「あ、前髪切った」
そう隣から覗き込まれて咄嗟に「んぐ」と声が出た。突然失われた前髪について言及されただけでなく、疑問ではなく断定の形だったのがどうしようもなく悲しい。
「テレビ観てたの…」
「前髪切りながら?」
「そお…」
前髪を手で隠しながら少しでも見られないように距離を取っていると、小さな小さな声が聞こえる。
「顔、よく見えてうれしい」
ばっちり聞き取って、臓器がドッッッとなった。
"突然の別れ"
「ラブコメって主人公が好きになれるかみたいなところあるよな」
「剛田猛男好き」
「わかる」
「愛城恋太郎好き」
「あれは嫌いな奴いないだろ」
「デルウハ殿好き」
「Thisコミュのことラブコメだと思ってる読者いたんだ」
"恋物語"
「本当に私を愛してるなら一緒に死んでくれる?」
「え、いいけど今?」
「覚悟にスピード感ありすぎてこわい」
でもありがとう、と小さく言って、彼女は少し下手くそに笑った。
"愛があれば何でもできる?"
「爪、ピンクなのかわいい」
絶対青系の方が可愛かったなと思っていたのに、その言葉とちょっとだけ笑った顔で私のダスティローズは最強になった。
"後悔"
「ね、今から海行かない?」
毎朝同じ電車に乗るだけで話したこともない、隣のクラスの女子がそう声をかけてきた。胃が痛いなと思いながら下を向いていたので、まさか私だとは思わなかった。とはいえ辺りをどう見回しても彼女がまっすぐに見るのは私だけで、仕方なく自分を指差して首を傾げる。
「そ。学校サボって海って、超良くない?一緒に行こうよ」
そう言って彼女は素敵な笑顔を浮かべる。
どうして私なのか、とか今からじゃないといけないのか、とかわからないことがいくつもあった。けれど、確かに私も「超良い」気がして、少し迷って頷く。
「やった!学校とはホーム逆だから行こ!」
名前も知らない彼女は私が同行すると決まっただけで心底嬉しそうに笑って私の腕を取る。どうしてだかわからないけれど、胃の痛みは先程よりおさまっていた。
"風に身をまかせ"