には明るすぎる空を見上げる。
ふわっと気持ちが上向きそうなほど、明るくて青かった。
こんなに空って青かったっけ。
記憶の中に問いかけても、こんなに青くはなかった気がする。
眺めることしかできないのがもったいないくらい。
教室の窓には、暗い僕の顔と狂気的なまでに机に向かうクラスメイトの横顔だけが映っていた。
僕だけがスポットライトから外されたように、取り残されている気がした。
このクラスメイトに混じることができれば"落ちこぼれ"じゃなくなるのかな。
それが"正しい道"なのかな。
答えのわからない迷路から出られなくなっていた。