「来年も、一緒に来られたらいいっすね」
祈るようにそう言えば、一学年上の先輩は「そうだね」と何も考えていないような声で返す。何で俺がそう言うのか、来年の今頃はもう卒業してるあんたはわかってんのかなぁ。
"一年後"
「好きな子誰?」と友達に聞かれて、成る程普通は好きな子がいるものなんだなと初めて知った。結局、私は皆と話すために当時別に好きでもなんでもなかった子を好きだという設定にした。あの頃は好きでもなんでもなかったのに恋ばなになる度に持ち出して…失礼極まりなかったなと今更ながらにそう思う。
「だから、あの頃はごめんね?」
「それ結婚記念日に言う?」
"初恋の日"
「GW、あれやろうこれやろうって思ってたのに結局何もしないまま終わってたんだよね」
「まあ、そんなもんじゃない?」
「私多分明日世界が終わるとわかってても、あれやろうこれやろうって思いながら何もせず死ぬんだろうなって思った」
「…人生だいたいそんなもんだよ」
"明日世界が終わるなら"
「今日は一緒に帰るんだからね」
「…うん」
「アイス、一緒に食べに行くんだからね」
「…わかってるよ」
「教室で待っててよ!迎えに行くからね!」
最後にぎゅっと手を強く強く握って、彼女はふたつ隣の教室に走っていく。昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るなか、自分の教室に入るでもなくその姿を見送っているとふいに彼女が振り返った。
「また放課後ね!」
念を押すように言われて、なんだか笑ってしまう。前みたいに早退、出来なくなったなぁ。
"君と出逢って"
遠くでバイクのエンジン音が聞こえた気がして、ふと外に意識が向く。いや、バイクが走ってること自体は珍しくないけれど、近付いてくる音がどうにも聞き覚えがあるような気がしてならなかった。
瞬間、ぴんぽんとスマホがメッセージを受信した音を立てる。
『まだ起きてる?』
届いたそれにハッとしてカーテンを開けて窓を覗く。家の前にいる人影を見たその瞬間、画面がメッセージから電話に切り替わった。慌てて通話を押せば、時間帯を気にした絞られた笑い声がくつくつ聞こえる。
「急にごめん、どうしても会いたくて…。ね、ちょっとだけ抜けて来られない?」
電話口の台詞と同じように、彼がひらひらと2階にいる私に手を振った。
"耳を澄ますと"