‐最惡‐
部屋のソファで足投げ出して
頬杖ついて退屈してる
“ご主人樣”と
飼ひ慣らされる
數字の異形ら
全てが毒し冒されて
何も麻痺して感じない
儀式のやうに仰々しく
豪奢なグラスに
アブサン注いで
角砂糖のせ火を附けよ
指さし目配せ指圖する
ゆらゆら搖れる青い炎
牀から這ひ上がり
纏はり附く蛇
抽出される
呪ひの植物苦ヨモギ
啼き交はしてゐる
つがひの鸚鵡
纏わせられた花言葉
“此の世に存在しない”
眞晝の月よ
夜中の太陽
羊の瞳
横長瞳孔
黒い流し目
撃ち墮として
此の世から
拐かしてしまはう
永遠に
‐誰にも言えない秘密‐
日曜の魔法
夢のやうに
刻は過ぎ
小雨降るなか
鐘は鳴る
かけ降り乍ら
振り向き乍ら
午前零時の
記憶喪失
‐狭い部屋‐
瞳のレンズの向かふ側
泡の上がる水音と
靜かに泳ぐわたしの古代魚
水槽前で照らされ乍ら
ミルクマグを兩手に抱へ
ぼんやり口開け眺める
年下のキミ
華奢で細いなで肩が
ダレた襟首から零れてる
白い肩に咬みついて
紅い痕を殘したら
困るだらうと意地惡したら
振り返らずに首を傾け
ココにもしてよと
要求してくる
クスクス笑ひで一枚上手
學校サボつて
いつも入り滲つてる
年下のキミ
‐これは失恋の物語、始まりは…‐
廻轉琴が掻き鳴らされる
廻る廻る運命の輪
給水塔を遙か越えて
共に作つたペンシルロケット
いつかあの星に行かうと
約束をした左の小指
こどもの約束夜空を越えて
あなたは獨り星に成つた
洋琴を奏で屆けるやうに
キーボードを叩いて彈いて
あなたが曲を奏でるやうに
わたしが謳つてあなたに傳へる
あなたはわたしの廻轉琴
わたしはあなたの自動書紀
國立博物館で待つてゐて
黒鐵天象機で夢を描いて
素敵な夜で終わりませう
眞鍮のトートロンの前で待つてゐて
雙葉鈴木龍の化石の前で待つてるわ
‐梅雨‐
硫酸の雨
亞鉛鍍鐵板の雨避け
打つて滴り流れ
煙りを出して
泣いてゐる
派手な漢字の飾燈電飾
電氣音を走らせ乍ら
ヂヂと呟き瞬いた
濕氣つたシガー
掌隱し
君のジッポで
火を燈けた
年をとらない僕の横顏
管が繋がる手首の端に
見え隱れする墨印條形碼
君の言葉を想ひ出す
雨が好きだと言つてたね