◤みかん専門店◢
そこには各地から色んな蜜柑が集まってくる。甘い蜜柑、酸っぱい蜜柑、苦い蜜柑。そこに行けば探しの蜜柑が必ず見つかると噂の専門店だった。
その日、一人のお客さんが訪れた。そのお客さんはおばあちゃんで、優しい笑い皺が目立つ人だった。子どもの頃に食べた、甘い思い出の蜜柑を探しているようだった。地元や大きさを聞いたあと、店主が店の裏からいくつかの蜜柑を持ってきて食べさせた。お客さんは違うと言う。
店主は少しだけ悩んで、一つの蜜柑を持ってきた。それは苦くて、まだまだ若い蜜柑だった。それだと言うのに、お客さんは顔をくしゃっとさせて笑った。まるで懐かしさに浸るように目尻に涙をためながら。
ベルが鳴ってお客様が帰られると、店主は椅子に座ってコーヒーを一口飲んだ。そして、近くに置いてあったビターチョコレートを口に放り込んだ。
「苦いものを飲んだ後は、苦いものを食べても甘く感じることがあります。戦後まもないとき食べた蜜柑は信じられないほど甘かったのでしょうね」
店主は誰もいない店の中でそう呟いた。
◤勇者の裏側◢
「物資の搬入は?」
「終わってます!」
「明日の分の御者は?」
「手配しました!」
「雑魚モンスターの間引きは?」
「担当の者が現在行っております!」
「早く終わらせろ!」
これは魔王討伐の裏側で働く人たちのもう一つの物語
テーマ:もう一つの物語
◤君の香り◢
家に帰れば紅茶の香りがした。それは今日も私の心をくすぐるあの香りだった。香りを胸に沈めてカップを持つ。少しだけ渋いストレートティーはまるで私と彼の近づかぬ関係のようで心の痛みに優しく染みていく。少しずつ少しずつ重くなって、彼のようなこの紅茶を気配に感じながら一時の恋心に浸った。
明日はお見合いの日だった。
◤その果てを探して◢
どこまでも続く青い空を見上げて、その果てを探してみたくなった。
長い長い旅だった。海を渡った。色んな島に行った。知らない人々と出会った。そして別れまた進んだ。
一周して戻ってきた。空の果ては分からなかった。でも、たくさんの面白いことがあった。だからまた、海に出ようと思う。
◤日記◢
現在学校で制服の移行期間でして、冬服と夏服両方着れるんですね。しかし、今年は去年より寒くてずっと冬服を着ているので、夏服はしまってしまおうかと思っております。皆様はどうでしょうか。おそらく、何か羽織り始めていることと存じます。衣替えの思い切りがなくずるずると引き摺るのが例年の流れではあるのですが、今年は思い切ってみようかと。ということでここで一句。
秋風に 火売る夏服 衣替え
テーマ:衣替え