「お前さぁ、ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃねえよ」
バチバチにキレた顔で凄まれて、言い返すために用意していた言葉が咄嗟に喉の奥に落ちていった。呆然とする私に奴は言ってやったぜと言わんばかりに鼻を鳴らして背を向けて歩いていく。
その背中を見送りかけて、はっと慌てて口を開いた。
「え、私のこと可愛いと思ってんの?」
その言葉にたたんと足を縺れさせて、奴がぎょっと振り返る。相変わらずバチバチにキレた顔。けれど出てくるのは、は、なに、ば、そんな単語にもならない声と、耳まで真っ赤な色。馬鹿だ、こいつ本当に馬鹿。
何よりの答えに、思わずにーんまりと笑ったその瞬間。
「ちょ、うし、乗んなっつったろ!!!」
それはもう、バッチバチにキレた顔でそう怒鳴られた。
「ハーゲンダッツの蓋でも交換しよっか」
私達も大人になったんだからさ、とシーブリーズの蓋を交換した時と同じ顔で妻は笑った。
「あー、このまま話してても埒があかない!頭冷やしてくる!」
「はぁ!?待てよ!」
背中を追ってきた声に一瞬迷って立ち止まる。今までぎゃんぎゃん勢いをぶつけ合ってきてお互い折れなかったのだから続けたところで意味はないのに。
ぎろりと睨み付けながら振り返ると、彼もまた苛ついたような態度で立ち上がっていた。
「遅いから俺が出る。朝まで漫喫にいて帰らねえから鍵開けるなよ!」
ぽかんとする私に早口にそう言いながら、彼は私を追い越して出ていく。怒ったように「続きは明日な!」と添えるのは忘れずに。
なんと、まあ。がちゃんと玄関の施錠の音を聞きながら、溜め息を落とした。
"終わりにしよう"
「私、あの頃はあなたが好きだったの」
特別な秘密を打ち明けるような声と笑みで、俺はこの長年の想いがもう届かないことを知った。
"失恋"
ぎゅ、と抱き着けば途端に鼓動が速くなった。何ともありませんというようなしれっとした顔をしているくせに、耳は赤くて視線は絶対に合わない。
「ふふ、身体は随分正直ね」
「言い方よ」
ああ、かわいいひと。
"正直"