「ね、今から海行かない?」
毎朝同じ電車に乗るだけで話したこともない、隣のクラスの女子がそう声をかけてきた。胃が痛いなと思いながら下を向いていたので、まさか私だとは思わなかった。とはいえ辺りをどう見回しても彼女がまっすぐに見るのは私だけで、仕方なく自分を指差して首を傾げる。
「そ。学校サボって海って、超良くない?一緒に行こうよ」
そう言って彼女は素敵な笑顔を浮かべる。
どうして私なのか、とか今からじゃないといけないのか、とかわからないことがいくつもあった。けれど、確かに私も「超良い」気がして、少し迷って頷く。
「やった!学校とはホーム逆だから行こ!」
名前も知らない彼女は私が同行すると決まっただけで心底嬉しそうに笑って私の腕を取る。どうしてだかわからないけれど、胃の痛みは先程よりおさまっていた。
"風に身をまかせ"
5/15/2024, 3:52:02 AM